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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第四幕】ゴーレムマスターと人魚族の憂鬱
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 は? なんだ? ちょっと待て、今何て言った? 勇者? 俺が?


 目の前の人魚の女性がそんなことを言うもんだから、思いっきり面を食らってしまい、思考が追い付かない。

 青いウェーブのかかった長髪で豊満な胸をして気品のある顔立ち、そして颯爽とした雰囲気を醸し出しているこの女性が女王なのだろう。首と頭に着けている装飾品は鮮やかな赤色をしている。もしかして珊瑚で出来ているのか? 贅沢だな、前世では珊瑚は保護対象だったのに…… じゃなくて! 取り合えず何か喋らないと!


「えっと…… は、初めまして、ライルと申します。この度はご招待頂き恐悦至極に存じます」


「ウフフ、思ってたより礼儀正しいのですね。やっぱり噂は当てにならないわ。私は人魚の女王をしているリュティスと言います。よろしくお願いしますね、勇者よ」


 何だか穏やかそうな人だな。厳格な女王様じゃなくて少し安心した。


「あの…… 女王様? その勇者とは俺―― いや、私めのことで御座いましょうか?」


 女王は俺の言葉を聞き、頭を傾け疑問符を浮かべる。


「あら? 貴方、魔王を倒した勇者ですよね?」


 魔王を倒した? それって五百年前の事か?


「お言葉ですが、女王様が仰っておられるのは五百年前のことで、もう勇者はこの世にはおりません」


「そうなの? エルフと妖精を連れていると聞いて、てっきり勇者だと…… そう、五百年も前なのね」


 人魚の時間感覚はどうなってるんだ? ずっと海にいるから陸の事には疎いのかな?


「まったく! 世情に疎いのにも程があるんじゃない? よほど陸には興味がないようね」


 人魚達にアンネがそう嘆いていると、女王が一見穏やかそうな笑みを浮かべた。


「あら? 妖精だって似たようなものでしょう? マナと悪戯以外に何か興味があるのですか?」


「あるわよ! それは楽しい事全般よ!!」


 アンネは腰に手をやり、えっへんとふんぞり返っている。


「フフ、こっちは噂通りみたい。貴女がアンネリッテですね? 勇者と共に魔王を倒したと言われる妖精の女王」


 は? アンネが妖精の女王だって!?


「あんな面倒なもの、別の子に譲ってとっくに辞めましたよ~だ」


「嘘はいけませんよ。生きている限り女王を辞める事は出来ないわ。貴女が譲ったと思っていても、あくまで女王代理でしかありません」


「だって退屈だったんだも~ん。それに世界をまわった方が分かる事があるしね」


 そう言ってアンネは俺の肩に座る。それを見た女王が目を細め此方を見据えてきた。


「成る程、それでこの子を見つけたのですね?」


「そういうこと」


 何か通じ合っているようだけど、俺にはさっぱり分からない。取り合えず後でアンネが妖精の女王だという件について、じっくりと聞き出さないとね。


「ごめんなさいね。私の勘違いで困らせてしまって」


「いえそんな、恐れ多いことです。お気になさらないで下さい」


 本当に気にしないでほしい。女王が謝ったお陰でリヒャルゴが物凄く睨んできて怖いったらありゃしない。


「ありがとう、優しい人で良かったわ。それとヒュリピアから錆びない金属があれば火を使わずに料理が出来る魔道具を作ってくれると聞いたのだけど、本当かしら?」


 やっとこの話が出来る、忘れられてなくて良かった。


「はい、本当です。雷の力で調理を可能にする魔道具で、魔動コンロと言います」


「雷ね…… 私達は雷の属性は苦手なの、それでも大丈夫なのかしら?」


「はい、問題はありません。術式は内部に刻み、周りを金属以外の素材で覆いますので、外に力が漏れることはありませんし、感電する心配も御座いません」


 漏電対策はバッチリされているから安心だ、流石は勇者様だね。抜け目のない設計で恐れ入るよ。


「そう、なら問題は一つだけですね。貴方にここの鉱石を加工出来るかしら?」


 辺りを見回して女王が言う。俺も釣られて見ると壁や天井に突き出ている真っ黒い鉱石が視界に入った。これを使って作れということか。魔力で解析してみても、今まで見たことのない成分で出来ている。


「この鉱石は何なのですか? 私めの知識が至らず申し訳ございません」


「いいえ、貴方が知らないのも無理はありません。人間達にはとても希少な物らしいですから…… これはアダマンタイト鉱石と言うの」


 アダマンタイト鉱石だって? それってよくゲームとかで出てくる金属の名前だ。


「それはどんな金属なのですか?」


「そうですね、オリハルコンと匹敵するほどの強度を持ち、錆びる事はないと言われいます」


 オリハルコンがどれだけのものなのか分からないけど凄く頑丈ってことなんだろう。


「しかも熱が伝わりやすく、凄く重いとも聞いています」


 熱伝導率が良いということか?


「アダマンタイトの加工技術は今はもうドワーフしか知らないはずですが、貴方は出来るのですか?」


 どうする、俺のスキルの事は秘密にするべきか? いや、ここは正直に話した方が良いだろう。


「はい、私めは魔力支配というスキルを持っています。この力を使えば加工は可能です」


 ……? どうしたんだ? 女王が目を見張り、固まっている。何か失礼な事でもしたのだろうか?


「魔力支配…… それは本当なの?」


「ええ、本当よ。わたしが保証するわ」


 女王の問いにアンネが自信をもって答えるがまだ懐疑的なようだ。


「確かに彼がそのスキルを持っていると、貴女なら分かるかもしれないけど、私にはその判断ができないわ。アダマンタイトはとても貴重な物です。加工が出来ると言って奪うつもりかもしれません」


「何よ! わたしが嘘をついてるって言うの!」


「その可能性も十分に考えられます。貴女は気に入った人間にはとことん甘くなるそうですね? それに魔力支配ですよ、いくら記憶持ちでも人間が持つには大きすぎる力です。それを “あの御方” が授けたと言うのですか?」


 何だか先行きが不安になってきたな。やっぱりスキルの事は言わない方が良かったか?

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