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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第四幕】ゴーレムマスターと人魚族の憂鬱
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12

 

 領主の館に泊まる事なり、用意して貰った部屋で寛いでいた俺達は夕食に招待され、食堂まで使用人に案内された。

 食堂の中は広く、長いテーブルと沢山の椅子が設置されている。


「さあ、お席へどうぞ、今日のお料理はこの街自慢の海鮮尽くしですわよ」


 すでに席に着いているシャロットの対面の席に俺達は座り、料理が運ばれるのを待つ。


「あの、領主様はいらっしゃらないのですか?」


 てっきり領主と一緒に食事をすると思っていたが、食事の席に着いているのは俺とエレミア、シャロットの三人だけだ。


「申し訳ありません。わたくしも貴方達をご紹介したかったのですが、今お父様は王都に行っていますわ」


「王都にですか?」


「ええ、なんでも死んだはずのミスリル鉱山が生き返ったらしくて、緊急で呼ばれましたの」


 それって、グラント達の町の事だよな。


「ん? それで、なんでシャロットのお父さんが呼ばれるのよ」


 俺もエレミアと同じ疑問を抱いた。そもそもあの鉱山町は誰の領地なのかも知らない。


「わたくしも詳しくは存じ上げませんが、伺ったお話によるとミスリルが採れなくなったあの領地を、当時の領主が国に返還なさったようですの。それから今まで国で管理していたのですが、またミスリルが採れ始めたら今度はその領主をしていた貴族が返して欲しいと言ってきたらしいですわ。流石にそんな都合の良い言い分は認められず、別の御方に与える事になったのですが、それをどなたにするかで揉めているようですわね。鉱山町に隣接している領土の領主達は皆、召集を受けて王都にいらっしゃいますわ」


「それで、王都に…… ということは、レインバーク郷もその土地を貰えるかもしれないのですか?」


「残念ながら難しいですわね。自分の領土の開発で忙しくて管理しきれませんわ。でも、領地を得る権利を放棄するにしても手紙で伝える訳にもいきませんので王都まで赴き、王に申し立てしなければなりませんの」


 面倒な手続きというのはどの世界でも一緒なんだな。そんな話をしていると、料理が運ばれてきた。高級レストランのフルコースみたいに一品ずつではなく、どんどんと料理が乗った大皿がテーブルの上に置かれていく。


 おいおい、凄い量だな、こんなに食えないよ。あまりの事に目を丸くしていたら、シャロットは笑いながら説明してくれた。


「オホホホ! 驚かれました? いつもはもっと控え目なのですけど、わたくしのお客人ということで料理長が張りきってしまいまして…… 余った分は勿体ないので、後で使用人の皆さんで頂きますわ。なので気にせず料理をご堪能下さいませ」


 使用人達が大皿から料理を取り分けてくれる。これはムニエルかな? なんの魚かは分からないがバターの良い香りがする。木の腕を操ってナイフとフォークを使い、一口食べる。おお! 旨い! 肉厚なのにやわらかく、顎の力が必要ないと思えてしまう程だ。そして用意されたワインを飲むと、まだ口の中に残るバターと魚の風味と混ざり喉に流れていく。ワインの苦味と良く合う、ああ…… やっぱり海の魚は旨いな。


 俺の前に様々な魚介と野菜のスープが出される。これはブイヤベースみたいだ。 スープに野菜と魚貝の旨味が染み出ていてこれも旨いな。特にエビが利いてるね。アパートで一人鍋をしていた時を思い出すよ。適当に買ってきた野菜や魚を入れたっけな、たまには贅沢しようと思い、パック詰めにされたカニ脚を殻ごと鍋にぶち込んだら、カニの味しかしなくなって、他の素材の味を全部殺してしまった覚えがある。まさかあれほど自己主張が強いとは思わなかったよ。


 次は何だ? 色んな種類のフライだ。サクサクの衣の中にはふわふわの白身、料理人の腕か良いのだろう、完璧な仕上がりだ! 輪っかになったフライを食べる。この弾力、噛めば噛むほど味が染み出てくるこの感じ、こいつはイカリングだ! 懐かしい、よくスーパーで買って食べてたな、勿論ビールも一緒だ。


「フライにはこちらのソースをかけると良いですわよ」


 シャロットがそう言うと、使用人が小壺を持ってきた。蓋を開ける黒くてドロドロした液体が入っていた。もしかして、このソースは…… 俺はソースをスプーンで掬ってエビフライにかける。ああ、この甘酸っぱい匂い。溢れ出そうな唾液を抑え、マナーなんか考えずに齧り付く。前世の味とは同じではないけど、よくここまで似せてきたな、その努力に感服するよ。


「ここまで再現するのに苦労しましたわ。まだまだ理想の味には程遠いですけど」


「いや、それでも凄いよ。記憶だけでよくここまで出来たもんだ。俺は材料さえ覚えていなかったよ」


 あっ、つい敬語を使うのを忘れてしまった。


「無礼な言葉使い誠に失礼しました。余りの驚きでつい、お許しを」


「全然失礼ではありません。もしよろしければ、そのままの口調でお願いしたいですわ」


「…… じゃあ、お言葉に甘えて、公共の場以外でなら普通に喋らせて貰うよ。シャロットさんも楽な言葉使いでいいよ」


「わたくしは幼い頃からこの言葉使いですので、大丈夫ですわ」


 ふと、エレミアが静だなと思い様子を伺うと、真剣な表情で料理を食べていた。今後の参考にでもしているのだろうか?


 色々な料理に舌鼓を打ち満腹になっても、まだ結構残っている。せっかく作ってくれたので全部貰って収納した。


『うはーっ!! ご馳走だ! 魚介祭りだ! 今日は飲むぞ~』


『うむ、久方ぶりの海の幸、喉が鳴る』


 今夜中には全部なくなりそうだな。良かった、無駄にならなくて。

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