越中國
・越中国
越中国の風俗陰気の内に智あり、勇あり、佞なる処多し。
(越中の人は根暗だけど智恵が有り、勇気があり、佞たところが多い)
人と物を約するにも、親は子の云う事に一言の内にも質を取り、子は親の言葉を質にして、譬ば親の利物を機嫌を以て是を取り、親死する後には是家督親の譲などと佞を作る事士農工商皆此風儀にして、親子夫婦兄弟朋友交りにも卒爾にして、底意に卒爾なることなきなり。
(人と何か約束する時も、親は子が何か云うたびに言質を取り、子は親の言葉に言質を取り、例えば親の機嫌を取って資産を貰い、親が死んだ後には『コレが家督を譲って貰った証だと』言いまわるような事を誰しもが行う。親子兄弟朋友の間でも突如そんな振る舞いをするが、本人の本心では突如ではない)
さるに因て毎物大事にして、大事を破る。
(だから、全ての物を大事にしようとして、肝心の物を失う)
軍に逢う時も智謀を以て敵を取いしかんとのみ工夫するといえども、人の気を知る事あたわざるべきは其智の不足ことを不知して、人に勝つことを邪佞を以て成りかたかるべきなり。
(敵軍と遭遇した時も策略を以て敵を破ろうと工夫するが、人の心中を知ることが出来ていないので、智恵が不足していることを知らず、卑怯な手ですら相手に勝つのが難しい)
如斯の風俗都而我にほこる意地あり。
(そのような風俗ではあるが、全般的に誇り高い意地がある)
勇気甚けわしき故なり。
(それは非常に激しい勇気があるからである)
雖然臨時不厭死。
(だから時には死すら厭わない)
・超意訳
越中の人は根暗だけど智恵が有って、勇気が有る。
でも素直じゃない。
親子でも約束事に言質を取り、例えば生前に親の機嫌を取って譲って貰ったものを死後『コレが家督相続の証拠だ』と捲し立てる。
周囲にとっては急で付いて行けない事も、本人の中では至極当然の成り行きなのである。
色々大事にしているつもりなんだろうが、一番大事な物が分からないらしい。
戦いのときも策略で以て勝とうとするが、相手の気持ちが分からないから、卑怯な手を使ってすら勝つのが難しい。
そんな風だが誇り高いところもあるから、死すら厭わぬ勇気を出す時がある。
・私評
好い風に捉えると不器用ってことなのかな
何かを拗らせているようにも見えなくも無いが
・一言要約
大事な物が分かってない




