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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十七幕】魔王討伐連合軍と反撃の始まり
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15

 

「お待たせ致しました。ライル様、エレミア様。社長がお会いになると言う事ですので、ご案内致します」


 社員に案内された部屋に入ると、何か高価そう装飾やら置き物の奥、これもまた金を掛けていると見ただけで分かる程派手な机と椅子にカラミアは座っていた。


「貴方から私の所に来るなんて珍しいわね。ほら、そんな所にいつまでも突っ立ってないで、此方に座りなさいな。今紅茶を持ってきて貰うから」


 あまりにもゴテゴテとした内装に虚をつかれた俺とエレミアに、自慢気な顔をしては、部屋にあるソファーへと勧めるカラミア。


 ここが社長室って事になるのかな? 金や銀の比率が多くて目がチカチカする。よくこんな部屋で仕事が出来るなと感心するよ。


 俺とエレミアがソファーに座るのを見計らい、カラミアは自分の机から離れずに話す。


「それで、どうしたの? ポイントカードの事でもなさそうだけど? 」


「はい、実は―― 」


 俺は南商店街にあるリタの服飾店に迷惑な同業者が来て困っている旨を伝えた。


「…… その迷惑な奴がこの北商店街に店を持つ人だと? 」


「本人からそう聞いたと、リタさんが言っていました」


「そう…… 私はそのリタという人物をあまり良く知らないから。もしかしたらそういう事にしてこの商店街の評判を落とそうとしてるのかも」


「リタさんが嘘を言っていると? 彼女はそんな人ではありませんよ。逆にそちらが意図している事なのではと疑っているくらいです」


「それこそまさかだわ。私達の商店街にそんな輩がいるなんて言われて素直に信じるとでも? これでも厳しく目を光らせているつもりだけど? とにかく、情報が少なすぎるわね。変な噂が立つ前に何とかしないといけないわ」


 まぁ、自分が管理する商店街の人達にケチをつけられたら不機嫌にもなる。だけどそれは此方も同じで、お互いに自分の商店街にいる人を信じたいと思う気持ちは一緒だ。


「そうね…… 暫く私の社員をリタさんの店の周辺に張り込ませておくから、何かあったら大声で叫んで頂戴。社員の誰かが対応する筈だから」


「ご協力ありがとうございます」


 取り合えず事の真相を追究する為に協力はしてくれるみたいだ。幾分が楽になった心で運ばれた紅茶を飲んでいると、カラミアが話を続けてくる。


「やり方は許容出来ないけど、気持ちは分からなくもないわ。最近南商店街では何やら変わった布地で作る服を売り出し、結構評判も良いらしいじゃない? 私も頼んで一着買って来て貰ったけど…… 私でも何の布地を使っているのか分からなかったわ。いったい何処から見付けてくるのか、商人なら気にならない訳ないわよね? 」


「あれは私が仕入れた物を店に卸しているので、リタさんは何も知りませんし、教えるつもりはありませんよ? 」


「独占も戦略の一つだけど、その分危険も大きいわ。十分な対策も無いまま決行するのは迂闊と言わざるを得ないわね」


「…… それについては反省してます」


 南商店街の売りになればと思ったが、確かに配慮が足りなかった。同じ業者で突然売行きが良くなり噂になれば、嫉妬やそれにあやかろうとする者は出てくる。それを未然に防ぐ事は出来なくとも、想定して予め対処法を用意しておくべきだった。そうすれば少なくともリタ達を不安にさせるような事にはならなかった筈だ。


「まぁ、どんなに対策を練ってもどうにもならない事もあるけど…… 無いよりかは良いわ。信じたい気持ちは分かるけど、代表という立場になったからには、様々な観点を持つ事が必要になってくるわ」


「はい、肝に銘じておきます」


 ここで話は終わり、カラミアの店から出た俺は深く溜め息を吐く。


「ライルのせいじゃないわ。問題を起こす奴が悪いんだから、そんなに自分を責めないで」


「だけど、俺の配慮が足りなかったのも事実だし、なんでそこまで考えられなかったんだろうと自分が情けなくなってくるよ」


 これは結構落ち込むな。代表として商店街全体を見てそこにある店一つ一つに目を向けていなかったのかも知れない。これは明らかな怠慢だ。何時から俺はそんな大層な人物になった? 言い訳が許されるなら、不相応な立場が俺の目を曇らせた。これは今一度再認識しなければならない。前世での社畜の記憶を持つ俺は、何処まで行っても小市民以上にはなれない。だからこそ必要以上に用心を重ねて、周りに頼らなければ何も達成なんて出来やしないんだ。一人で何でも出来るなんて勘違いも甚だしい。


 まったく、今の俺を叔父さんが見たらどう言うかな?


『前王も初めから何もかも上手く行っていた訳ではない。何度も失敗と後悔を繰り返してきたからこそ、一国を治め、魔物達を束ねる王へと成長した。どうか、その思いを胸に立ち止まる事無く己が信念を貫いて戴きたい。俺は何処までも王に付いていく所存』


『むぅ、ヴァンパイアの癖に中々良い事を言うではないか…… じぶんも何処までもライル様に付いて行きますぞ! なので遠慮なく何でもお申し付けを! 』


『人間の都合なんて良く分からないけど、そこまで考えなきゃいけないの? ライル様のお陰で儲けてるんだから、それくらい自己責任でどうにかしなさいよ』


『はぁ、これだからアラクネは…… 良いですか、人間の社会は私達魔物のように単純ではなく複雑怪奇なのです。勝手な事は言わないでくれます? 』


『ライル! そんなことより、ムウナ、おなかへった!! 』


『フン、人間とは小さな事で大きく悩む。何とも度し難いものだ』


 各々の考えが飛び交う魔力収納内は今日も騒がしい。やれやれ、これじゃあ何時までも落ち込んでいらないね。本当に有り難い限りだよ。

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