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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十七幕】魔王討伐連合軍と反撃の始まり
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雪原の戦い 5

 

 スキュムの巨体が倒れた衝撃で地面が揺れる。


「…… 勘違いするなよ、勇者候補共…… 私は、お前達に負けたのでは、ない…… 」


 最後の力を振り絞って出したスキュムの言葉に、僕はどんな表情をしていたのだろう? ただ、気遣うようにレイシアが優しく肩に手を置いてくれた。


 静かに目を閉じて動かなくなったスキュムに、僕達は勝利を確信した…… したのだが、いまいち気持ちが晴れない。


「何だか、勝った気がしないな。モヤモヤするぜ」


「そうか? アタイはそうでもないかな。どんな形でさえ勝ちには変わりないだろ? 」


 アロルドも僕と同じような感覚を抱き、それをレイラが一蹴する。確かに、勝ちには変わらないのだけどね。


「む!? クレス! 魔物共が退いていくぞ!! 」


 スキュムが倒された事で、統率力を失った魔物達が我先にと逃げ出し始めた。


「作戦では一匹も逃がす予定は無かったよな? 」


「あぁ、これからは残敵掃討へと切り替わる。ライル君からの魔力補充は無いけど、大丈夫か? 」


「元から魔法は得意じゃないからね、アタイなら平気さ! 」


「うむ! 私もまだまだ動けるぞ!! 」


「俺も問題ない。そんじゃ、奴等が山へ逃げ込まれる前に仕留めないとな」


 勝鬨(かちどき)を上げる暇もなく、僕達はゴーレムと義勇兵達を連れ、逃げていく魔物を追う。


 空の魔物はライル君の仲間達に任せておけば大丈夫だろうけど、地上の魔物を追うのは結構難しい。雪の積もる地面では、どうしても足を取られてしまい、思うように走れない。僕の光魔法で光速に動き魔物に近付けたとしても、魔力の補充が途絶えた今、連続使用は控えなければならないし、例え僕一人だけ追い付いたとしても全員倒すのは不可能だ。


「思ったより奴等は速いな。このままでは山に入られてしまう! 」


 アロルドが焦るのも良く分かる。まだ積雪が激しい山の中に入られてしまったのなら、僕達が追い付くのは困難になる。


 どうすれば良い? 逃がしてしまった魔物達は、途中の町や村を襲うかも知れない。せっかく戦いに勝利したって、そうなってしまったら後味は非常に悪くなる。ここは僕だけでも行って出来るだけ数を減らすしかないのか?


「あれ? 山から何か大勢出てきてるのが見えるね。あれって何だい? 」


 山からだって? …… 確かに、目を凝らして見れば、何か人間のような影が山の中から続々と出てくるのが確認できる。


 遠くてまだハッキリとは見えないが、隊列を組んでいるようだ。もしかして軍隊なのか?


 逃げる魔物を追って山へと近付いていくと、同じ鎧を着た集団が、旗を掲げて隊列している様が良く見える。風になびく旗の紋章は帝国のものだ。だとすると、あれは帝国の軍なのか?


 帝国軍と思われる集団が、逃亡してきた魔物達の進路を塞ぐ。


「全軍、此処から先は一匹足りとも通す事は許されん! 死ぬ気で死守せよ!! 帝国の名に恥じない戦いを!!! 」


 指揮官らしき者の号令の共に、帝国軍は一斉に動き出しては魔物達を次々と倒していく様は、高い軍事力を持つと言われるに相応しいものだった。流石は軍事国家と呼ばれるだけはある。


 何故帝国が今更介入してきたのかは分からないが、助かったのは事実。ここは素直に歓迎したいところだ。


 僕達と帝国軍で魔物を挟み撃ちにする形で逃がさず確実に仕留めていき、後方からレヴィントン砦の兵士と冒険者が来る頃には、殆ど魔物は倒されていた。


「クレス君! 遠目からスキュムが落ちていくのは見えていたが、これはどういう状況だ? 何故帝国軍が我等の領土に? 」


「僕にも何が何だか…… 確かなのは、スキュムが死んだ事により逃げ出そうとした魔物を、帝国軍のお陰で阻止出来たという事ですね」


「成る程、スキュムを倒したか。帝国軍の介入は腑に落ちないが、我等の勝利には違いない。良し、勝鬨だ!! 」


 ゲオルグ将軍が勝利を宣言すると、兵士達は勝鬨の声を上げ、瞬く間に周囲に広がっていった。



 兵士と冒険者達が勝利に湧いていると、魔物を仕留め終えた帝国軍が近付き、一人の男性が前に出る。


「貴殿がかの有名なレヴィントン砦の総指揮官であるゲオルグ将軍ですね? 初めてお目に懸かります。私はこの軍の指揮を任された、ランスロットと申します。こうして戦場で会えて光栄です」


 随分と若く見える男性―― ランスロットが笑顔でゲオルグ将軍と握手を交わす。


「ほぅ? まさか帝国の若獅子と呼ばれるランスロット殿か? 貴殿の噂も良く聞いているよ。此度のご助力、実に感謝する。だが、何故に王国内へ入って来られた? 」


「レグラス国王からの許可は頂いておりますよ。しかし、その許可を貰うのに随分と手間取い、遅れてしまった事は謝罪したい。予定ではもっと早く到着する筈だったのですが…… 」


 そう言ってランスロットは苦笑する。


「王は慎重な御方だからな…… もしかして、王都から連絡があった援軍とは、君達の事だったのか? 何はともあれ、取り合えず砦に戻ろう。其処で詳しく話をお聞かせ願いたいのだが、宜しいかな? 」


「はい、此方もそれを望んでいます」


 僕らが帰還を始めた頃、ライル君達の姿は既に空から消えていた。まぁ彼の事だから大丈夫だとは思うけど、後でマナフォンで連絡を入れておこう。


 こうして、雪原での戦いは僕達の勝利で幕を閉じた。

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