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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第五幕】港湾都市での再会と開店
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3

 

 あれから南商店街を回り、分かったことがある。ここには日用品を売っている雑貨店がないのだ。この商店街には多くの冒険者や旅の商人達がいる。その人達の為の日用品やテント等の旅の必需品は全て商工ギルドか、流れの商人から買っている状況のようだ。なら、俺が彼等の役に立つような物を作れば売れるんじゃないかと考えた。


 しかし、荷物が増えるのは宜しくない。細々とした物は邪魔になるだけだと、ガストールが言っていたのを覚えている。ならどうしたら良いのか? 俺に出来ることはなんだ? 魔力支配の力で物を作る事ができる。魔術言語を習ったから、術式を物に刻み魔道具にすることが出来る。


 冒険者や旅人をターゲットにした魔道具を作って売るのはどうだろうか? 旅をする人にとって、一番の問題は荷物を多く持てない事だと思う。それを解消してしまえば、便利な日用品や快適に旅が出来る道具等を、買い求める人達が出るかも知れない。


 では、その問題をどう解決すればいいのか? それは子供の頃、アルクス先生に作りたいと言った“魔法の鞄”だ。まぁ、魔法ではなく魔術なのだが、とにかく物が沢山入る鞄を作ってしまえばいいんだよ。しかし、問題がある。その鞄を作るには空間魔術という、今もまだ再現できていない魔術を使わなければならないという事だ。


 空間魔術についてギルから聞いた話によると、千年前には当たり前のように使われていたらしい。よって、その術式もギルは知っているので、素材さえ集めればそんなに時間をかけずに作ることは可能だ。


 だけどそんな物作ったら、この国どころか他国にまで目をつけられる恐れがある。そうなると非常に厄介で面倒な事になってしまう。一番心配なのは、ギルとアンネが怒って暴れ出すんじゃないかって事だ。そうなったらクラリスに会わせる顔がないよ。


 穏便に済ますためには、地位の高い有力な後ろ楯が必要になってくる。そこでシャロットの父親であり、この街の領主が適任なのだが、まだどんな人物なのか分からない。シャロットの話を聞くに信用出来そうなんだけど、実際に会って話さないと最終的な判断は難しい。


 それに何時戻ってくるか分からないし、この件は後回しにするしかないな。


「ライル、考える事が多いのは分かるけど、食事中は食べるのに専念しないと駄目だよ。せっかくの食事が冷めちゃう」


 適当に目についた料理屋で、テーブルに置かれた料理を目の前に何時までも唸っている俺を見て、たまらずといった感じでエレミアに注意されてしまった。

 そうだな、食事しに来たんだから食べないと。俺は木の腕を操り、フォークを使って魚介のパスタを食べる。


 食事を済ませ店を出た後、腹ごなしにそこいらを歩きながら、これからの事についてを考えていた。先ずは何か作って、露店でも出して売っていかないと、お金が貯まらない。とにかく、店を構えるにはお金が必要なんだ。


 露店を出す場所は南商店街で良いだろう。主に冒険者や旅人をターゲットにした商品を売る。そこまでは良いとして何を売るかだな。空間魔術を施した鞄は売ったらやっぱり騒ぎになるかな?


『ここで育てた果物でも売れば良いんじゃない? エルフの里でも好評だったじゃん』


『そのままで売るのか? それでは芸が足りんな。一工夫欲しいところだ。何時もみたいに果実酒にして売れば良かろう?』


『だったら、ウイスキーやブランデーも出せば良いんじゃね? でも蜂蜜酒は駄目だかんね』


 結局酒になるのか。まぁ酒なら売れない事はないだろうけど、いくら魔力支配で発酵を促したとしても、仕込むのに時間が掛かってしまう。


「そんなにお店って必要? ギルドに持ってくだけじゃ駄目なの?」


「うん、普通に生活をしていく分にはそれで十分だと思うけど、そればかりに頼ってしまうと、足元を見られかねない。もし、ギルドが何時もより安い金額じゃないと、買い取らないと言ってきたらどうする? 他の所で同じ値段で売ろうとしても、多分無理だと思うよ。何故ならこれまでギルドが販売していたから皆安心して買っていた物が、ある日突然、知らない商人が売り出し始めると、偽物なんじゃないかと怪しまれてしまい、直ぐには利益に繋がらなくなってしまう。ギルドは依存するものではなく、利用するものだからね。店を持つということは、自分の権益を守る事に繋がると俺はそう思ってるよ」


 エレミアは眉間の皺を深くさせ、軽く唸った。


「商売って面倒なのね。それで、お店を持つにはお金が必要で、お金を稼ぐために露店を出そうとしているのよね? 商品は何にするの?」


「冒険者や旅人の為の魔道具を作ろうかと思っているんだけど、どうかな?」


 俺の言葉にエレミアは首を傾げ、何やら考え込んでいる。


「魔道具か…… 大丈夫かな? なんか魔道具って気軽に持ち運べる印象がないのよね。嵩張るし、人間にとっては高価な物なんでしょ? 冒険者達が買ってくれるのかな?」


 エレミアの言うことも、もっともだ。魔道具は基本高価な物で、冒険者は手を出しにくい。それに頑丈に作ると、その分大きくなってしまうので、嵩張ってしまう。


 なら、初めから壊れる事を前提とした魔道具を作れば良いんじゃないか? そうすれば小さく、値段も安い魔道具が出来る。何も戦闘に役立つ物じゃなければいけない、という訳ではない。火種の魔道具のように、ちょっとしたもので良いんだ。


 そうすれば、術式も単純で短いから、嵩張らないように指輪や腕輪。首飾り等の装飾品にしてしまえば荷物にならない。


 何だか見えてきたな。どんな効果にするかは、実際に冒険者達に聞いてから決めよう。そうと決まればギルドに行って、アンケート調査だ!

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