信濃國
・信濃国
信濃国の風俗は武士の風俗天下一也。
(信濃の国の武士は天下一である)
最百姓町人の風儀もその律儀なる事、伊賀伊勢志摩の風俗に五畿内を添えたるよりは猶も上也。
(百姓・町人の品行もその律儀な事、伊賀伊勢志摩に五畿内を加えたよりもさらに上である)
所以者義理強くして、臆することなく、百人に九十人は健儀なり。
(だから、人の義理に厚くて臆することなく、百人に九十人は見事な心掛けを持ち合わせている)
たまたま臆病なる者ありといえども、夫も他国の如形の人と云程にて有之て、たまたまの物語にも強云之比興之事は無之。
(まれに臆病な者が居るとは言っても、それも他国の普通の人程度にはあって、たまたまの物語においても強く云い、卑怯な事は無い)
若し比興之事を述べ亦なす則は、人皆是を悪て不交故に、柔弱之人も後には義理を知りて国風となるなり。
(もしも卑怯な事を述べまた行ったときは、人は皆これを悪として交流しなくなるから、柔弱な人も後で義理を知るようになる国風である)
都而智恵も余国よりは優れたり。
(あらゆる知恵も他国より優れている)
然ども偏鄙の国なる故に、かたくえなき事も多しといえども、善十にして悪一二の風俗なり。
(しかしながら、辺鄙な国であるため、頑固なところも多いが、善を十とするならば悪は一・二くらいの風俗である)
・超意訳
信濃の武士は天下一。
百姓や町人ですら品行方正で、もう他の国とは比べ物にならないよ、レベルが違う。
臆病な人も居るが他の国の一般人程度であり、例え話の中ですら卑怯な事は言わない。
もしも卑怯な事をしたら仲間外れにされるから、どんな人も義理堅くなる。
頭も良くて、他国の追随を許さないね。
山奥だから頑固な人も多いけど、信濃は本当に善い国だよ。
・私評
他国の酷評はどこへやら、まるで掌返し、褒め過ぎていて気味が悪いほどである。
この絶賛が作者の出身地は信濃ではないかと謂われる所以である。
一言要約
信濃国は天下一




