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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十八幕】公国の悪意と王国の変化
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24

 

 他の代表達は既に館を後にしていたので、俺達は領主とシャロットに別れを告げてゲイリッヒが待つ馬車へと向かった。


 馬車に乗り込もうとした時、魔力収納から私服に着替えたオルトンとアグネーゼが出て来ては教皇様とカルネラ司教の手を取ってサポートする。


 さてと、教皇様にはそんなに時間はないようなので何処から祭りを回ろうか…… そう悩んでいると、レイチェルから今日こそは一緒に回ろうとの連絡が来た。


 レイチェルは中央広場の特設ステージで行われている大食い大会を観覧しているという。どうやらその大会にムウナが参加しているらしい。大丈夫か? それって大会として成立するのかね?


 教皇様の了承を頂き、レイチェルとムウナがいる中央広場へと馬車を進める。途中で交通規制がされているので、そこからは馬車を降りて徒歩で特設ステージが見える所まで行くと、大勢の観客とそこから歓声が聞こえてくる。


「これはまた随分と盛り上がっているようですね。今の情勢でここまで活気に溢れた場所は恐らくここだけでしょうな」


「えぇ、これなら独立を反対する者はそういないと思いますよ。この国以外は、ですが…… 」


「それが一番の問題ですね。他の国には十分の利益があるので賛成するでしょうが、独立される国にとっては素直に認められるものではありません。それをリラグンド王が推進しているのですから、自国に多大なる損失をもたらした王として貴族派から糾弾され、そのまま退位という流れになるかと思われますね」


「それはリラグンド王も承知の上でしょう。インファネースの独立が、王としての最後の仕事だと仰っていましたから」


 何やら教皇様とカルネラ司教が重い話をしている中、人混みから俺達を見付けたレイチェルが駆け寄って来ては、教皇様へ綺麗なカーテシーを披露する。


「初めまして…… お会いできて光栄です、教皇様。わたしはハロトライン伯爵の娘、レイチェル・ハロトラインと申します」


「これは御丁寧に…… いや、せっかくの兄妹で祭りを見る予定でしたのに、突然割り込んでしまい申し訳ありません」


「いえ…… お祭りはまだ始まったばかり…… でも、教皇様は今日しかありませんので、お気に為さらずに…… 」


 レイチェルの教皇様が話している間に、俺は大食い大会が行われているステージへ目を向ける。そこには長いテーブルに横一列で並ぶ参加者達が、運ばれてくる料理を一心不乱に食べ続けている側に幾重にも重なる大皿が、彼らの死闘を物語っていた。


 その中で他と比べて尋常じゃない量の皿が積み上げられている参加者が一人いる。勿論誰がそれを成したかは言わずもがな…… ムウナである。


「おわかり!! 」


 見た目小さな男の子のムウナが大盛りの料理を平らげて次を所望する度に、観客から大きな歓声が鳴り上がり、周りの参加者は絶望的な表情をする。これは相手が悪過ぎるね、俺は心の底から彼等に同情した。


 大会で用意している料理は全部インファネースの海で獲れた新鮮な魚介のみ。それを人魚が美味しく調理したものだけを出している。トルニクスから仕入れている肉類は一切使用していない。


「成る程、この大会でインファネースの食料に余裕があるのを見せている訳ですか。独立して転移魔術が広まれば、すぐにでも豊富な魚介類を国へ送る事が可能となりますね」


 この大食い大会の様子を見たカルネラ司教が感心したように言っているけど、正直そこまで考えていなかった。皆が楽しめそうなイベントと言ったら大食いでしょ!―― みたいな感じで安易に決めたし、食糧難な国が多いから、せめて大会に出す料理だけは此処だけで獲れた物だけにすれば、他国からの非難は少ないかなと思っただけ。なので深読みするカルネラ司教には申し訳ない気持ちになる。





「にく、なかった。ざんねん…… 」


 余裕で優勝したムウナが賞金を片手に心なしかしょんぼりしていた。


「おつかれ、ムウナ。肉は貰った賞金で買えば良いんじゃないか? 」


「っ!? このおかね、ムウナがぜんぶ、つかってもいいの? 」


「そりゃ、ムウナが頑張って手に入れたお金だから、好きに使っても良いよ」


「やった! いまから、かってくる!! 」


 ムウナは目を輝かせて屋台へと走っていく。さっきまであんなに食べてあたのにまだ食べるのか…… その底無しな食欲に呆れるばかりだよ。


 両手に一杯の串焼きを持って上機嫌なムウナを加えた俺達は、教皇様の望むままに祭りを回る。



 教皇様はお歳で歯が弱くなっているので、口に入れればすぐに溶けるわたあめを大層お気に召したようだった。


「これは良い甘味ですね。作り方も単純で簡単に真似出来そうです。ライルさん、もし宜しければ聖教国でもこの屋台を出してもいいですか? 」


「はい、特に問題はないと思いますよ。後でわたあめを製造する魔道具をお送り致します」


「ありがとうございます。いやぁ、礼拝に来た子供達の喜ぶ姿が目に浮かびますね」



 その後、東商店街で人魚の歌を聴き、西商店街ではアイスクリームを堪能した教皇様は、最後に南商店街の酒場で軽く一杯引っかけて、ほろ酔い気分で地下市場にある転移門からカルネラ司教と帰って行った。


「満足してたようで良かったわね」


 魔力収納から出たエレミアの言葉に俺は頷いた。


「あぁ、何事もなく終わって一安心だよ…… そうだ、今日は本当に悪かったね、レイチェル。明日はゆっくりとお祭りを楽しもうか」


「教皇様相手じゃ仕方ないわ…… 明日こそ兄様と存分に祭りを堪能してみせる…… 」


 もう誰にも邪魔させない―― そんな気迫が籠った目をレイチェルはしていた。


「アグネーゼとオルトンもお疲れ様。ずっと教皇様とカルネラ司教のサポートをしてくれたお陰でだいぶ助かったよ。ありがとう」


「とんでもございません。教皇様のお世話なんて司祭の身ではあり得なせんので、とても名誉な事なんですよ」


「然り、じぶんも貴重な体験をさせてもらい、感激で始終震えっぱなしでしたぞ! 」


 まぁ、自分達の国のトップをエスコート出来るなんて、一生に一度あるかないかだもんな。舞い上がる気持ちは分からんでもないが…… オルトンがずっと小刻みに震えていたのは俺の勘違いじゃなかったのか。近くにいた教皇様は当然気付いていたとは思うけど、良くスルー出来てたよな。俺だったら大男が側でプルプルしてたら、気になって祭りどころじゃなくなるよ。


 流石は教皇に選ばれるだけあっての人格者か、祭りに没頭し過ぎて視界にも入らなかったのか、どちらにせよ大物であるのは確かだ。



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