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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第四幕】ゴーレムマスターと人魚族の憂鬱
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27

 

 宴会という名の会食を終えた俺達は、一旦宿に戻ることにした。流石に海水に浸かりながらじゃ眠れそうにないからね。

 もう夜も遅いのでアンネの精霊魔法で街の路地裏まで空間を繋げて貰い、また明日の朝に伺うと約束をしてこの場を去る。


 宿の部屋に戻った俺達は疲れていたのか、直ぐにベッドに入り眠りに就き翌朝、宿の食堂で朝食を取った後、アンネの精霊魔法で約束通り人魚達の住処に向かい、厨房作りの続きを始める。


 エレミアには昨日約束した女王に出す調味料を使った料理を考えて貰い、俺とギルはオーブンの作成に取り掛かっていた。満遍なく熱を伝えるには術式をどのように組んだら良いのか、ギルに教わりながら形にしていき、実験と調整を何度も繰り返し昼を少し過ぎた頃、見た目は前世で見慣れたあの四角い形のオーブンが完成した。


 巨大な水瓶を作成してそれをポンプで繋ぎ水道を作り、蛇口をひねっただけで水が使えるようにした後、アンネとエレミアの指示に従い調理台や各種調理器具、収納スペース、魔動コンロに魔動オーブンを設置していき、レストランの厨房とまではいかないがそれらしきものが出来た。報告はヒュリピアに頼んで、女王に部屋を見てもらう。


「まあ! 素晴らしいわ。これが調理部屋なのですね」


「気に入って頂けましたでしょうか?」


「ええ、勿論です。 使い方を説明してくれませんか?」


「では、実際に調理をしながらご説明致します」


 エレミアには調理をして貰い、俺が魔道具の使い方を説明をする。人魚達は目を輝かせ、真剣に説明を受けていた。エレミアは人魚達が用意してくれた食材を使って手際よく調理をしていき、ただの焼き魚から魚介と海草のソテー、あら汁に煮こみ料理、魚から取れた油で素揚げにしたり、此方が用意した調味料を使用して料理を完成させていった。


「どうぞ、女王様。約束致しました料理で御座います。お召し上がりください」


「分かりました。約束通り、美味しければ取り引きを致しましょう」


 女王が最初に手をつけたのはあら汁だった。恐る恐る口をつけて飲む姿は、いつぞやのヒュリピアを思い出す。


「はぁ、温かい。魚の味がよく出ています。それに味噌と言ったかしら? この味も素晴らしいわ」


 次に醤油と塩胡椒で味付けされた魚介と海草のソテーを食べる。これも気に入ったようで頻りに頷いている。一通り料理を試食し終わると、此方に顔を向けて優しく微笑んだ。


「とても温かく、美味しかったですよ」


「それでは……」


「はい、約束通り貴方と取り引きを致しましょう」


 やったぞ! これで大量に海の幸を手に入れられる。エルフの里の皆は喜んでくれるだろうか?

 他の人魚達もエレミアが作った料理を愉しみ、作り方を教わっている。ここはエレミアに任せて、俺はリヒャルゴに案内され女王と共に食料庫へと向かい、今回の報酬を受け取っていた。


「本当に、アダマンタイトはいらないのですか?」


「はい、自分の手には余りますので結構です」


 流石にそんな貴重な金属は上手く取り扱える自信がないよ。ミスリルより珍しいんだろ? 商人になったばかりの俺には無理だ。


「それを聞いて安心しました。昔は私達も少しは人間と交流をしていたのですが、アダマンタイトの存在を知られてしまい、それを巡って国同士の争いにまで発展してしまいました。それ以来私達は人間達との関わりを極力避けるように生活をしています」


「そんなことがあったんですか、では何故、人間である私めに会おうと思ったのですか?」


「勇者と勘違いしたからと言うのもありますが、今の人間を知りたかったというのもありますね。人間達との関わりを絶って、もう千年以上は経ちましたから、私達やアダマンタイトについてどの様に伝わっているのか確認したかったのです。それがまさか魔力支配を持つ者と商売をすることになるとは…… これもあの御方のご意思なのでしょうか?」


 たかが金属一つで戦争かよ。いや、この島は言うなればアダマンタイトの鉱脈だ。国で独占しようとするのは普通なのか? どちらにせよ、こんな恐ろしい金属なんか欲しいとは思わない。もし俺が持ってるなんて知られたらどうなることやら…… 想像もしたくもないね! 過ぎた欲は身を滅ぼすって言うし、俺には魚介類と魔物の素材と魔核で十分だよ。

 しかし、神のご意志ね…… 何か前にも似たような事をどこかで言われたような? どこだっけ?


「それにしても、人間の執念には頭が下がる思いです。魔法を制限されたこの世界で魔術を創り出したのですから」


「人魚族は魔術を使えないのですか?」


「ええ、私達は人間から魔術を教わってはいませんので。ですから交流を絶った事で魔道具も手に入らなくなり、私達の食事はなま物ばかりになってしまいました。海に長く潜っていると体が冷えてしまって動きが鈍くなり、命を危険にさらす事になりますので岩礁や小島などで日光に当ったり、まだ残っている火種の魔道具で白湯を作り体の内側から温めたりと対策をしていたのですが、やはり冬を越えるのは厳しいですね。ここは南に位置しているのでまだ良い方ですが、他の拠点の人魚達が不便でなりません」


 他の拠点? どうやら人魚族が全員この島にいる訳ではないみたいだ。それもそうか、海の守護と監視をしているのだから各所に拠点を置かないと出来ないよな。そうなるとここだけ設備を整えても駄目だ。他の拠点でも温かい食事が出来なければ意味がない。次の取り引き迄に持ち運びが出来るカセットコンロのような構造を考えておこう。


 一通りの料理を人魚達に教えたエレミアと合流して、俺達は街に戻ることにした。


「それでは、次の取り引きを楽しみにしていますよ」


「それは此方もです。では失礼致します」


 俺が女王に挨拶を交わしている横でエレミアとヒュリピアが別れを惜しんでいた。知らない間に随分と仲良くなったね。


 アンネの精霊魔法で街の路地裏に戻ると、表通りが何だか騒がしいので様子を見たら剣を携えた人達が行進している。鎧は着ていないがこの街の兵士だろうか? その人達と一緒に進む馬車の横に見覚えのあるゴーレムが歩いてた。あれはシャロットのシュバリエだよな。じゃあ、彼処にはシャロットが乗っているのか? あんなに人をつれて何処に行くのだろう? とても和やかな雰囲気とは言えない、まるで何処かの戦場にでも向かうかのようだ。

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