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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十七幕】魔王討伐連合軍と反撃の始まり
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21

 

 俺は来る日に備えてハニービィにクレーマー達を日夜監視させ、常に何処にいるか分かるようにと指示を送り、何時でも一斉に捕らえる準備をしておく。


 西商店街代表のティリアは妖精達と、東商店街のヘバックは事情を説明され怒り心頭の漁師達と共に水面下で用意をし、今かとその時を待っている。


 その間にもクレーマー達は自分等の作戦が上手くいっていると思い活動を続けているが、残念ながら其方さんの素性は割れてるから、もうインファネースから出る事は出来ないよ。


 そして遂に待ち望んだカラミアからの連絡が来た。


 それによると、件のフードローブの男は子爵の知り合いの貴族から紹介された執事だそうで、最近雇われたらしい。


 ―― その知り合いという貴族、もしかしたら隠れ貴族派かも知れないわね――


 隠れ貴族派とは、中立派や王族派と宣言しておきながら実は陰で貴族派と繋がっている貴族の事である。そんな奴等が蔓延る世界だから付き合う貴族の身辺調査に手を抜く事は許されない。だけど子爵は知り合いだと言う事もあり、簡単に信用して調査を怠ってしまったのだろう。結果、貴族派の者がインファネースに潜みこうして機を伺っている。恐らくその者だけでは無い筈、後何人そんな奴等がこのインファネースにいるのだろうか。


 まぁそれはともかく、相手の調べもついたのでやっと此方も動き出せるってもんだ。


 俺達はメールにて綿密な打ち合わせをし、とうとう決行日の朝を迎えた。


「そんじゃ行ってくんね。あたし達にちょっかい出したらどんなしっぺ返しが来るか、その身に直接教えてやんよ!! 」


「ほどほどに頼むよ」


 今回アンネは他の妖精達同様、ティリアと一緒に行動する。


「いよいよねぇ。好みのタイプだったら、カラミアに渡す前にちょっとだけ楽しんじゃおうかしらぁ? 」


「いや、それは止めた方が良い。引き渡す前に心が死んでしまっては意味がないぞ」


 デイジーの危険な考えに、鍛冶屋のガンテが引きつった顔で止めようと説得している。もしデイジーの好みだったらどんな目にあってしまうのだろう? …… 考えたくもない。


「兄様…… 南商店街にいるその不届き者はわたしの闇魔法で追跡するから、他の代表への報告に専念して…… 」


「ありがとう、レイチェル。助かるよ」


「協力するのは当然よ…… 兄様の商店街を荒らすなんて、そんな輩は極刑ものだわ…… 」


 あの、本気じゃないよね? 出来れば五体満足で捕まえてくれて欲しいんだけど?



 昼前には皆各々配置について準備は完了したとの報告があった。


 ―― 目標の居場所については先程メールで送った通りです。では、教会の正午の鐘を合図に動きましょう――


 代表の三人から了承の返信を確認し、その時を待つ。


 クレーマー達は宿や店、中には移動中の者もいるが、全員にハニービィをつけているので、見失う事はない。


 運命の鐘がインファネースに鳴り響く…… さぁ、捕縛の時間だ。










 〈くそっ! 何だよ、てめぇら!! 俺が何をしたってんだ!? 〉


 ハニービィの視覚を通して視える映像には、逞しい肉体を惜し気もなく見せる漁師達によって取り押さえられるクレーマーの姿があった。


 〈何をしただと? お前達は人魚の店で随分と舐めた真似をしてくれたよな? 忘れたとは言わせねぇぞ! 〉


 〈お前は確か、人魚の料理を食って体調を崩したとか言ってたよな? あれから俺達は毎日店に通っているが、どこも悪くなってねぇぞ? 〉


 〈フォッフォッ、残りも近くにいるらしいからの、残らず捕まえ、一人も逃がさんようにな 〉





 西商店街ではアンネとティリアを筆頭に妖精達がじわりじわりとクレーマー達を追い込んでいく。


 〈うぉっ!? 何でお前がここに? 今頃は何処かの店で一仕事している頃だろ? 〉


 〈いやそれがよ、急に妖精が襲って来やがってよ。そういうお前こそ、今日は休みじゃなかったのかよ? 〉


 〈こっちも部屋で休んでいたら、妖精が窓をぶち破って侵入して来たんだぞ! 逃げるに決まっているだろうが!! 〉


 言い争うクレーマー達の周囲には、目を光らせる妖精達が逃がさないように壁を形成していた。


 〈どうしてくれようかな? 取り合えず身ぐるみ剥がしてから考えっか! 〉


 アンネの一言で、妖精達はクレーマーの二人に群がっては衣服を剥いでいく。妖精達も昼間っから野郎の裸なんか見たくないので、シャツとパンツだけは残してあげている。


 それでも嫌な光景だな。騒ぎを聞き付けた周辺の市民が何事かと外に出てみれば、下着姿の変態が妖精に助けてくれと半泣きで懇願している様子は、子供には見せられないね。絶対トラウマもんだよ。


 そしてここ南商店街にもトラウマ製造機が今も元気にクレーマーを押さえ付けると見せ掛けたセクハラをしている最中だ。


 〈あらぁん! 貴方前に私の店に来てくれた人よね? これも運命の導きね…… 今度は逃がさないわよぉ? 〉


 〈ひ、ひぃいいい!! 止めろ! 変なところを揉むな! 耳に息を吹き掛けるなぁああ!! 〉


 〈御愁傷様。こうなってしまっては俺にはどうにもならん。でも自業自得だから報いは受けて貰わないとな。それで? 残りの目標はどこかな? 〉


 〈ここからそう遠くない…… 行く? 〉


 〈あぁ、ここはデイジーだけで十分だしな。案内を頼む〉


 〈分かった……。 逃がさないように此方へ誘導しておくわ…… 〉


 そうレイチェが言うと、足下の影から無数の小さいグラコックローチを大量に生み出していた。


 うわ…… まんま前世で嫌われまくっているGそのものだな。確かにこんなのに追い掛け回されたら逃げるしかない。俺は少しクレーマー達を気の毒に思った。

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