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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第四幕】ゴーレムマスターと人魚族の憂鬱
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21

 

 宿の食堂でガストールと雑談をしながら夕食を取り、部屋に戻る。結局、情報料だとガストールにエールを三杯も奢る羽目になってしまった。そっちが勝手に喋った癖に、がめつい人だよ。


「私、人魚って初めて見たわ。本当に下半身が魚なのね」


 部屋で軽く呑んでいると、エレミアが今日出会った人魚の少女、ヒュリピアを思い出していた。


「うん、俺も初めてだよ。前世の世界では人魚は水中で呼吸が出来て、寒さに強い感じで書かれていたと思ってたけど、この世界の人魚は妙に人間寄りなんだな」


「へぇ、ライルが生まれ変わる前にいた世界でも人魚っていたのね」


「いや、お伽噺の中の存在だよ。実際にいたわけでは無いけどね」


 でも未確認生物みたいな扱いもしていたし、どうなんだろう? 本当にいたかどうかは、ついぞ分からなかったな。この世界の人魚はどういう存在なんだ? こういう時は同じファンタジーな存在に聞くに限る。


『なぁアンネ、人魚ってどういう種族なんだ?』


『ふへ? 人魚? う~ん、私もよく分かんないだけど、確か海の管理を任された種族じゃなかったっけ?』


 海の管理? あの広い海を管理なんか出来るのか?


『管理ではなく、守護ではなかったか? 海の生態系を維持する役目がある種族だと思ったが?』


『そだっけ? よく分かんない』


『まぁ、お互いに接点は無かったからな』


 人魚族にはそんな役目があったのか。他の種族にもそういう役目があるのかな?


『他にもそういう種族っているの?』


『うむ、エルフは森を守護する役目を持っているし、ドワーフは技術を守る役目をもっているな』


『技術を守る?』


『ああ、技術の発展によって文明は栄える。この世界が出来てから今までの技術をドワーフは集め、守護しているのだ』


 ドワーフは様々な技術を保管しているのか。だからもの作りが得意なんだな。エルフもそんな役目を持っていたなんて知らなかった…… あれ? エレミアがそうなの? って顔をしている。あんたも知らなかったんかい!


 もっと色々と聞きたかったが、時間も遅いので眠ることにした。明日は朝早くから漁港へ行って魚を買う予定だから早めに寝なくては、買う前に物が無くなっては困るからね。



 翌朝、俺とエレミアは朝一の漁港に来ている。倉庫のような建物の中には市場みたいになっていて、魚がずらりと陳列していた。

 おお! 凄いな、見たことのある物から初めて見る物まで、色んな魚がある。俺達は販売をしている漁師に話を聞きながら買い物をしていった。

 三メートルはあるマグロを見たときは驚いたな。アンネとギルが興奮して絶対に手に入れろと要求していたが、もう売却済みだったので酷く落ち込んでしまい、それでも別の魚介を見つけてはあれが食いたい、あれは旨いから買っくれと、直ぐに気を持ち直してあれこれと言ってきた。


 そんな騒がしくも楽しい買い物を済まして、昨日作ったボートに乗りヒュリピアと約束した場所へ向かった。まだ時間があるので、海の上でゆったりと波に揺られながら、今朝に買った魚介で朝食を食べて待つことにする。


 はぁ…… のどかだ。ボートで横になり空を見上げていると朝が早かったからか、何だか眠くなってきた。徐々に瞼が閉じていき、俺の視界は黒に染まり微睡んだ。



「ライル…… 起きて…… 」


 うん? エレミアが俺を呼んでいる。どうやら少し眠ってしまったようだ。眼を開けると俺の顔を覗き込んでいるエレミアが見えた。あれ? なんでエレミアの顔が…… それに頭の下が何やら柔らかい。 もしやこれって膝枕ってやつか?


「ごめん、眠っちゃって。それに膝枕まで…… 重かったろ?」


 ゆっくりと上半身を起こし、エレミアの隣に座り直す。この時、俺の腹の上で寝ていたアンネが転げ落ちて文句を言ってきたが軽く聞き流した。


「ううん、全然平気よ。フフ、それにしても気持ち良さそうに眠ってたわね」


 ずっと俺の寝顔でも見ていたのか? 恥ずかしいな、だらしない顔じゃなければいいけど。

 エレミアが起こしてくれたと言うことは、そろそろ約束の時間か。う~ん! と体を伸ばし、昼食を軽く食べて待っていると前方からこっちに向かってくる魔力の影を二つ捉えた。


 二つ? 一つはヒュリピアだと思うけど、もう一つは何だ? ヒュリピアより大きい影だ。


「お~い! 良かった! ちゃんと来てくれたんだね!」


 海面から顔を出したヒュリピアが嬉しそうに手を振っているその隣には、もう一人の人魚が顔を出してる。誰だろう? 取り合えず二人ともボートに上がって貰った。


 背中に白い槍を背負った男の人魚で、金色の長髪に精悍な顔立ち、その引き締まった肉体はもう芸術だね。しかし、人魚って男もいたんだな。


「あのぅ、ヒュリピアさん、こちらの方は?」


 ヒュリピアは困ったように右頬を指先で掻きながら、


「えっと…… 何て言ったらいいのかな? 貴方達の事を女王様に話したのよ、そしたら――」


「―― その先は俺が話そう。お前がヒュリピアの言っていたエルフと妖精を連れた人間だな? 俺はリヒャルゴ。女王様の近衛隊長をしている。ヒュリピアの話を聞いて女王様が興味を持ち、会いたいので連れてくるようにとのこと。申し訳ないが、ご同行願えるか?」


 言葉は多少丁寧だが俺を見る目はきつく、断らないよな? と言われているみたいで、ついていく以外の選択肢が見当たらない。


「…… はい。分かりました」


 まぁ、人魚の住処に案内してくれるならいいか。ここは大人しくついていこう。だからもうそんな眼で睨まないでほしい、人魚ってのは初対面の相手を睨み付ける習慣でもあるのかね?

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