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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第五幕】港湾都市での再会と開店
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1

 

 翌日、俺達は近くの商店街へと来ていた。まだこの街に来て日が浅く、知らない事が多いので市場調査も兼ねて、色々と店を見て回ろうかと思った訳だ。


 どんな店があるのかは街に来たときにざっと見たので、ある程度は把握しているが、まだ中には入ってはいない。

 さて、どの店から見ようか。おっ! あれは鍛冶屋かな? 先ずは彼処からにしよう。


 金槌の看板が飾られている店の中に入ると、最初に目に入ってきたのは壁にずらっと飾られた剣だった。鉄製の物から魔物の素材で作られた物まで様々な剣がある。形も普通のから変わっているものまで、バリエーション豊かだね。この剣なんか刃がノコギリのようにギザギザしてるし、あの剣は剣身がグネグネと曲がっている。あれで斬れるのか? 剣だけでなく槍や槌、盾に鎧もある。武具屋って感じだな。


 そんな風にキョロキョロと眺めていたら、カウンターの奥から赤髪の坊主頭をした、いかつい体の男性が出てきた。


「おや? いらっしゃいませ。何かお探しですか?」


 見た目と反して随分と柔らかな口調だな。こういう人って怒らせると怖いというイメージをしてしまうのは俺だけだろうか?


「初めまして。行商をしているライルと申します。少しお話しを伺いたいのですが、宜しいでしょうか?」


「ああ、これはご丁寧にどうも。俺はこの鍛冶屋をやっているガンテと言います。それで話とはなんだい?」


 鍛冶屋の主人――ガンテはにこやかに微笑み、カウンターの内側にある椅子に座った。どうやら話はしてもらえるようだ。


「ここは武器や防具以外には何を売っているのですか?」


「何も。俺は武器防具しか作らないからね」


「なら、包丁や鍋などの調理道具はどうしているのですか?」


「貿易で外から来たものを買っているのが大半だね。稀に作って欲しいと頼まれることはあるけど、修理する事のほうが多いかな」


 殆どの人達が貿易品の方を買うわけか。ならいっそのこと武具だけ作成する事にしたってことか。


「この街の鍛冶屋は全部で何軒程あるんですか?」


「この街のかい? そうだね…… 俺の知っている限りでは、ここを含めて六軒ぐらいだったかな」


 う~ん、そんなもんなのか? 多いような、少ないような、微妙な数だね。この六軒全てがここと同じように武具しか作っていないのだろうか?


「君もこの街に店を構えるつもりなのかい?」


「ゆくゆくはそうしたいと考えています」


「そうか、なら個人ではなく、どこかの商会の傘下に入る事をお勧めするよ。でなければ行商を続けた方が良いかもね」


 商会? 確かに何処か大きな商会があれば、その傘下に入る事で色々とやりやすくなるだろう。しかし、ガンテの言葉は何処かの商会に入らなければ、この街で店が出せないと言っているように聞こえる。


「どう言うことですか? 店を構えるには商会に入るか、傘下になるしかないのですか?」


「いや、絶対そうしないといけない訳では無いんだよ。でもね、難しいと思うよ」


 いったい何が難しいと言うのだろうか? 未だに疑問符を頭に浮かべたままの俺を見て、ガンテは軽く息を吐き、話してくれた。


「この街の商店街は中央広場を基準にして、東西南北の四つの地区に分かれていてね。漁港と貿易港が近い東商店街は魚介類に関する店が大半で料理屋なんかも多い。街の要だから観光客も沢山訪れるよ。一般住宅街が近い西商店街は日用品等の雑貨屋が多い感じだね。服屋に魚屋、八百屋等の生活に準じた店も多いかな。高級住宅街と領主の敷地に近い北商店街は、宝石店や魔道具屋等の高級店が多い。彼処にある店は基本値段が高くなっていて、金持ち用と言ってもいいね。そして最後にここ、南商店街。この地区は冒険者ギルドと商工ギルドに近いせいか、ここら辺は冒険者と行商人のような旅をしたり、街から街へと流れていく人達が集まっていて、宿屋や酒場、露店等が多いんだよ」


 成る程、北は裕福層を、西は街の住人達を、南は冒険者を、東は観光客を、それぞれにターゲットにしているのか? うまい具合に住み分けができているようだ。


「そして、各商店街には中心となる商会が存在するんだ。牛耳っているとも言えるね。その商会に入会するか傘下に入るかしないと、商店街に店を構えるのが難しくなるんだよ」


「え? 何故ですか? 商工ギルドに申請すれば良いのでは?」


「うん、確かに君の言う通り、ギルドに申請して許可を貰うのが最低条件だよ。だけどね、店を構える場所が無いんだよ。殆どの土地がその商会が買い占めているんだ。良い場所はみんなその商会の私有地で、商会員でもなく傘下にも入ってなければ多額の賃貸料が掛かってしまうんだよ」


 なんだよそれ。それじゃあ、いい立地は全部取られていて、利用するためにはその商会にお伺いを立てなければならないのか。


「ギルドは何も言わないんですか?」


「この街に大きな影響力を持つ商会だから、ギルドも強く言えなくてね。下手をしたら街全体を敵にまわしかねないから」


 店を持つのって大変なんだな。土地と建物があればすぐに始められると思っていたけど、そう上手くは行かないみたいだ。

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