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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第四幕】ゴーレムマスターと人魚族の憂鬱
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19

 

「もう! 信じらんない!! 私、避けようとしてたよね? なんで向かってくるのよ!」


 ボートの上で人魚の少女は凄く怒っている。それはそうだ、いきなり網で捕らえられたら怒るよな。


「すいません、此方の勘違いでして……」


「は? 勘違い? もしかして私を魚だと思ったの? 何よそれ! 何処にこんな可愛い魚がいるのよ!」


 自分で可愛いとか言ってるよ、まぁ可愛いんだけどさ。


「俺はライルと言います。本日は誠に申し訳御座いません」


 俺はその場で正座をしてボートに付くほど深々と頭を下げた。


「ふ~ん…… 私さぁ、これから食事をする所だったの。でも誰かさんが邪魔してくれちゃってまだなのよね」


「はあ、そうなんですか」


「もう! 鈍いわね! 私はお腹が空いてるの! 漁師なら魚の一匹や2匹あるんでしょ? 出しなさいよ!」


 ああ! お詫びに食い物を寄越せということか。


「あの、俺は漁師ではなくて商人なんですよ」


「え? そうなの? 確かによく見れば貧弱そうな体をしてるわね。それに腕も無いし、とても漁師には見えないわ。あんた人間だよね? 漁師じゃ無い人間がどうしてここにいるの?」


「いやぁ、自分で捕った方がお金も掛からないし、手っ取り早いかなと思いまして」


 人魚の少女は呆れたように頭を左右に振り、溜め息を溢した。


「あんた馬鹿なの? 素人がそう簡単に捕れる訳無いじゃない。それで、成果はどう?」


「小さな魚が多少捕れました。今は空間収納の中に保存してあります」


「じゃあ、それでいいわ。寄越しなさいよ」


 まるでカツアゲにあっているみたいだ。悪いのは俺はなんだけどね。俺は魔力収納から捕った魚を取り出して人魚の少女に渡した。


「フッ、ほんとに小さい。こんなんで良く自分で捕ろうなんて思ったわね」


 今日の成果を鼻で嗤われてしまった。すいません、素人が思い付きで海に出てしまって。テレビとか見てたら簡単に捕れそうだと思ったんです、反省してます。


 人魚の少女は腰に差している白いナイフのような形状をしたもので魚を慣れた手付きで内臓を取り出して海水で洗った後、三枚におろした。ほぉ、見事な三枚おろしだ。

 その後、中骨を海に捨てて、切り分けた上身と下身をそのまま豪快に齧り付く。あぁ…… 勿体ない、中骨せんべいにでもしようと思っていたのに。


 それにしても生で食べるのか。いいな、俺も久しぶりに刺身が食べたい。でも寄生虫が怖いんだよ、彼女は平気なのか?


「ねぇライル、魚って生で食べても大丈夫なの? お腹壊さない?」


 信じられないと言うような顔でエレミアは少女を見ていた。エルフの里では魚といったら川魚だからな、生で食べることはまず無いだろう。前世でも寄生虫は恐ろしい存在だった。こっちの世界ではどうなんだろう? 考えただけでも全身に鳥肌がたってしまう。


「なに? 生で食べるのがそんなに珍しいの? あんた達とは胃の鍛え方が違うのよ」


 自慢気に言っているが、胃って鍛えるものなのか?


「やっぱり、こんなんじゃ腹の足しにもなんないわね。もっとないの?」


 あるんだけど、これ以上中骨せんべいを減らしたくない。ここは昼に作って貰った味噌汁の残りをあげよう。


「あの、昼食の残りなんですが宜しければ如何ですか?」


 魔力収納から魚と野菜の味噌汁が入ったお椀を少女に差し出した。


「何? …… っ!? あったかい! それに良い匂いがする! これって料理でしょ!」


 お椀を受け取り、匂いを嗅いだ少女は興奮しながら聞いてくる。ただの味噌汁なのに何をそんなに驚く事があるんだ?


「まぁ、料理って言えば料理ですけど…… どうかしたんですか?」


 少女は恐る恐るお椀に口をつけて味噌汁を飲むと、恍惚とした表情で息を漏らす。


「あぁ…… 温かい、体の中からポカポカするよ。それに美味しい、今まで味わったことのない味だよ。人間っていつもこういうのを食べてるの?」


「えぇ、そうですね。これだけではなく、もっと色んな種類の料理がありますよ」


「いいな~、私達の食事って基本生だから、体が冷えるんだよね」


 人魚の食事ってなま物ばかりなのか? うぇ、それはきついな。


「料理はしないんですか?」


「う~ん、私達はさぁ、体が乾燥しちゃいけないから、体の一部が海に浸かってないといけないのよ。だから住んでいる場所も海水が入っていて、火が使えないの。一応、火種の魔道具はあるんだけど今度は燃やすものが無くて、近くの小島で薪を集めるんだけど、私達の体で濡れてしまって乾燥させなきゃいけない。火をおこすだけでも一苦労だから、みんな料理をしたがらないの。温かい料理があれば冬も快適に過ごせるのにな」


「ん? 人魚って寒いのは苦手なんですか? 海にいるから平気だと思ってました」


「ああ! やっぱりそう思ってたんだ! いくら私達でも寒いのは駄目だよ。人間達より慣れているだけ。もしかして、水中で呼吸が出来るとでも思ってたりする?」


 無言で首を縦に振る。


「やっぱりね! 私達は魚じゃ無いんだよ、“人魚”なの! よく見てよ! 上半身はあんた達と変わらないでしょ? 人間が水中で呼吸出来る? 出来ないでしょ? それと同じで体が冷たくなったらあぶないのよ。寒さに慣れているのと水中で長く息を止められること以外は人間と大体一緒だと思ってもいいよ」


 確かに、エラもないのに水中で呼吸なんか出来ないよな。それに上半身は人間なんだから恒温動物になるのか。下半身はどうなんだろ? 変温なのか?

 しかし、人魚も大変だな。体の温度を保たなければならないのに、常に体を濡らさなければならない。だから体の内側から温めるしかないのか。でも火を満足に使える環境ではないし、使えば体が乾燥してしまう恐れがある。正に八方塞がりだね。


「火を使わずに料理が出来たらいいのにな……」


 少女がぽつりと呟いた言葉に、俺は無意識で反射的に答えてしまった。


「え? 出来るけど……」

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