陸奥國
・陸奥国
一.
陸奥国の風俗は日本の偏鄙なる故に、人の気の行き詰りて、気質のかたよりその尖なること万丈の岩壁を見るかの如にして、邂逅道理を知るといえども、改めて非を知ると云事なく、たとえ知といえども、改めて非を知ると云うこと少なく、たとえ知るといえども、江の水の流なくて、塵芥の積りて清る事なきか如し。
(陸奥国は日本の辺境の地だから、人の気も重苦しく、強情に偏り、断崖絶壁に相対しているかのようで、人に会えば道理を知ると言っても改めて非を知るという事は無く、たとえ元から道理を知っていても改めて非を知るという事は少なく、まるで川の水の流れが無くてゴミが溜まり清くないかのようである)
さるほどに名人の名を呼ぶ程の人は不得聞也。
(であるからして名人と呼ばれる程の人は聞いたことが無い)
末代以如此なるべし。
(世も末とはこのことである)
右の如くの気質故、頼母敷ありて亦情けなき風俗なり。
(そんな風な気質だから、頼もしい所もあるがまた情けなくもある)
五十四郡の内いづれにも二つ三つに少つ、風俗分かれたれとも、大枢に替わることなく如此。
(五十四郡の中で風俗も2~3に分かれるが、だいたい変りはない)
一.
この国の人は日の本の故にや、色白くして眼色青き事多し。
(この国の人は日本なのに、色白で碧眼な事が多い)
人の形像最卑しうして、物言卑劣なれども、勇気の正しきこと日本に可劣国とも不被思也。
(人の振る舞いはとても卑しく、話す言葉も汚らしいが、勇気の正しい事は日本のどの国にも劣らないと思う)
因玆為朋友無益討果、主君へ忠を忘、父母へ考を忘れなとする類不知其数。
(利益なくとも友の為に討ち果たし、主君への忠義を忘れても父母への考を忘れない等の類は数知れず)
雖然男子上下ともに勇を以て本とする所なれば、偏鄙偏屈なりといえども、潔き意地あって恥を知故、是を善とす。
(だからかして、男子は上も下も勇気が大事とするから、辺境で偏屈といえども、潔いところがあり恥を知っている。これは善い事だ)
一.
女の風俗色白、髪長くして、その顔色を麗しきといえども、その形像音声更に述するに不及して悪きなり。
(女性は色白で髪が長く、美しい顔をしているが、その振る舞いや話し言葉は書くまでもなく悪い)
此国の上臈と上方の下臈女房とその甲乙を云うに、上方の下臈女房にも嘗不及也。
(この国の上流女性と上方の下流女性を比べようにも、上方の下流女性にも及ばない)
然ども心底はやさしく、情ありて、気の正き事も上方の男よりもはるばる上也。
(しかし、心根は優しく、情があり、気立てもよく、上方の男よりも余程か上である)
一.
惣面此国、出羽・上総・下総・常陸・上野・下野の類大形は人の音声上拍子也。
(全体的にこの国、出羽・上総・下総・常陸・上野・下野の人は思ったことをそのまま話す)
然る故に心に佞なる事なくて、差当る所の儀のみ大形に勤ると可知。
(だからしてへりくだる事が無く、深い思慮が不要な場面でのみ何とか勤まると知っておこう)
然る故に毎物至って思案工夫分別すること鮮きこと、千人に九百人如此なり。
(何事にも考えたり、工夫したり、分別したりすることが稀で、千人に九百人はそんな風である)
若また知有て気質の変を去らんと志し勤人ありといえども、その理の内の陽を取て以て是を用なす故に何事も強身なり。
(若くまた知恵が有って気質を変えようと志す人が居ても、その気質の中の善い所を取り去らないといけなくなってしまう、どんな事も長所になり得る)
取分て、牡鹿・郡我・鹿角・階上・津軽・宇多郡の人は兎角、粗忽あらましなる風俗なり。
(特に宮城県沿岸部と青森県西部はとにかく粗忽者である)
・超意訳
陸奥国は日本の果てだからかして、そこに住む人も気詰まりしてて、岩壁みたいに強情
道理とか理非とか関係なく頑としていて、ごみ溜めみたいなところだよ
当然名人なんかいるわけない、地の果ては世の果てさ
頼もしい所もあるんだけど、なんだか情けなくなってくる
一言で陸奥国と言っても広いけど、どこもこんな感じだよ
この国の人は日本人にしては色白で碧眼の人が多い
所作・仕草・言葉遣いはいかにもド田舎で品が無いが、勇敢だなぁとは思うよ
例えば、友の為に敵を討ったり、主君の忠より父母の考を大事にしたり色々話は聞く
ド田舎だけど潔いところが有って好いよね
女性は色白で髪が長くて美人なんだけど所作や言葉使いがとても残念
上方の女性とは比べるまでもない
それでも心根は優しく気立ても良いから、上方の男と比べると余程良いよ
陸奥もそうだけど東北は全般に思ったことを話す。
邪な考えはしないけど、腹の探り合いには向かないよ
深く考えたり工夫するのは苦手だけど、それが陸奥人の良い所でもあるから難しいね
一部地域はもの凄く粗忽者だよ
・私評
…………………長いよ!多い!
まぁ普通の国よりも大きいから仕方がないけどさ
あと言い回しが分かりにくい
『邂逅道理を知るといえども、改めて非を知ると云事なく、たとえ知といえども、改めて非を知ると云うこと少なく』何を知ってるのか知らんのか、どっちなんだよ
『上拍子』ってなんだ、『上の拍子』…意味わからん
『その理の内の陽を取て以て是を用なす故に何事も強身なり。』何をどうした結果強みになるのさ、もうわけわからんわ!
今までで一番疲れた…
まぁ取り敢えず、上方の作者にとって陸奥は哀れな田舎なのね
・一言要約
日本のどん詰まり




