表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十七幕】魔王討伐連合軍と反撃の始まり
678/812

7

 

「な、何ですかこれは!? シルクのような滑らかさにコットンのような柔らかさ。しかも僅かに伸縮性もあるなんて…… これをいったい何処で見付けたんですか? 」


 アラクネが織り終わった布地をリタの服飾店に持ち寄ってみれば、その素晴らしい出来映えにリタは目を丸して唖然としていた。その様子を魔力収納内から俺の目を通して視ていたアラクネ達は、満足気に微笑んでいる。


「それは企業秘密です。これをリタさんの所にだけに卸して南商店街の売りにするっていうのはどうです? シルクの市場は殆ど北商店街が抱えてしまいましたからね。それに対抗するにはもってこいの素材かと」


「良いですね。これなら服だけじゃなく寝具等にも使えますし、用途は多岐に渡ります…… ね、お姉ちゃんもそう思うでしょ? 」


「え、えぇ…… そうね。こんなに滑らかで柔軟性もあるなんて本当に夢のような布地だわ。フフフ、創作意欲が次々と湧いてくるわ。あぁ、良いわねぇ…… これ」


 この眼鏡を掛けたボサボサ髪の女性はリタの姉であり、デザイナーと生産を一手に引き受け、普段は店の奥で引きこもり服を作り続けている。


 目の前にいるリタの姉は、自分の作業場でアラクネが織った布地に頬ずりをしながら涎を垂らしていた。その様子に俺は軽く引いてしまったよ。なるほど、リタが接客に専念するのも頷ける。これでは、とてもじゃないけど人前には出したくないね。



「珍しくお姉ちゃんもやる気になっているみたいです。ライルさん、本当にこの布地を私達の店にだけに卸してくれるのですか? 」


「はい。その代わり、此方の要望を優先して欲しいのですが宜しいですか? 」


「内容にもよりますけど、出来るだけ応えますよ」


「なら、先ずは俺と家族分の下着と服、それとベッドシーツに枕カバーも作ってくれませんか? 」


「分かりました! …… ほら! お姉ちゃん、仕事の依頼だよ! 何時までも惚けてないで戻ってきて!! 」


 我に返った姉と一緒にリタは作業を始めたので、俺は店から出て家路に就く。この調子でバンバン商品を作って売り出して欲しい。あの布地ならさぞかし着心地が良さそうだし、今から楽しみだよ。




 エルマンからトルニクス産の牛肉と豚肉、鳥肉を仕入れて酒場や宿屋に卸す事により、冒険者だけでなく一般の旅行者も良く利用してくれるようになった。


 北商店街よりも等級は低い肉だけど、値段もリーズナブルで財布に優しく且つ美味いとなれば、人気にならない理由はない。


 アラクネが織った布地で作った服も予想していた以上の着心地で通気性、吸水性に優れ、シルクとコットンのデメリットを打ち消すような作りになっている。インファネースの気候と合っているので作った端から売れていると、リタが嬉しい悲鳴を上げていた。なので最近は俺の店に休憩をする暇もないようだ。


「忙しいのは良いんだけど、少し寂しいわねぇ」


 なんて一人で紅茶を飲むデイジーが窓の外を見ては呟くが、そっちも俺が渡したシャンプーとリンスの調合法のお陰で忙しい筈なのに、よく毎日来れるよな。


 こうして南商店街が発展していくにつれて、南地区に移り住む人が少しずつ増えていった。まぁ殆どは冒険者なのだけど、減るよりかは良い。それに新しく家を建て、金を稼いだ避避難民達が望むのなら貸し与える予定でもある。


 因みにだが、妖精達の協力により難民達の中にカーミラの手の者はいないと判明している。隷属魔術やカーミラによって体を弄られている者は総じて魂に何かしらの異常が視られる事が分かっているので、それを見極める事が出来る妖精が大丈夫だと言うのだから信用するしかない。


 しかし気掛かりなのはウェアウルフだ。あの魔力さえ消す陰形術はとても厄介で、しかも姿形も人間そのものに化けるのだから普通の人にはまず判別が出来ない。王妃様が教会に頼み、秘密裏に聖教国から各国の王へ通達して貰っているが、これといって有効な対抗手段が無いのは問題だ。魔力を感知されないということは結界も効かないということ。今も何処かで奴等が暗躍していると思うと、やきもきして落ち着かないよ。


 だけど此方も攻められてばかりじゃいられない。前に魔王を討つ為の連合軍を結成するという黒騎士の提案を、王妃様へお伝えしたところ、王に書状を送り検討して貰うと言っていた。


 そして堕天使が持ち帰ってきた王の返答が(したた)められた書状には、それを了承する旨が綴られていたと王妃様から連絡があった。


 春までには準備を整えて帝国に使者を送る予定だ。帝国は他の国にも呼び掛けているのでどれ程の規模になるのかは黒騎士にも分からないらしい。


 ただ言える事は、魔王は帝国を怒らせた。五百年前での戦争も防衛に専念し勇者に協力しなかった帝国が自ら先頭に立つ。其ほどまでに今期の魔王は黒騎士の逆鱗に触れたようだ。マナフォンの向こうから聞こえる黒騎士の声には魔王に対する怒気がこれでもかと込められていたな。


 他国にもあんな調子で勧誘していたら、嫌とは言えないんじゃないか? これは結構な規模になりそうな予感がするよ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ