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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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 バルドゥインとテオドアを送り出して二日目の夕暮れ時。何故かレイチェルからマナフォンでの連絡があった。


 レイチェルが言うには、バルドゥインは俺の命令にちゃんと従って人間達には危害を加えず、クレスと協力し魔王軍を壊滅させたらしい。


「それを聞いて安心したけど、なんでレイチェルが戦場に? 怪我はしてないか? 」


「うん…… それは大丈夫…… 心配させてごめんなさい…… でも、心配してくれてうれしい…… 」


 はぁ、もう済んだ事だから今更何を言っても遅いか。


「兄様…… ? それでここからが本題なんだけど…… 」


 その本題とは、何でもバルドゥインが一部の魔物を捕らえたので俺の判断を仰ぎたいとの事だった。


 はい? 何でそういう話になってんの? 魔物なんて捕まえてどうしろと?


『ライル様、恐らくその魔物は私達と同じように人間との争いを好まない者達かと思います。どうか一度会っては頂けないでしょうか? 』


 魔力収納にいるアルラウネが真剣な表情で懇願してくる。そういえば、魔王に支配され無理矢理に戦わされている魔物がいたら助けて欲しいと言っていたな。


 日頃から畑や田んぼ、果樹園等の植物の世話をしてくれているアルラウネ達の頼みを聞かない訳にはいかないよな。


「分かった。会うだけ会ってみるよ」




 そして、テオドアが帰還用に渡した転移魔石を使って、エルマン宅の貸部屋に戻ってくると、すぐにリリィから貰ったという向こうの座標が登録された転移魔石で移動する。


 この転移魔術はあまり融通は利かず、一方通行なのでこうして転移魔石を二つ使用しなければならない。アンネの精霊魔術ならどちらからでも通れることを考えると、日頃から最強だと自慢しているのも頷けるよ。まぁ、魔力収納内で今も酒を飲んではアグネーゼに絡んでいる本人には言わないけどさ。


 転移魔石で発生した空間の歪みを通れば、そこは正に戦場と呼ぶに相応しい、死体と血の匂いで溢れた草原だった。隣にいるエレミアなんかそれはもう酷く顔を顰めている。血の匂いが苦手なエルフには、この場所はさぞかし辛いだろう。


「大丈夫か? 辛いのなら魔力収納にいても良いよ? レイチェルの話ではもう戦いは終わっているらしいから」


「でも、捕らえた魔物に会いに行くんでしょ? このぐらい我慢出来るから側にいるわ」


 こうなると意地でも自分の意思を貫こうとするから説得は無駄だな。俺はエレミアに無理はしないようにと言うしかなかった。


 テオドアの案内で日が沈んだ草原を少し歩いただけで、足もとが血で汚れてしまう程、草に付着している血は新しく、戦いの悲惨さが伝わってくる。


 遠目に見える松明の明かりへ近付いていくと、そこにはバルドゥインとレイチェル、リリィ、レイシアにクレスの姿があった。


「ライル君、忙しいところ来てもらってすまない。それと、バルドゥインとテオドアを遣わしてくれてありがとう。お陰でこうして勝利を収める事が出来たよ」


「いえ、クレスさん達が窮地に立たされていると聞き、心配した俺にバルドゥインが申し出てくれたんです。…… レイチェルから聞いたよ、命令通りクレスと協力してくれたんだってね。ありがとう、バルドゥイン」


 俺の言葉にバルドゥインは恭しく跪き頭を下げる。


「勿体無きお言葉…… 俺は当然の事をしたまで。王の敵を排除し、その御心の安寧を守る事こそ、最上の喜びであり誉れであります。遠慮なくこの身を存分にお使い下さい」


 あ、うん。まぁ、なんだ…… これからも頼むよ?


 レイチェルとはマナフォンで話したから挨拶もそこそこにして、リリィとレイシアとも軽く言葉を交わし、問題の捕らえたという魔物に目を向ける。


 その魔物は巨大な蜘蛛の体に、本来ならば頭部がある場所に女性の上半身が生えた所謂アラクネという魔物が、バルドゥインの血の結晶によって足と手をガッチリと固められている状態だ。それが大体目算で二十体はいるからもう吃驚だよ。


 近付く俺にアラクネは、人間と同じ箇所に二つ、顳顬(こめかみ)付近に二つ、額に四つ、計八つの黒くて丸い目玉があり、閉じた唇から小さな牙の先端が二本ちょこんと下へ飛び出している顔を見下ろすように向ける。思ったより大きくて見上げなければならないから首を痛めてしまいそうだよ。


 他にはいないのかと辺りを見回してみるが、どうやら生かして捕らえたのはアラクネだけのようだ。どうしてかとバルドゥインに質問してみれば、


「他の者は知能が低く会話にもならないのと、自ら魔王に従う者、人間を好んで襲う者ばかりでした。唯一、そのアラクネ達が魔王の支配に抗っていたのを見て、王の国民になり得る可能性を見出(みい)だした次第です。勝手な事かと思いましたが、王が治める国にはまだまだ国民が少ないかと思いまして…… 」


 なるほどね、バルドゥインは自分なりに俺の事を心配しての行動だった訳か。


「その魔王に抗っていたと、どうしてそう思ったんだ? 」


「アラクネの攻撃には殺気が無く、糸で動きを封じるだけで殺す意図が見受けられなかったからです」


 へぇ…… 魔王の支配力ってのは相当な強制力があるとギルから聞いているけど、それに抵抗するとはね。単純に精神耐性が強いのか、それとも余程人間を傷付けたくなかったのか、何れにしても其処らの魔物とは一味も二味も違うという事。これは是非とも話を聞かなければならないね。もしかしたら、何か役に立つ能力があるかも知れない。


 俺はアラクネ達の周りを自分の魔力で包み、サハギンでの実験でしたようにマナの流れを止めて魔王の魔力が流れ込んでくるのを防いだ。これでもうアラクネ達はこの中にいる限り、魔王の影響は受けない。


 一瞬にして辺りを包む程の魔力とマナや魔力に干渉する力を見たアラクネ達は、揃って目を見開き驚いているようだった―― とは言うが、目蓋が無く黒いビー玉のような丸い瞳は、常に見開いているようなものだけどね。



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