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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第四幕】ゴーレムマスターと人魚族の憂鬱
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28

 

 気になったのでその行進の後をついていくと、門の前で沢山の人達が集まっている。この街の兵士らしき人達に、あれは冒険者かな? いったいどんな集りなんだ?


「ようライル、こんな所で何してんだ?」


 声を掛けられた方を向くと、そこにはガストールとグリム、ルベルトの三人がいた。


「ガストールさん、この集まりは何ですか?」


「ああ、例の盗賊のアジトが見付かったんだと。それで討伐隊を組んでこれから盗賊退治に行くって訳さ」


 そうか、見つかったのか。


「でも、何で領主の娘であるシャロットさんもいるんですか? それと冒険者の方もいますね」


「それはあのお嬢様のゴーレムの力を借りるためらしい。今はあの一体だけだがな、土魔法を使えば其処らの土や石、魔力からでもゴーレムは造れる。まあ、それでも数に限りがあるからこうして兵士と冒険者を集めているんだとよ。どうにも盗賊の数が多いらしいぜ」


やはり、あの人達は兵士のようだな。何故、鎧を着ないのだろう?


「冒険者も集めているんですか。もしかしてガストールさん達も?」


「おうよ! 元を辿ればそいつらのせいで俺達があのお嬢様に襲われたんだから、きっちりと礼をしなくちゃな」


 そう言ってガストールは厭らしい笑みを浮かべた。いや、盗賊騒ぎが全ての原因ではないと思うけど……


 盗賊退治か…… 殺すのかな? いや、俺達を襲った時は捕まえて犯罪奴隷というのにしようとしていたし、今回も捕らえるつもりなのだろう。でも相手は殺しにくる訳だし、大丈夫なのか? シャロットはこの世界に生まれ変わってから人を殺した事はあるのだろうか? この盗賊退治をシャロットはどう考えているのか知りたい。


「おい、お前まさか首を突っ込む気じゃねぇだろうな? 止めておきな。お前は冒険者じゃなくて商人だろ? 商人ってのはな、危険を冒すより避けるもんだぜ。こういうのは兵士や冒険者に任せれば良いんだよ」


 ガストールの言うことは正しい。ここはプロに任せれば良い、態々自分から危険に飛び込むのは愚の骨頂だ。それでも、馬車から降りて冒険者や兵士達に笑顔で声を掛けているシャロットの姿を見ていると、何だか放っておけなくなる。これから戦う相手は魔物ではなく人間なんだぞ、しかも明確な殺意を持った。俺は一人だけでもあんなに恐ろしかったのに、それが大勢いるなんて…… なのに、何でそんな顔が出来るんだ?


「あら? ライルさんではありませんか! ごきげんよう」


 シャロットが此方に気づき、近付いてきた。あれだけ見詰めていれば当然か。


「こんにちは、盗賊の討伐に出ると聞きました。大丈夫なんですか? 相手は殺意を持った人間ですよ?」


「ご心配下さり有り難く存じます。しかし問題は御座いません。一人残らず捕らえてみせますわ!」


 やはり、殺さずに捕まえるみたいだな。でもそう上手くいくだろうか?


「なんだ、捕まえるのか? 殺した方が早いんじゃねぇか? 向こうも散々殺してきたんだ。こっちが殺しても文句なんかねぇだろ?」


 ガストールらしい乱暴な方法だが、間違ってもいないと思う。捕まえる事に専念して、此方の被害が多くなるのは如何なものか、なら初めから殺しにかかった方が良いんじゃないか?


「出来ましたらそれはご遠慮して頂けませんか? 此方に被害がでるかもしれませんが、なるべく生きて捕らえないと意味がありませんの。この国の法律に従い、裁かないとなりません。罪は生きて償ってもらわないといけませんわ」


「そういうもんなのかねぇ、まぁやるだけやってみるけど、危なくなったら殺すからな」


「ええ、その場合は致し方ありませんわ。ご自分の命を第一にお考え下さい」


「おうよ! 言われなくてもいつもそうしてるぜ。じゃあ俺達もちょっくら準備するか」


 離れていくガストール達を見送っているとシャロットが呟いた。


「わたくしの考えは甘いと思いますか?」


 それはその場で殺さずに、法で裁くという考えか? 俺は普通だと思うが、この世界だと甘い考えになるのだろうか?


「俺は、法律があるのならそれに従うのは間違いではないと思うけど、甘いかどうかと聞かれると…… 分からないな。相手は連続殺人者の集りだろ? 殺されても仕方のない奴等だと思うし、でもそれが正しいとも余り思わない。ごめん、こんな事しか言えなくて」


 シャロットは首を小さく左右に振ると、優しく微笑んだ。


「いいえ、そのお気持ちは痛いほどに良く分かりますわ。きっと正解は無いのだと思いますの。盗賊の被害で家族や大切な人を失った者達からすれば殺したいほど憎い事でしょう。でも、わたくしは日本での “死ねばみんな仏様” という思想を今も変えられずに抱いております。なればこそ殺したくはありませんの。死ねば善人も悪人も同じになると仰るのなら、苦しみながら生きて罪を償い続けなければなりません。そう易々と楽にはさせてあげませんわ。死は償いではなく赦しであると、そう思いますのよ。だからわたくしは領民を傷つけ、苦しめている彼等を決して赦す事はありませんわ…… わたくしの考えは甘いでしょうか?」


 もう一度問いかけられ、俺は彼女の言葉を反芻する。殺して楽にさせるより、生かして犯罪奴隷として出来るだけ長く苦しませ続けるということか。何だか賽の河原で積み上げた石を倒して回る鬼を思い出したよ。

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