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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第四幕】ゴーレムマスターと人魚族の憂鬱
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31

 

 結局この三人組に酒を奢る羽目になり、一緒に呑んでいるとガストールが小声で話し掛けてきた。


「おい、俺に魔力念話を頼む」


 俺は指示通りガストールに魔力を繋げる。


『これでいいですか?』


『おう、右端のテーブルに一人で呑んでいる奴がいるだろ? おっと、顔は向けるな。視界の端で捉えるんだ』


 確認してみると、確かに男が一人で酒を飲んでいる。


『あの人がどうかしたんですか?』


『おそらく、あいつは盗賊の一味だな』


 はい? 盗賊の一味? なんでそんな事が分かるんだ?


『どうしてそう思うんですか? 見たところ、普通の人に見えますが?』


『おいおい、普通の奴があんなに死臭を漂わせてんのは怪しすぎるだろ? 人を襲うのは得意でも、間諜の類いは苦手らしい。ああ、くせぇくせぇ、クズの匂いと混じって鼻が曲がりそうだぜ。俺以外にも気付いている奴はいるだろうよ。これぐらい分からなければ、冒険者としては三流だぜ』


 そうなのか? 俺にはサッパリ分からん。何の特徴もない男性にしか見えないよ。冒険者としての勘ってやつなのか?


『ま、アジトの近くの村にこんだけ人が集まり出したら怪しむのも無理はねぇな。ライル、俺達はこのまま奴を見張ってっから、お嬢様への報告は頼んだぜ』


『分かりました。くれぐれも無理はしないように気を付けて下さい』


 俺達は自然な形を装い席を外して酒場から村長の家に戻り、まだ打ち合わせをしている二人にこの事を伝えた。


「やはりおりましたか、これだけ人が集まれば当然ですわね。だとすると、もう時間はありません。逃げられてしまっては困りますわ。グレアムさま、その間諜を監視して他に仲間がいれば捕らえて下さいませんか。それと今夜、作戦を実行致しましょう。今から少しずつ兵と冒険者を山に送って下さいますか」


「はっ! 了解であります!」


 グレアムは敬礼をした後、駆け足で去って行く。しかし、まだ村に来たばかりなのに、準備は出来ているのだろうか?


「大丈夫ですから、そう心配そうな顔をなさらないで下さい。準備は既に整えておりますのよ。実は一週間程前から盗賊のアジトは判明しておりましたの。彼等に気付かれないように必要な物資や馬等をこの村に集めて、後は人数さえ揃えば何時でも出撃出来るように兵士達を待機させていたのですわ。これが戦争なら奇襲などせずに使者を立てる所ですが、今回の相手は無法者です。一人も逃がしてはなりませんの」


 それからの行動は迅速に行われた。ガストール達が見張っていた人物はやはり盗賊の仲間で他にも二人いたが兵士が取り押さえ、普通の馬車に偽装した牢馬車へと入っている。その間にも少人数で時間をずらし山中へ兵と冒険者を送り続け日が暮れた頃、俺達が出発する番になった。


 馬車では目立つので用意された馬に乗って行くのだが、俺は馬には乗れないので、エレミアと二人乗りするしかなく、エレミアの後ろに乗りお互いの体を紐で縛り落ちないようする。うぅ、恥ずかしい。エレミア達を収納して空から行けば楽で早いけど、流石に人前でそこまでは出来ないしここは我慢だ。


「準備はよろしいですか? それでは参りましょう!」


 雲ひとつない晴天の夜空の下、月明かりに照らされた道をシャロットは馬を走らせ、その後を俺達がついていく。数時間後には目的の山の麓に到着し、既に待機している兵士に馬を預けてから、木が生い茂るゆるやかな斜面を歩いて盗賊のアジトへと向かう。


 山の中腹の平坦な場所に松明の灯りが見えてくる。あそこがアジトなのだろう。アジトを確認した後、そこから離れて奇襲する時間まで待機しているその間も、伝令兵は山の中を走り状況を伝えていた。


「あのさ、シャロットもゴーレムと一緒に突撃するつもりなのか?」


「そうしたいのですが、複数のゴーレムを操るのに意識を割いてしまいますので、ここで待機することになりますわね」


「そうすると中の様子が分からないんじゃないか?」


「ご心配無用ですわ。魔法のみで造ったゴーレムの見た景色は、わたくしにも伝わるようになっていますの。しかし、一度に何十体ものゴーレムの視界を見る事は出来ませんので偵察用のゴーレムを造り、それで様子を確認致しますわ」


 確か、魔法のみで造ったゴーレムは常に魔力で繋がっている状態なんだよな。だとすると、魔力念話のように視界に写る映像を受け取る事が出来る訳か。


「そろそろですわね…… ライルさん、宜しくお願い致しますわ」


「ああ、分かった」


 俺の魔力をシャロットに繋ぎ、何時でも魔力を補給出来るようにすると、シャロットがゴーレムを造り始めた。魔力が空中に集まり、何もない空間から土色の塊が出現して人の形へと変わっていく。シュバリエとは違い、全身を覆うプレートアーマーを着た人間の大人程の大きさのゴーレムだ。


「強度は鉄とほぼ同じですが、今回は質よりも量ですので悪しからず、ご了承ください。さて、いきますわよ!」


 今度は大量の魔力が放出される。魔力切れを起こさないように常に魔力を補充し続けていると、続々とゴーレムが出現していき、その数は七十体にも達した。


「凄い数だね。このゴーレム達はどのくらい持つんだ?」


「この魔力量なら一時間は持ちますわね。ライルさん、貴方のお力は素晴らしいですわ。この数で一時間なんて普通ではあり得ません。貴方はいったいどれ程の魔力をお持ちなのですか?」


「さあ? 俺も正確には把握していなくて、相当多いとしか言いようがないよ」


 マナの大木の影響か、魔力回復量が尋常じゃないから正確な魔力量が分からないんだよな。それで困った事はないので別にいいんだけどね。


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