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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十七幕】魔王討伐連合軍と反撃の始まり
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「待ってたよ、ライル君。君が来てくれてとても心強いよ」


「うむ! 正に百人―― いや、千人力だな!! 」


「…… ライル。あれからレイチェルの様子はどう? まだ目を覚ましていないと聞いたけど? 」


 クレスとレイシアの二人は俺達を歓迎し、レイチェルと仲が良かったリリィはいの一番にその後の容態を聞いてくる。


「突然の無茶な願いを聞いてくれてありがとうございます。足を引っ張らないよう頑張りますので、よろしくお願いします。それからリリィ、レイチェルの事は後で話すから、心配だろうけどそれまで待っててくれるか? 」


「…… 分かった。取り合えず無事ならそれで良いの」


 さて、後は此方へ入れずにいる二人の勇者候補と挨拶しないとね。俺はクレス達から少し離れた所で様子を見ている二人に体を向ける。


「初めまして、ライルと申します。お二人が勇者候補のアロルドさんとレイラさんですね? クレスさんからお話は伺っております。このような体で頼り無く見えてしまうでしょうが、精一杯努めさせて頂きますので、よろしくお願い致します」


 深々と頭を下げる俺に、何やら戸惑っているような気配を頭越しに感じる。


「あ、あぁ…… これはご丁寧にどうも。俺は水の勇者候補のアロルドだ。こっちもクレスから聞いているが…… 実際に目の前にすると、あんたの凄さが分かるよ。あの時の魔力といい、何者なんだ? 」


「アタイは土の勇者候補に選ばれたレイラさ! とんでもない魔力を秘めているのは分かったけど、そんな体で戦えんのかい? 」


 話に聞いていた通り、男にしては線が細く、腰まで伸びる濃い青色をした髪を後ろで纏めているアロルドは、如何にも優男って感じの見た目をしている。逆に長身長で筋肉質、しかも言葉に遠慮がないこの女性がレイラか。顔のソバカスが素朴な農民女性を思わせ、何処か憎めない人だな。


「その点に関しては問題ありません。この体でも色々とやりようがあるものなんですよ」


「そうそう、ライルは強いよ! 何てったってこのあたしが小さい頃から鍛えて来たからね! 」


 横から言葉を挟むアンネに、アロルドとレイラは関心を示す。


「妖精に鍛えられてきた、か。それなら戦力として十分だろうな。それでなくともあれ程の魔力だ、過小評価はしていないさ」


「そうかい、なら大丈夫だな! アタイは気になった事はすぐに聞かずにはいられなくてね。これからもずけずけと物を言うかも知れないけど、気を悪くしないでくれよ! 意図して言ってる訳じゃないから、自分じゃ気付けなくって。だからさ、そんな怖い顔を向けないでくれるかな? 」


 レイラは困った顔で俺の横に視線を移す。そこには俺が侮辱されたと思ったのか、冷たい目でレイラを睨むエレミアがいた。


「例え悪気が無かったとしても、ライルへの発言は注意することね。余りにも酷ければ、勇者候補でも容赦しないわよ? 」


「あぁ、気を付けるよ」


 これは…… エレミアとレイラは相性が良く無さそうだな。まぁこの先そんなに会う機会もないだろうし、ここはエレミアに我慢してもらうしかないね。俺としてはこういう豪快というか、細かい事を気にしない女性ってのも嫌いじゃないけど。いや、俺なんかが女性に対して好きとか嫌いとか偉そうに言える事じゃないのは分かってるけどさ、心の中ぐらい自由に言わせて欲しいね。




 一通り自己紹介等を済ませた後、クレス達の案内で本部として使用している大きな建物まで足を運び、そこの会議室で責任者であるゲオルグ将軍と顔を合わせる。


 この渋いお髭を生やしたミドルダンディがゲオルグ将軍か。この人がレイチェルにあんな頼み事をした本人で、それについては個人的に思う所はあるけど、前にも述べたように一番悪いのはレイチェルを殺そうとした鳥野郎だ。


 この人も町を守る為に色々と大変なんだろうと察してあげられるが、それが仕事なんだし同情はしないよ。


「ようこそ、レヴィントン砦へ。君がライル君だね? クレス君から話は聞いている。早速作戦について諸々と話し合いたいところだが、その前に謝らせてほしい…… レイチェル君に、あの様な頼みをして申し訳なかった。私は此処にいる皆の命を預かっている。分かってくれとは言わない。私を恨んでくれも良い。だから、この砦を守る為に力を貸してほしい。どうか、この通り…… 」


 当然のように立ち上がり頭を下げるゲオルグ将軍に、思わず面を食らってしまった。元から責める気は無かったけど、こんな殊勝な態度で来られたら、もう何も言えなくなる。流石は長い歴史上敵の侵入を許さずにきた砦の最高責任者だ。付け入る隙が見当たらない。


「いえ、これはレイチェルが選んだ事でもありますし、私にも妹を止めなかった責任もあります。幸いにも命は助かりました。それに、将軍に頭まで下げてもらいましたので、この件に関してはこれで手打ちと致しましょう。妹を傷付けたスキュムという魔物を倒す為、喜んで協力致します」


 俺の言葉で漸く下げていた頭を上げたゲオルグ将軍は、感謝する―― と俺を真っ直ぐに見詰めて言う。


「ところで、報告では砦に来たのは君達だけだと聞いているが…… 航空戦力とやらは後で来るのかな? 」


「いえ、今此処にいますよ。お見せ致しましょうか? 」


「それはどういう…… ? とにかく、来ているというならここまで連れて来て見せてくれ」


 不思議そうな顔をしているゲオルグ将軍の前に、魔力収納にいる堕天使達が外へ出てきては整列して待機する。


 会議室に突如現れた総勢三十六名の堕天使に、ゲオルグ将軍とアロルド、レイラの三人は言葉を失い呆然としていた。



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