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人国記を読む  作者: 三河
畿内5ヶ国
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大和國

大和国は今の奈良県です。

挿絵(By みてみん)

大和やまと

大和国の風俗表郡は人の気大形名利を好むもの多し。

(大和の国の中心部の人は基本的に名誉・利益を好む者が多い)


奥郡の者は隠る気有る之。

(田舎の方の人は引き籠り気質である)


蓋し此国の人は大体山城の国人に風俗似たる処多し。

(思うにこの国の人は山城の国の人に似ているところが多い)


昔日王城の地となるか故に、その風俗漸く似たる所多しといえども、山城の国より人の気少し尖なる所あり。

(昔は王城の地だったから似ているところが多いのであろうが、山城の人よりも少し血の気が多い)


雖然表郡者名利にかかわる人多くして、常々詞に偽を巧みにして、上分は巧すくなうして名を挙ん事を願に、下劣は於言句の下に而偽を述て両舌を吐く風俗也。

(中心部の人は名誉・利益を重視する人が多く、言うことにいつも偽りがあり、上役は少ない功績で名を上げる事を願い、下劣な言葉で嘘をつき二枚舌を使う)


若これ国の人を味方に従はしむるには、讒者を以て人の気を可分。

(もしもこの国の人を味方につけようとするならば、嘘つきを送り込めば二分することが出来る)


名利深き則は、速に分つ。

(名利に欲深いから、早々に分かれる)


亦奥郡の人は隠る、気質自然と生れつきたり。

(また、田舎の人は自然と引き籠る気質である)


これは山深うして、常に人倫に交り、道理を談する人も寡ければ、自ら如此にして、道理を不知風俗なり。

(これは山深く、日常的に人と交流し、談義する人も少ないので、一人考え込んでしまい、道理を知ることがない)


自然に実を振舞う人者猶以て隠遁の気発し、世を無き物となす形儀をのみ見聞か故に、如斯の風儀多し。

(生来より誠実さのある人ほど隠れ住みたがり、世間を知らず行儀作法のみを見聞きしているからか、そのような品行が多い)


されば古より芳野山奥は人の気五畿内の人に勝れて潔き也。

(昔から吉野の山奥の人は畿内5ヶ国の人に勝る潔さがある)


雖然物の形儀を不知か故に、智あって道理に従い、謹とは無けれども、邪僻の為に驕を禁するもの故に、自らを愚なる人多し。

(智恵があって道理に従い、真面目とまでは行かなくても、邪心から驕り高ぶりをしない、にも関わらず自らを愚かだと自称する人が多いのは世間を知らぬからであろう)


若しこれを取らば、その威を仰て気を悦はしめて、我が国を全うして、国人を不労して、自らの愚を行せよ。

(もしもこの国を取ったなら、その権威によって人々を愉悦させ、国内全て人々を労働をさせず、愚かしい行為をさせよ)


さある時は、陰却而陽に変し、驕奢の気出るもの也。

(そうすれば、陰気も陽気に変わり、驕り高ぶる気も出て来るだろう)


如斯なる風俗は一国の内に分て小なり。

(それでもそのような人は一国の中でも少ない)


都而名利名聞に繋がれて、気質に勝ちたると可知也。

(全ての人が名誉・利益・体裁にとらわれたら、気質に勝る事が出来る)


千万人に一人二人は国風を忘れたる人もあり。

(千万人に一人・二人はこの国の気質を忘れる人もいる)


口伝

(他は口伝による)


・超意訳

かつて王城だったからか、大和の国の人は山城の人と似ている。

でもどこか少し野暮ったい。

中心部の人は欲深で名誉や利益を第一にして、すぐ嘘をついて誤魔化すし、二枚舌を使う。

噂話の一つも流せば、すぐに仲間割れするだろうよ。

田舎の人は引き篭もり。

人との交流が少ないからか世間知らずで、どこかずれている。

特に吉野の人はまぁまぁ善人で頭も良いのだけど、世間を知らないから自分を馬鹿だと思ってる。

基本陰気だから、陽気にさせるのはまず無理、不可能だと思ってよい。

でも極々まれに大和人らしからぬ人も出て来るよ。


・私評

表郡と奥郡の違いよ。

片や浅ましい二枚舌・片や陰気な引き籠り

しかし、どちらも中々辛辣な批評。

まだ山城の方が高評価と言えよう。

・一言要約

浅ましい表郡、引き籠りの奥郡、世間知らずの吉野

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