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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第四幕】ゴーレムマスターと人魚族の憂鬱
85/812

30

 

 盗賊のアジトがある山中の廃村には約一日半掛かるらしい。でもこのまま、そこには向かわずに近くの村に寄る事になっている。当初の予定では、盗賊に勘づかれないように旅人や商人に扮した兵士や冒険者を少しずつ近くの村に集め、斥候を出して様子を伺いながら準備を整えた所で、夜中にアジトを奇襲するというものであった。


 だけど俺がいることでシャロットが造れるゴーレムの数が大幅に上がったのでそこまで人を集めなくてもよくなり、もう一度作戦を練り直さなくてはならなくなった。

 それと移動中に気づいたんだけど、カソックに似た服を着た人が数人程馬に乗っている。


「シャロット、もしかしてあの人達は神官なのか?」


「左様で御座います。わたくしの生かして捕らえ法で裁くという考えに賛同して下さった教会が協力して下さいましたの。神官達の回復魔法があれば、多少乱暴にしても治せますでしょう? これで出来るだけ多くの盗賊を生かして捕らえる事が出来ますわ」


 成る程、回復要員か。何がなんでも生かして捕らえるつもりなんだな。まぁ、好きで人なんか殺したくはないよね、それが例え大悪党でも。

 そう言えば、回復魔法は神官にしか授けて貰えないと聞いたけど、もしかして “生と死の神” が授けているのだろうか?


 ◇


 街から一日掛けて目的の村に到着すると、俺達は村長の家の客間に通された。其処には壮年の男性が一人で椅子に座っていたが、シャロットを確認すると立ち上り、見事な敬礼をする。


「お嬢様のご到着、心よりお待ちしておりました」


「ご苦労様です。楽にして頂いて結構ですわ」


「はっ! 失礼致します」


 男性は敬礼を止め、腕を後ろに組んで直立不動の姿勢をとっている。まるで軍人のようだ。


「先ずはご紹介致しますわ。この方はこの領の兵士長をしておられるグレアムさまで御座います…… グレアムさま、此方の方々はわたくしの友人であるライルさまにエレミアさまで御座いますわ。この度の盗賊退治にご協力して下さいます。それによって状況が変わりましたので、作戦の練り直しをお願いしたく存じます」


「お初にお目に掛かります。ご紹介に預かりました、兵士長のグレアムであります。今回の討伐にご協力頂けるようで感謝いたします」


「商人のライルと申します。微力ではありますが、よろしくお願いします」


「エレミアよ、よろしくね」


 お互い挨拶を済ませた所で席に着き、シャロットが近況を尋ねた。


「それで、盗賊達の動きはどうですか?」


「はっ! 今も変わらず、あの廃村を拠点として道行く馬車や人を襲っているようです。村への被害はまだありません」


「左様ですか…… 此方の事情が少し変わりまして、わたくしのゴーレムが当初想定していたよりも多く用意できるようになりましたので、これ以上人を集めなくてもよくなりました。予定よりも早く盗賊達を捕らえようかと存じます」


「それは素晴らしい事です。宜しければ詳しくお聞きしても?」


「詳しくは申し上げる事は出来ませんが、わたくしのゴーレム作成の魔力不足をこのライルさまが解消して下さいました。この村への移動中に試してみたのですけど、魔法のみで五十体は余裕で造れましたわ。ですから、アジトへの奇襲攻撃はゴーレムに任せて、皆様は周りを囲み、逃げ出してきた盗賊達をお任せしたいのです」


「そうでしたか! それは喜ばしい事です。お嬢様のゴーレムは強力ですから、それが五十体以上となればこの作戦は成功したも同然で御座いますな」


「油断は禁物ですわ。わたくしは、どちらの被害も最小に抑えたいのです」


「はっ! 申し訳ありません! 作戦遂行に全力を注ぎます」


 その後もグレアムとシャロットの打ち合わせは続いているのだが、俺とエレミアは何もすることが無く、出された紅茶を啜るだけだったので、二人に断りを入れてから家を出て村を見て回ることにした。


 村長の家から出て歩いていると、一軒の酒場で賑やかな声が聞こえてくる。気になったので入ってみると、冒険者らしき人達が夕方から酒を飲んでいた。その人達の中で一際目立つガラの悪そうな三人組に近づき声をかける。


「ご一緒してもいいですか?」


「あん? おう! ライルじゃねぇか! ったく、態々忠告してやったっていうのに、ここまで来やがったのか」


「すみません。どうしても放って置けなくて」


「まぁ、来ちまったもんは仕様がねぇ。でも、心強いのは確かだな」


 ガストールは髪の無い頭をガリガリと掻きながら、凶悪な顔を歪ませた。


「姐御が一緒なら頼もしいっす!」


「だから、姐御って呼ばないでよ」


「…………」


 グリムは口角を少しだけ上げ、無言で酒を飲む。こいつは相変わらずだね。


「俺の忠告を無視しやがったんだから、勿論ここはお前の奢りだよな?」


 はぁ? 何言ってんの? また俺からタダ酒を飲むつもりだな。そうはさせないぞ! 毎度集られたんじゃ堪らないよ。


「あれは善意からの忠告と受け取りましたので、そこに金銭は発生しないのでは?」


「その善意を無視したお詫びをしろって言ってんだよ。まぁお前が何にも思っちゃいねぇってんなら良いけどよ」


 くっ! 確かに、申し訳ないという気持ちは無いとは言えない。はぁ、仕方ない。酒の一、二杯は奢るとしますか。


「…… 一杯だけですよ」


 ガハハハ! とガストールは機嫌よく笑い声を上げる。ちくしょう…… 何だか会うたびに奢らされてる気がする。

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