表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十八幕】公国の悪意と王国の変化
757/812

5

 

 王妃様から強迫とも取れる催促を頂いた翌日。俺は店番と平行して魔力収納内で花酵母酒の量産を急ぐ。


 しかし、この酒は作り方をエルフやジパングの人達に教えれば大量に生産出来るという代物ではない。



 要となる酵母を魔力収納で育った特殊な花から抽出して粉末状に加工している。この行程を全て魔力支配スキルという普通じゃない方法で行っている訳なので、まともに作るとなれば時間がいくらあっても足りない。そもそも魔力収納内に咲く花から取れる酵母は限られているので大量生産なんて始めから視野に入れていないんだよね。


 別の花でも花酵母酒は作れると思うけど、また酒に合う花酵母を探すのも難しい。


 楽しみにしている王妃様には悪いが、数が確保しずらいという理由で、ここは自分の店だけにしか売らないようにしよう。同じ理由で商工ギルドにも納得してもらわないとな。あのクライドを相手に上手く説得出来るかは分からないけど、運送業で結構儲けてるようだし、そこまで執着はしないだろう。



 …… そう思っていた時期が俺にもありました。



「これがライル君の店に新しく出す商品…… 本当にギルドに卸せる量は確保出来ないのですか? この酒精でここまで飲みやすく爽やかな味わいのお酒は私も初めて飲みました。その珍しさも相まって、確実に貴族のご婦人方に売れるでしょうね…… ライル君の店に置いたとして、売れる算段はあるのですか? 私ならこの花酵母酒を全国に広げる事も出来ます。数が少ないと言うのなら、貴族が行うオークションに出品するという手もあります。これなら希少価値もあってかなりの金額で落札されますよ? ライル君の店に置くよりもずっと儲けが出ますが、どうです? 」


 俺は今、花酵母酒の見本品を持って商工ギルドに赴き、ギルドマスターのクライドに商品の説明をしていた。


 何で態々ギルドに新しく売りに出す物を見せに行ったのかというと、後で知られる方が格段に面倒な事になると目に見えているからだ。なので予めこういう物を売りますけど、ギルドに卸すつもりはありませんよと言いに来た訳だが……


「此方にはオークションへの紹介料として落札金額の五%を収めてくれれば良いですよ。両者共に損な話では無いと思いますがね? 」


 何か花酵母酒を試飲したクライドが凄い食い付いて来て、もう軽く引いちゃったよ。


「…… いえ、王妃様に提供する分以外は私の店に置きたいと思います」


『おっ! それでこそあたしが認めたライルだ!! この花酵母酒はあたしのだからね。ディアナは友達だから分けてあげるけど、他の連中は知らん!! そもそも店に出すのだってあたしは反対なんだから! 』


 まぁ、魔力収納で喚くアンネに同意した訳ではないけど、この花酵母酒を南商店街でしか手に入らない、地酒っぽい感じにしたいんだよね。


 俺がそう言うと、クライドは何時もの真顔で何やらブツブツと呟き始めた。


「…… なるほど、先ずは外より内を優先するという訳ですか…… そしたら、外から人を…… そうすればこの街も…… 下手な宣伝よりも口コミの方が効果的ですね…… 」


 うわぁ…… 目の前でクライドが何かの計画を頭の中で練っている。無茶苦茶怖いんですけど?


「分かりました。そういう事でしたら此方もこれ以上無理は言えませんね。ただ、私もこのお酒が非常に気に入ったので、是非購入させて頂きますよ」


「え? あ、ありがとうございます。近々販売する予定ですので、お待ちしております」


 何だろ…… 彼の中でどういう結論に至ったのか知らないけど、とにかくこれで花酵母酒を店に置いても商工ギルドは何も言ってこないだろう。



 こうして、一株の不安は残しつつあるが、数日後には店の商品棚に花酵母酒が置かれるようになった。


 その当日。約束通りに何本か王妃様に届け、何処から知ったのかクライドも何本か買っていった。


「へぇ、あの商工ギルドのマスターが初日に買って行くなんて、余程珍しくて美味しいお酒なんでしょうね。ライル君、私にも一本頂戴な♪ 」


「うぅ…… 私も興味あるけど、結構高いんですよね。どうしようかな」


「なら私が今買ったのを少し飲んでみる? キッカちゃ~ん! グラス二つよろしくね~ 」



 キッカが持ってきたグラスに、買ったばかりの花酵母酒を注いで、デイジーとリタは一口飲む。


「おわっ!? 何これ、思ってたよりずっと飲みやすいですよ! 何かこう…… 控え目な甘さに嫌じゃない酸味があるって言うか…… とにかくこれは良いですね!! 」


「はぁ~、この甘酸っぱい味…… あの頃を思い出すわねぇ。あの時の私はまだまだ若かったわ。フフ…… 真剣だったのに、いざ思い返して見ると、滑稽な恋だったわね…… 」


 素直に美味しいと誉めるリタと、何かの琴線に触れたデイジーが聞かれてもいないのに過去の恋愛話を披露し始めた。


「そんなに美味しいの…… ? 甘いのならわたしが飲んでも大丈夫よね…… 」


 おいこら、レイチェルはまだ未成年だからお酒は駄目だぞ?


 花酵母酒を飲むデイジーとリタを、羨ましそうに眺めるレイチェル。兄として、妹が法律違反しないようにしっかりと見張っておかないといけないな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ