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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第四幕】ゴーレムマスターと人魚族の憂鬱
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18

 

 適当な場所で作ったボートを浮かべ、先ずは乗らずに魔力で操って試運転をする。細かな調整を行い、問題が無いことを確認して俺とエレミアはボートに乗って海に出た。

 魔力でスクリューを回し、舵を取る。中々のスピードで広い海をボートで駆け抜けるのは心地が良いものだ。


「気持ちいいね! 見てよライル、街がもうあんなに小さくなってるよ」


「うひょーっ!! いいぞ! もっと早く走れーっ!」


 初めて海に出たエレミアは上機嫌で景色を眺め、面白そうだからと魔力収納から出たアンネが俺の肩に乗ってはしゃいでいる。

 沖に出た所で速度を落として周囲の魔力を確認すると、ちらほらと海の中で小さな白い影が動いているのが視える。これを使って魚の群れを探し出し、網で捕まえるという算段をつけた。


 暫くボートで走っていると余り大きくはないが群れらしき影を見つけたので、網を魔力で操りボートの真下の海中に広げて、そのままボートを群れに向かって走らせ網に魚を捕らえていった。


 充分に走らせた所で一旦網をあげると、大量とは言えないけど其なりに魚が掛かっていた。これはなんて魚だ? イワシに似ているけど食えるのか?


「お~、いいじゃん! 美味しそうだね~」


『うむ、少々小振りだが、こいつは旨いぞ』


 アンネ達の反応だと、どうやら食える魚のようだな。俺は捕った魚を放置して野締めにした後で収納した。この魔力収納は空間収納とは違って生き物も収納出来るのだが、出たいという意思があれば直ぐに収納内から外に出る事が可能なので、魚を生きたまま収納すると勝手に外へ出てきてしまうのだ。たとえ意思疎通が出来たとしても――これから食べるから大人しくしていてくれ―― なんて聞いてくれるはずもない。


「よ~し! この調子でどんどん捕まえよう!」


 楽しそうなアンネに急かされ何度か網を張ったが、小さな魚しか捕れない。時々シーサーペントらしき巨大な影を捉え、此方が見つかる前に離れて難を逃れたが…… いやぁ、影しか見てないけどあんなに大きいとはね、恐ろしくて絶対に出会いたくない。


「思ったより魚って捕れないのね」


 ボートから手を差し出して海面を撫でながらエレミアはぽつりと呟いた。


「魚が多くいる所はシーサーペントもいるからね。その為のシーサーペント避けの魔道具だったんだな」


 てっきり船が襲われない為だけの物かと思っていたけど、それだけじゃなく、魚の群れからシーサーペントを追い出す役目もあったらしい。


「取り合えずご飯にしない? 捕れた魚で何か作ってあげる」


 エレミアに言われて、太陽の位置を確認したら陽が傾く頃だった。もうこんな時間か、少し遅めの昼食になるな。エレミアは魔力収納に入り、家の中のキッチンで料理を始める。


 魔力収納の中では火は使用しなくても魔道具で料理が出来るようになっている。これはエルフの里を参考にして作った物だ。里は木で囲まれていて、家も木で出来ている。そんな所で火を使えばどうなるか想像するのは簡単だ。実際、五百年前までは料理をするのに火を使っていて何度か火事になった事があったらしい。だが五百年に勇者が開発した火を使わず雷の力で料理をする魔道具のお陰で火事は起きなくなったと言う。


 そう、勇者はIHコンロを魔術で再現したのだ。初めてエルフの里で見たときは、どの世界でも行き着く所は一緒なんだなと思っていたが、まさか勇者が作った物だったとはね。便利なので、そっくりそのまま同じ物を作らせて貰った。因みに動力源は魔核を使っている。


 取れ立ての魚を捌き、粗で出汁を取ったスープに野菜と魚の身を入れて味噌を溶いたら出来上り。後はシンプルに塩焼きにした魚で昼食にした。ギルとアンネは魔力収納内で、俺とエレミアはボートで食事をしている。


「海を眺めながらの食事も良いわね」


 確かに、青い空の下と海の上でのんびりと波に揺られながらの食事も良いものだ。魚と野菜の旨みが溶け込んだ味噌汁を飲んで焼き魚に齧り付く、まさに至福の一時。


 腹もくちた所で、もう少しだけ魚を探して帰る事にした。適当にボートを進めていると、前方から何か大きな魔力の影が猛スピードでこっちに近づいて来るのが視える。サイズは人間くらいあるな、こいつは大物だぞ!


 海中で網を張り、ボートを走らせる。向こうも気付いたようで、進路を変えようとしているが逃がしはしない! 網を巧みに操り、大物を見事に捕らえる事が出来た。やったぞ! この大きさにあのスピード、もしかしたらマグロか何かかな? 何れにせよ食べ応えがありそうだ。


 魚を確認する為に網をあげてみると、そこにいたのは魚ではなかった。いや、半分魚なんだけどね。赤いショートヘアーで、服は着てなく海草のような物で腰巻きをして胸を隠しているだけの少女が網に掛かっていた。だけどその少女の腰から下は魚のような姿になっている。これは人魚って奴か?


「ありゃりゃ、これを食べるのは無理だね~」


『大きさに十分なのに、実に残念だ』


 アンネ達は残念がっているが、当たり前だろ! どうしよ? 何かめっちゃ睨んできて怖いんですけど。


「…… ねぇ、いつまで見てんのよ。窮屈だから早く網から出してくんない?」


「あ、はい」


 俺は言われるままに少女を網から出した。

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