表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第四幕】ゴーレムマスターと人魚族の憂鬱
71/812

16

 

 エルフの里に戻るため、カウンターにいる猫耳のおっさんに鍵を預けて宿を出る。そして路地裏へと向かい、誰もいない事を確認してアンネを呼び出した。


『アンネ、精霊魔法で俺達をエルフの里まで送ってくれないか?』


『良いけど、何処にしよっか? 里の入り口前にする?』


『ああ、それで良いよ』


 俺がそう答えると、魔力収納からアンネが飛び出してきた。


「そんじゃいっくよ~、空間の精霊さん! お頼み申~す~」


 すると、目の前の空間が歪み人が通れる程の穴が開いた。穴の向こうには懐かしい里の風景が広がっている。

 またこの場所に戻るために路地裏の壁に印を付けてからその穴を通り抜けると目前に門が佇む里の入り口に到着した。


「う~ん! やっぱり森が一番ね!」


 エレミアは大きく伸びをして、体全体で森の空気を浴びている。確かに、空気がうまいというか、澄んでいるというかそんな感じがする。門の近くで一時の森林浴を楽しんでいると、此方に近付く影を見つけた。


「門の前に誰かがいると聞いてもしやと思ったが、やはりお前達だったか」


 どうやら今回もエドヒルが確認に来たみたいだ。懐かしいな、あの時は木の上から弓を射ってきたんだっけ。


「兄さん!!」


 エレミアがエドヒルに向かい走っていく。


「随分と早い帰りだな、首尾はどうだ?」


 エレミアの頭を撫でながらエドヒルは聞いて来たので、味噌と醤油以外は順調に売れた事と、味噌と醤油を売るためにギルドの協力を得たと説明した。


「そうか、それは何よりだ」


「ねぇ! 兄さん、森の外は凄いの! 人間が沢山いたのよ! それと兄さんから聞いた獣人も見たわ!」


「後で母さんとゆっくり聞こう。今は長老に報告するのが先だ」


 興奮しているエレミアを宥めながら、俺達は里の中を歩く。長老への報告は俺一人いれば良いので、話したい事が沢山あるだろうし、エレミアにはエドヒルと一緒に自分の家に一足先に帰って貰った。


 長老の家に着き、応接間で行商の成果を見せると、


「この短期間でこれ程の物を…… 見事なものだ」


 今回仕入れた物を取り出して見せたら長老は驚いた後、頻りに感心している。もしかして、そんなに期待されていなかったのか?


「今後は取引の量を増やしていきたいと思っているのですが、どうでしょうか?」


「そうだね、君は約束通り我々に納得いく結果を見せてくれた。だが、今用意できるものは少なくてね」


「いえ、今すぐでなくても大丈夫です。里の皆さんが困らない程度で良いんです」


「分かった。此方で生産と消費の割合を調べて、準備させて貰うよ。一月もあれば用意出来ると思う」


「ありがとうございます。一月後位に商品を受け取りにまた来ます」


 それから長老とマナの大樹の様子など里の近況を軽く聞いた後、エレミア達の家に向かう。玄関を通りダイニングルームに行くと、そこにはテーブルの席について楽しそうに話すエレミアと、それを嬉しそうに聞くララノアとエドヒルの姿があった。


「あら? おかえりなさい、ライル君」


「ん? ああ、戻ったのか。長老との話は済んだのか?」


「はい、ただいま戻りました」


 五年間過ごした変わらぬ光景に懐かしさと安心を感じながら俺もエレミア達の話に加わる。主にエレミアが伝え、俺が捕捉する形で話は進んでいった。


「海の魚か~、いいわね。美味しそうで」


「うん! スッゴく美味しかったよ。今度買ってきてあげるね」


「あら、それは楽しみね~」


 そうか、森に住むエルフ達は海の幸なんてお目にかかれないよな。余裕があれば仕入れてみるのも良いかもしれない。そんな事を考えていたら、


「今日は泊まっていくのか?」


 そうエドヒルが尋ねてきた。


「いえ、宿を取ってあるので戻ります」


「あら? そうなの? 残念ね~、もっとお話を聞いていたかったのに」


「お母さん、また戻ったら聞かせてあげるわ」


 俺は魔力収納から一本の剣を取り出してエドヒルに渡した。


「これは? 父の剣に似ているが」


「鉱山町で貰ったミスリルで俺が作りました。形が似ているのは参考にさせて貰ったからです。どうぞ受け取って下さい」


 鞘から剣を抜き、じっくりと剣身を眺めたエドヒルは徐に口を開く。


「…… 気持ちは有り難いのだが、ミスリルの剣は強力な武器だ。お前が持っていたほうが良いのではないか?」


「あ、それは大丈夫です。もう一本ありますので、ご心配なく」


「そうか、ならば遠慮なく貰うとしよう。ありがとう、ライル」


 受け取ってくれて良かった。貴重なミスリルの剣をこの家から持ち出してもらい有り難いのだけど、なんだか申し訳ない気持ちもあった。やっとそのお礼が出来て漸く胸のつかえが取れたよ。エドヒルも喜んでくれているようだ。


 今回は玄関で見送られ、俺達は里を出て結界を抜ける。そして、アンネの精霊魔法で港湾都市の路地裏へと戻ってきた。


「それで、これからどうするの?」


「先ずは食料を買おうか、海の幸を中心にね。アンネ達がもっと魚を食わせろってやかましくてさ」


『わたし達はー、ライルに要求するー。もっと魚をよこせー』


『まだ食い足らぬぞ。この辺りの魚を買い占めてしまえ』


 面倒だけど普段から世話になってるから、あまり無下にはできないんだよな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ