常陸國
・常陸國
常陸の国風俗如形不可然して、唯盗賊多して、夜討押込辻切等をして、その悪事顕れ罪科に行わるると言えども、恥辱とも且而不思。
(常陸の国の人はよろしくない。盗賊は多く、夜討押込辻切等をして、その悪事が表に出てたら罪に問われ刑罰を与えられるとしても、恥とも思わない)
結句至其子孫には病死などは不為など、一つの系図にして、盗賊するを微塵も非義非礼と云事を不知ようの風儀にて、只肝膽の間逞く生付て如此と見えたり。
(子孫には『病なんぞで死ぬのは下らない』と系図にして伝えて、盗賊するのを義理や礼儀に反していると微塵も知らないような風で、肝が逞しく出来ているように見える)
武士の風儀も是に不替して、道理を知る人少なし。
(武士の品行もこれに替わらず、道理を知っている人は少ない)
たとえ知と言えども、我意にまかせて執行故に、理に似たる無理、義に似たる不義のみ多して、さらに善しと難云。
(たとえ知っていても、我意にまかせて行うから、道理に似た無理、道義に似た不義のみが多く、さらに善いとは言い難い)
世の唱えるにも、常陸国をさして全人なき国と呼り
(世間の評判も、常陸の国を指して人でなしの国と呼ぶ)
昨日味方にて今日は敵となるの風儀は千人に一人もなし
(昨日味方で今日は敵になるようなのは千人に一人も居ない)
もし国風の垢をけつる人あらば、天下に名を呼程の者なるべし。
(もしも、この国の良くない所を改められる人が居れば、天下に名を轟かす程の者である)
・超意訳
常陸の国の人は窃盗・強盗・殺人を屁とも思っておらず、肝が据わっている。
武士も道理を弁えず、無理や不義ばかりをする。
あまりの酷さに世間では常陸の国を『人でなしの国』と呼ぶほどだ。
ただまぁ、昨日今日で裏切るようなことがまず無いのが唯一の救いだね。
もしも、この国を善く出来たら天下に名を轟かせるような人だろうよ。
・私評
伊賀国に負けず劣らずの酷評
一見常陸国の方が酷いが常陸国は治安の悪さを、伊賀国は人としての悪さを説いている。
似て非なるが、酷評に変わりはない。
・一言要約
人でなしの国




