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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第四幕】ゴーレムマスターと人魚族の憂鬱
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34

 

 休憩を十分に取り、出発時刻になったので村の出入り口に向かうと、そこにはもう冒険者と兵士達が集まっていた。その中にガストール達の姿も見える。たいした怪我もせず、元気そうで何よりだ。

 俺とエレミアはシャロットと一緒に馬車に乗り、捕らえた盗賊達を入れた牢馬車を引き連れて村を出立した。


 盗賊達はこの後、街まで連れていって王都から来る司法官憲により裁かれ、犯罪奴隷として戦争の最前線に送られるか、鉱山送りになり危険度が一番高い箇所で採掘作業をやらされることになるらしい。普通は裁判を行うのだが、盗賊行為は無条件で犯罪奴隷落ちになるそうだ。


「ライルさんはお店を持ちませんの?」


 ふと、移動中の馬車の中でシャロットがそんなことを聞いてきた。


「う~ん、店を持つのもいいけど、色んな所にも行きたいんだよ」


 マナの木を植えなきゃならないしね。でも、アンネの精霊魔法があれば直ぐに戻れるよな。店を持って、新しい商品や仕入れルートを開拓するのも良いかもしれない。そうやって各所を巡って、マナの木を植えて行けば良い。しかし俺がいない間、店を閉めておくのは…… 第一、店を構えるほどの売り物って何かあったか?


「でしたら、奴隷を雇うのは如何ですか? 奴隷に店番や経営を任せて、ライルさんは各地を巡って商品を集めて、それを店でお売りになればいいのでは?」


 えぇ~、奴隷? この世界では普通なんだろうけど、どうにも抵抗があるんだよね。それにしても驚いたな、シャロットから奴隷を勧められるなんて、奴隷という制度に忌避感はないのだろうか?


「シャロットは奴隷制度には賛成なのか?」


「そうですわね。奴隷がいなければこの世界の社会は成り立たなくなりますわ。それほどまでに根強いですのよ。それに奴隷と申しましても、人権を無視したものでは御座いませんのよ」


「え? そうなの? なんか魔法的なもので行動を縛って、主人の言うことを無理矢理聞かせたりするんじゃないの?」


「ええ、わたくしも最初はそんなイメージを持っておりました。ですが、基本的にこの世界の奴隷はきちんと法律で守られております。確かに無理矢理言うことを聞かせるような魔術は御座いますわ。けれどそれは犯罪奴隷のみで、普通の奴隷には適用されません。それに、奴隷側から雇い主を訴える事も可能ですので、軽率な真似は出来ないようになっておりますの。雇い主は奴隷に衣食住の面倒をみて、契約通りの仕事を与える事が義務づけられております。奴隷商も国の審査を受けて、許可を頂いた者だけが経営できる商売でして、無許可で奴隷商をした場合は従業員も含め全員が捕縛の対象になってしまいます。それだけ厳しく取り締まっておりますの」


 へ~、奴隷と言っても結構尊重されているようだ。鞭で打たれてるイメージだったけど、それは犯罪奴隷だけらしい。それに、奴隷を“買う”ではなく“雇う”なんだね。そういう法律があるのなら奴隷を雇うのも念頭に置いてみるか。


「でもさ、領民が奴隷になっているのって、シャロットとしてはどうなの?」


「確かに良い感じはしませんわね。しかし、領民達も無理矢理に奴隷をさせられている訳では御座いません。自ら進んで奴隷になっているのです。安全にお金を稼ぐために、借金を返済するために、様々な理由で奴隷登録をなさっていますの。わたくしも奴隷制度が無くなるのなら、それに越したことは御座いませんわ。ですがその為には、それに代わる新しい制度を考えなくてはなりませんし、今すぐにはどうにもなりません」


 奴隷登録――ね。やっぱり俺の想像と大分かけ離れているようだ。この世界の奴隷制度について良く知る必要があるな。奴隷商を営んでいる所で、詳しく聞いてから判断するか。


「だいぶ思っていたのと違うみたいだね。色々と調べてから考えさせて貰うよ」


「是非、熟考なさってください。ライルさんのお店はどんな物をお売りになるのか実に興味がありますわ」


 そこが問題なんだよ。今俺が商品として売れそうなのは、酒類に調味料と蜂蜜、野菜各種だろ? あとは鉄とジャイアントセンチピードの素材で何か作るしかないよな。他の店と出来るだけ被らないようにしないと売れないし、トラブルの原因になりかねない。


 武器や防具は鍛冶屋がある。回復薬などの薬は薬屋があるし、魚屋等の魚介類を扱うのは、あの街では問題外だ。八百屋もあったし魔道具屋もあったな。屋台も沢山出ているのを見た覚えがある。蜂蜜はギルドに卸さないといけない。あれ? 今の所、酒ぐらいしか売る物がないぞ。参ったね、酒屋が出来るほど種類もないよ。店を出すにしてもお金が足りないし、まだ先の話になりそうだ。


 街に着いたら、商店街を回って調べてみるか。何か俺でも入れるぐらいの隙間があるはず。エルフの里の商品が揃うまで一月ある。それまでに店を持った時に出す商品でも考えておこう。取り敢えずはカセットタイプの魔道コンロでも作ろうかな。ガスを入れる所を魔核や魔石に代えれば便利だよね。人魚達にはアダマンタイトで作らせてもらって、一般には鉄で作ればいいか。あとは何がいいかな……


 そう思案に耽ったり、エレミア達と相談や雑談を交わし、シャロットにゴーレム作成のスタッフに勧誘されたりと街に着くまで退屈はしなかった。


「これから館に戻り、色々と手続きがありますので、わたくしはこれで失礼致します。ライルさん、エレミアさん、今回は誠に有難う御座いました。お礼はまた後日、必ず致しますわ。それではごきげんよう」


 昼過ぎに街に着き、馬車を降りた俺とエレミアにシャロットは感謝の意を示し、兵士と牢馬車を連れて去っていった。

 冒険者達も各々ギルドの方へ歩いていく。これから報酬を受け取るのだろう。俺達も宿へと足を運び、久しぶりに会う猫耳のおっさんから鍵を受け取って部屋に入った。


 ああ、疲れた。今日はこのまま宿で過ごそう。俺はギルと一緒にカセットタイプの魔動コンロの開発をしながら今日を消化していく。明日は商店街を見て回ろう、商人になったからには店のひとつは欲しくなるよね。


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