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人国記を読む  作者: 三河
北陸道7ヶ国
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越前國

越前国は今の福井県東部地域です。

挿絵(By みてみん)

越前(えちぜん)

越前の国の風俗日本に無双の智恵国と覚たり。

(越前の国の風俗は日本に二つとない智恵の有る国である)


是上臈より下臈に至る迄、他の国に合ってして見る時、如此弁舌尾州にも劣るましき国なり。

(この点は全ての階層に渡り、他の国に合わせてみれば、その弁舌の巧みさは尾張の国にも劣らない)


さるによって高慢にして、底意地悪敷、軽薄に有之、一旦頼もしきようにて、詰る処つれなく、譬ば人を過り走り入て頼む時は心安く請合て、詮議頻りなる時はつれなく突放

(それだからかして高慢で、底意地が悪く、軽薄で、一見頼もしいようでも、その実冷淡で、例えば人が急いで頼みにしてくる時は気安く請け負っておきながら、話し合いが進まなくなると冷淡にも突き放す。)


或は旅人の渡りに舟を求れば、あたいの甲乙に因て舟を不渡。

(あるいは旅人が川を船で渡りたいと求めると、対価の高低によって舟渡りさせなかったりする)


亦は執行者の行暮て宿を求めるにも余国に違て万事つれなし。

(または修行僧が日が暮れて宿を求めても、他の国と違って全体的に冷淡な対応をする)


如此なる作法百人に四五十人如此なり。

(百人に四十~五十人はそのような振る舞いをする)


智有て智を発して、諸事に闇きことなく、弁するを本智とす。

(智恵が有り、その智を広め、何事にも詳しく、解説できるのが本当の智恵である)


是国の人は智有て、邪智多くして儀鮮し。

(この国の人は智恵が有りながら、悪知恵が働かせることが多く、義がほとんどない)


・超意訳

越前国は天下無双の知恵者揃いである。

誰も彼も知恵が働き、弁舌の巧みさは尾張にも劣らない。

だがね、なまじ知恵が回るから傲慢で底意地が悪く軽薄で冷淡な連中だよ。

その知恵を頼りにする人が来ても、その場では安請け合いしておきながら、手に負えないと判断するや知らんふりする。

旅人が川を舟で渡ろうとすると、足元みて渡し賃を吹っ掛ける。

修行僧が旅の宿を求めてもその扱いが冷たい事ったらない。

半分の人はそんな振る舞いをするね。

人の役に立ってこそ本当の智恵なんだが、この国の人の智恵はどちらかって言うと悪知恵だね。


・私評

『無双の智恵』という皮肉を込めた一節である。

よほど冷たい目に合ったんだろうか、近江国に通じるものがある。

・一言要約

天下無双の悪知恵者

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