越後國
・越後国
越後国の風俗千人が九百人、人に負る事を嫌て、勝つ事を好み、仮初にも勇を嗜み、痛きと云事はかゆきと云。
(越後の国の人は千人に九百人は、勝つ事が好きで負ける事を嫌い、表面上だけでも勇ましくあろうとし、【痛い】事は【かゆい】という)
途中にて蹴躓きて倒れ痛むといえども、痛きと云うことを不云して意得たり、餓鬼目などど幼き者の育ちにも教る風俗にして、差し掛かりたる意地多く、後道の締まりを不考人多し。
(道で蹴躓いて倒れ痛むとしても、【痛い】などと言わないよう心得ており、そんなことは見苦しいと子供を教育する。その場を凌ごうとする意地が多く、後々の事を考えない人が多い)
さるに因て臆する気の人寡くして、差し掛かりたる分別のみにして、義理の心強く、主は被官を哀み、被官は主を頼み、意地暉麗なれども、物の理に至る人鮮くして、其執行の道に趣く人無之と見えたり。
(そのために臆病な人は少なく、その場を凌ぐ分別のみがあり、義理堅く、主は被官を可愛がり、被官は主を頼みにし、美しい意地ではあるが、物の理を理解する人は少なく、それを実行せんとする人はまず居ない)
故に名人と名を呼人少なかるべし。
(だから名人と呼べる人は少ない)
さる程に勝ことを好む時は、必我が非を不知者也。
(それ程に勝つ事を好む時は、必ず自分の非を知らない者である)
唯我善悪を知て道理に従う志あらば、無双国の風俗なるべきに尤残り多きことなり。
(ただ、自らの善悪を知って道理に従う志があれば、無双国となるのに、とても残念である)
・超意訳
越後の人は大半が負けず嫌いで、強がって痛い事をかゆいと言う
道で蹴躓いてケガをしても、決して痛いなどとは言わず、そんなことは言うなと子供に教育するほどである。
強がるもいいけど、後々の事を全然考えてない。
臆病ではなく、義理堅く、主従の信頼は厚く、信念強いけど道理を理解して実行する人はまず居ない。
だから、名人なんてほとんど居ない。
強がる奴は自分の悪い所が分かってない。
善悪を知り、道理を弁えればもっと良い国になるだろうに残念だ。
・私評
相変わらず作者は褒めているようで貶すという器用な事をする。
…人国記を読むと『名人なんて全然いない』ようなことが書かれているが、では名人はどこにいるのだろうか?
・一言要約
強がりな人々




