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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十七幕】魔王討伐連合軍と反撃の始まり
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1

 

 トルニクス共和国から戻って半月、世界は刻一刻と変化していく。


 レグラス王国へと向かって行ったクレス達は、ドワーフの魔動列車に乗って地下から国内に入り、無事に王都まで辿り着いた彼等は援軍として迎え入れて貰ったらしい。


 突然現れた二人の勇者候補が三百を越える義勇兵とゴーレムを引き連れて来たんだから、さぞ王様達は驚いた事だろう。


 クレスの話によれば、国内はまだ穏やかで戦いは始まっていなかった。然しもの魔王軍も大雪が降り積もる冬山を越えるのに苦戦しているようだ。


 しかも山を越えたすぐ先には要塞地帯となっており、土の勇者候補を筆頭に兵士と騎士、冒険者達が待ち構えている。


 流石は大陸一守りが堅いと言われているレグラス王国だ。あの帝国にさえも彼処とは戦いたくないと言わしめただけはある。


 クレス達もその要塞で防衛に参加するらしく、今から出発するとの連絡を受けた。


 それにしても何故厳しい冬の時期に進軍を開始したのだろうか? 春まで待てば良いものを…… 魔王がまだオークキングだった頃、一度レグラス王国を攻めて敗退している経緯があるから固執しているのかね?


 今はゆっくりとしているシャロット達も、レグラス王国と魔王軍との戦争が始まれば、ゴーレムの大量生産でまた忙しくなるだろう。だからその前にちょっとしたお願いをしてみた。



「なるほどですわ…… 前世では当たり前のようにありましたけど、ここでそれを再現するのは些か難しいのではありませんか? 術式も一から構築しなければなりませんし、時間が掛かりますわよ? 」


「術式に関してはギルドカードを作成する時の魔道具を魔力支配の力で解析したから、それを元にすればそんなに時間は掛からないと思うけど」


「あら? ライルさん、あの魔道具を無断で調べるのは違法行為ですわ」


「いや、それは分かってるんだけど…… 南商店街を助けると思って、どうか目を瞑って戴けませんか? 」


 エヘヘと笑う俺を見て、シャロットは困ったように溜め息を一つ溢した。


「はぁ…… 仕方ありませんわね。インファネースの発展の為に見逃してあげますわ。たたし、今回だけですわよ? 」



 こうしてシャロットの協力を取り付けた俺は、その後も南商店街の店主達を集めては会議を重ね、やっと全店から了承を得て兼ねてから考えていた事を実行に移した。


 先ずは南商店街の全店舗に置いてあるレジスターを改良して、ギルドにある魔道具を参考にした新たな術式を組み込む。この術式の開発にはシャロットとアルクス先生も手伝ってくれた。


 そして以前にドワーフから譲り受けた魔道具で作った人工魔力結晶で、ギルドカードよりも薄い板に加工した物を幾つも作成する。


 このカードを改良したレジスターの溝に差し込むと、モニターに数字が表示され、自由に数字を加えたり消したり出来るのだ。


 カードに刻まれる数字は、その店で買い物をした金額に応じて増えていく。ある程度貯まったら、お金として使用できるようになっている。



 そう、俺が南商店街全体でやりたかった事は、ポイントカードの普及だ。



 最近、各商店街での値引き競争はマンネリ化してきて客達に飽きられているように見える。それは他の商店街も同じように感じ取っているようで、値引きの他にもその商店街の売りになるものを出してきている。西商店街では妖精達と一緒に楽しめる喫茶店、東商店街では人魚が営む魚料理専門店、北商店街は初めから貴族を対象にしているので別に何もしなくても集客に影響はない。


 それに比べて我が南商店街はどうだ? ドワーフがいる武具屋はここだけだが、利用するのは冒険者だけでしかもドワーフが作る武具は丈夫で長持ちするからそう頻繁に通うものではない。妖精が手伝うパン屋もあるが、西商店街の喫茶店と比べれば些かインパクトに欠ける。要は南商店街ならではといったものがないのだ。これでは集客は徐々に落ちていくばかりで未来がない。


 と、そのような話を会合で店主達にしてみたものの、昔と比べて明らかに売り上げが伸びているので、何もそんなに慌てる必要はないし、もしそれで失敗したらどうするんだと初めは否定的だった。


 確かに、今のインファネースは他国にまで名を轟かせる程に有名となった。その恩恵で外からの客がこの南商店街にもお金を落としてくれているのだが、何時までもそんな状況が続く筈もなく、戦時中も相まってこれからどんどんインファネースへ来る者達は減っていくと予想出来る。なら、これから来るかどうか分からない人達よりも、今いる人達に照準を合わせるべきだと思う。その為のポイントカードの導入である。


 とまぁ、店主達に熱弁したはいいが、正直に言えば買い物ならポイントカードでしょ的なノリであまり深くは考えていなかったけどね。


 だって、前世では某大型電機販売店で貯めたポイントを一気に使うのは爽快でお得感も凄まじく一種の快感でもあったから、きっとウケると思ったんだよ。


 これを南商店街限定にすれば、その珍しさで他の地区からも此処へ足を運んでくれるかも知れない。誰だって得するのは嫌いじゃないだろ?


 仕組みは簡単、百リラン毎のお買い上げで一ポイント加算され、十ポイントから使用可能。因みに一ポイントは一リランとなる。


 でもそれじゃあ、他の店で買い物をして貯めたポイントを自分の店で使われたんじゃ損するじゃないかと、店主達は声を荒らげた。


 彼らが危惧する通り、その場では一時損する事になるだろう。しかし、長い目で見れば決して損にはならないと俺は考えている。


 例えば、冒険者が良く利用する店と言ったら、宿屋と武具屋、それと居酒屋ぐらいで、服飾や工芸品等の店にはあまり寄り付かない。何故ならその日の稼ぎをほぼ全部を今挙げた店で使い残らないからだ。


 でもポイントカードがあれば、貯めたポイントを使う目的で何時もとは違う店に寄るかも知れない。そこからは各店舗の腕のみせどころである。今度はポイント無しで普通にお金を使ってでも買いたいと思わせれば、新しい顧客が増える。それにポイントを貯めるという目的で普段とは違う店にも行くかも知れない。これは客層を広げるチャンスでもあるのだ。


 とにかくこの商店街に人を集めて、普段から利用しない店に足を運んでもらい、大いに南商店街を盛り上げていこうという狙いだと根気強く説得した。


 その甲斐あってこうして実現までに至った訳だが…… いざ実装直前になると心配になってくるな。シャロットは悪くない考えとは言ってくれているけど、それは俺もシャロットも前世で知っているからであって、この世界でも上手くいくとは限らない。


 ふぅ…… あれだけ熱弁したのに失敗したら、いい笑い者だな。でも今更止められないし、やるしかない!

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