備前國
・備前国
備前国の風俗上下ともに利根也。
(備前の国の風俗は上も下も利発である)
故に利根を先として万事執行うに仍て、言行の相違すること十に五つ六つ如斯。
(故に何事においても賢さで押し通そうとするので、言行が十に五つ、六つは食い違ってくる)
別而諂う心強くして、上に翫う所の儀をば善悪邪正を不撰してすき好む如くにもてなし、内心は佞を含みて、誹謗すること
(しかし諂う心が強く、上には善悪・正不正に関係なく擦り寄り、さも好意的のような態度だが、実のところご機嫌取りであり、そのために人の悪口を言う。
主は被官を威を以て是を抑えんとし、被官は主に従う如くなれども、甞而内心不快して、善と見ゆるといえども、其善不積して名利の為になす処多し。
(これに対し主人は威厳を以て家臣を抑えようとするが、家臣は主人に従うように見せつつ軽んじており、内心に不満が有って、善行に見えたとしても、その善行は積み重ならず名誉・利益の為に行っていることが多い)
譬ば芸術を執行うに、十人か九人善悪に不構、其事を成就せしめて、是を朋友の於前に我一人の様にふけらかして、而も其奥意の至公成る所は夢にたに不知して如斯にもてなし、
(例えば、武芸兵術を執り行う時十人が九人は善悪に構わずに行いそれを成功させ、友人の前で自分一人の成果であるかのように吹聴し、しかもその奥義に至る部分は夢にも知らないのにそんな態度である。)
或は武の用る兵器兵書を飾り立て、心掛の深き侍と人に用られん事を好む風儀都而皆如此して、寔に名利に繋がれ、実を失い、虚を振る舞い、不及是非。
(あるいは武に用いる兵器兵書を飾り立て、心掛けの深い侍であると思われることを好む風儀、全部が皆そんな風で、実に名利に繋がれ、実を失い、虚を振る舞い、是非にも及ばない)
雖然不知不学不志の人にたくらえて是を見る則は、事理ともにはるばる上なり。
(それでも知らず、学ばず、志さぬ人と比べてこれを見たならば、道理とともによほど上である)
若し能き人有て、是気質を離るる工夫を為さしめば、百人にして一二人も其処に可隨か。
(もしも有能な人が居て、この気質を離す工夫をしたならば、百人に一人二人はそれに付いてくるか?)
多くは諂い有て智ある国風なれば、五十年にも及びなば、其風儀直になるべきか。
(多くが追従しがちで、智恵が有る国だから、五十年も続ければそのような風儀も真っ直ぐになるだろうか?)
不好風儀なり。
(好ましくない風儀である。)
・超意訳
備前の国の人は皆賢い。
だが何事も才走ってやろうとするから、言う事やる事がよくチグハグになる。
あとゴマすりが酷い、上司には取り敢えず媚を売り、機嫌を取って、自分に都合のいい事を言う。
それを上司は止めさせようとするが、部下は従うふりをしつつ裏で上司を馬鹿にして愚痴を言う。
善行なんて見せかけで、名誉と利益しか考えてない。
例えば武芸兵術を披露するにも、成功すれば何しても良いと考えている風で、『成功させた俺スゴイ』と誰彼無しに吹聴するが、実は奥義の『お』の字すら知ってない。
あるいは、兵器兵書を綺麗に飾って、『侍の心構えを忘れない俺スゴイ』と思われたくて仕方がない。
名誉と利益しか考えず、誠実であることを忘れ、空虚な振る舞い、どうしようもないな。
それでも何も知らず、何も学ばず、何も志さない人に比べれば、まだまだマシな部類だろう。
もしも有能な人が工夫すれば、百人に一人二人は良くなるかな?
頭は良いし、追従しがちだから工夫を続ければ五十年後には良くなるかな?
好きになれんな、この国。
・私評
播磨に通じるところがあるが、作者にとっては備前の方がより残念感が強いようだ。
叩きながらも随所で『利根』・『智ある』と『頭は良いんだ』と言っているから、確かに頭は良いのだろう。
尊大というかナルシストな感じだろうか。
部下のゴマすりを止めさせようとしてるから、上司はあまり悪くないな。
しかしながら、『不知不学不志の人』ってどこの誰だろう?
・一言要約
俺スゴイ!




