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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十七幕】魔王討伐連合軍と反撃の始まり
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11

 

 鳥獣人達がインファネースに来て早一ヶ月。堕天使達のたゆまぬ努力と我慢により、やっと鳥獣人が仕事を覚え始め、二人一組ではあるが何とか堕天使がいなくても大丈夫になってきた。


 これで漸く堕天使をトルニクス担当に出来る。その前に地形と各ギルドの場所を把握する為の期間が必要なので、まだ暫くは時間が掛かりそうだ。王妃様も慌てなくとも良いと仰ってくれているから、程々に頑張るようにと堕天使達に伝えてある。そうでも言わないと寝ずに一日中飛び回るからね。


 それと工事を装っている鳥獣人達の住居になる高層マンションだが、つい先日完成した事にして、組んだ足場に掛けられている布を外しお披露目をした。鉄筋コンクリートなので、耐久性も問題ない。


 空高く聳える建物に周囲の住民は関心を示していたが、特に喜んでいたのは此処に住める鳥獣人達であった。


 もとから標高の高い山奥で暮らしていたからか、この高層マンションを気に入ってくれたようだった。しかし、ここで思わぬ誤算が生まれた。鳥獣人達は我先にと上の階を目指し、部屋の取り合いが勃発。その結果、上から順に部屋が埋まっていくから下の階は誰もいない寂しい状況になる。


 この様子では新しい人を迎えても一階や二階は埋まらなそうだな。勿体ないので、安い家賃で宿暮らしの冒険者に貸すというのも良いかも。


 マンションの屋上は共同スペースになっており、休日にはそこで日向ぼっこを楽しむ鳥獣人達の憩いの場となっている。


 階数が多いのでエレベーターでも作ろうかと思ったんだけど、鳥獣人は空を飛べるので、部屋の出入りはベランダからしているから必要ないと判断した。


 そんな目立つ建物が出来たのだから、そこに妖精達が食い付かない筈もなく、案の定テンションを高くして屋上に飛んでいったものの意気消沈して戻ってきては、


「高いだけで何もありゃしないよ。何か面白いもん作って! 」


 と、文句を言ってくる…… そんなもん知るか。






 そろそろ冬も終わり、陽射しも暖かく春が近付いて来たと肌で感じるようになってきた。


 クレスの話ではレグラス王国の雪も溶け始め、緑が顔を出してきているらしい。それだけ聞けば穏やかな春の訪れなのだが、生憎と今は戦争の真っ最中。日夜攻めてくる魔王軍がそんな来春の風情を台無しにする。どんだけレグラス王国に固執しているんだか。


 魔王討伐の連合軍結成も歩みは遅いが進んでいるようで、今年の夏までには各国から軍を出し、魔王がいる国を包囲出来ればと黒騎士は言っていた。その移動手段には当然リラグンドの転移魔術を使う訳だが、他国に手の内を晒すのはどうかと貴族派の重鎮達が異議を申し立てているのだとか、面倒な事になっていると難しい顔をしておられる王妃様は、今日も我が店で紅茶を飲んでいた。


「このお店にいると、不思議と落ち着くのよね」


「えぇ、分かります。私なんか毎日来てますわよぉ。所で王妃様ぁ、新しいシャンプーを作ってみたのですが、どうですか? 今度のは薔薇の香りを加えてみました」


「あら、それは楽しみね。早速今夜使ってみるわね」


 最近頻繁に王妃様とお茶しているからか、デイジーが緊張せず普通に接している―― かと思ったけど、良く見れば笑顔がぎこちない。時折チラチラと俺に助けを求める視線を送ってくるが、敢えて気付かない振りをして今入店してきた客に声を掛ける。


「いらっしゃいませ…… って、ヘバックさん? 」


 扉を開けて中へ入ってきたのは、東商店街代表のヘバックであった。心なしか元気がなく、実年齢よりも老け込んでしまったかに見える。


「どうしたのですか? 何か悩みがあるのなら聞きますよ? さぁ、此方へどうぞ」


「おぉ、これは王妃様。お心遣い真に感謝致します。では、お言葉に甘えまして、失礼致します」


 ヘバックは誘われるまま王妃様とデイジーがいるテーブルへと向かい席に着く。そこへキッカが紅茶とクッキーを差し出し、お礼を言うヘバックに頭を撫でられ少し照れていた。


「それで? 何をそんなに浮かない顔をしてるのよぉ? ライル君に何か相談事? 」


 話を切り出すデイジーに、ヘバックは疲れた笑顔を返しては力の無い声で語り出す。


「いや、それがのぅ。儂らの商店街を含めて全ての商店街は景気が良くなっておるのは確かなんじゃが…… 海路での貿易が上手くいっておらなんだ。魔王の影響で海の魔物が荒ぶっておるので、遠くまで船も出せんし、インファネースへ来る船も少なくなっとる。それでも船を出す者はおるんじゃが、魔物による襲撃で船を沈められる事件が多発しておってな。貿易が滞っておる状態なんじゃよ。このインファネースは貿易都市と名乗ってるからには、この深刻な事態を早急に解決しなくてはならん。このままでは名に偽ありと、世間から笑い物になってしまうのではないじゃろうか? 」


 確かに…… 海路を塞がれてしまうのは非常に厳しい。結界の魔道具で船を魔物から守るという手もあるが、それだと結界を維持するのに費用が掛かるし、荷物もかさばってしまう。一日二日ならそれでも良いんだけど、さすがに一週間の船旅になると水や食料の方が重要になってくる。


「じゃあ、ジパングの商船のように人魚達に護衛を頼むのはどう? 」


「儂もそれは考えてはおったんじゃが、人魚さん方には無理はさせられんて。向こうも他国の船を守る義理もないしのぅ」


「インファネース周辺の海に仕込んだ結界を広げる事は出来ないのかしら? 全域でなくても、海路だけでも安全にしたいわね」


 王妃様がそう言うと、三人して俺の方へ顔を向ける。


 いきなりこっち見ないでくれませんかね? 吃驚するじゃないか。

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