終戦への一石 5
僕と異質なミノタウロスが対峙する中、周囲ではリリィ達が配下であろうミノタウロスを僕に近づけさせまいと応戦してくれている。そんな彼女達を、レイシアとゴーレムが守っている。
この様子なら目の前のミノタウロスに集中出来る。僕は聖剣を構え直し、相手の隙を窺う。
光魔法を使った光速移動はそんなに万能ではない。確かに目にも止まらない速さで移動は可能だが、先程のように一度止めてから攻撃に移るので、防がれてしまう事もある。只単に移動手段と逃げる手段としては有能なんだけどね。
「今度ハ逃ガサンゾ、光ノ勇者候補ヨ。魔王様ノ忠実ナル僕デアルコノ “ガムドベルン” ガ、貴様ノ首ヲ偉大ナル魔王様ヘト捧ゲル」
「そうか、お前はガムドベルンというのか。そちらが名乗ったからには僕もそれに応えないと失礼だね。僕は光の勇者候補、クレス。ガムドベルン、お前を倒す者だ! 」
僕は周りに光球を四つ作り、細く圧縮する感じでガムドベルンに放つ。四本の細い光の筋は僕の光速移動と同じで目に捉えるのは不可能。それは必ず当たる事を意味する。
それを裏付けるように、光の筋は四本ともガムドベルンの体を貫き、高温で焼かれた傷口からは小さな煙が上がっている。
良し! いける。このまま僕の光魔法で押しきればいずれガムドベルンの体力は無くなるだろう。
しかし、そんな期待もすぐに壊され現実に引き戻されてしまう。驚くことに、ガムドベルンに空いた穴から肉が盛り上がり、傷口を塞いでしまったのだ。
「コンナ小サナ傷、イクラ付ケテモ俺ヲ殺スノコトナド出来ヌ! 」
やはりそう都合良くは行かないか。なら、回復できないくらい大きな傷を付ければ良い。僕は聖剣に魔力を込めて剣身から光の刃を伸ばす。
これで奴の体を斬り裂けば、いくら頑丈で再生能力が高いガムドベルンでも、ただでは済まないだろう。
僕は正面から走り寄り、両手で持つ聖剣を袈裟斬りに振り下ろした。剣身から伸びた光の刃がガムドベルンに届き、肉を焼き斬るつもりだったがそれは叶わなかった。
なんと、僕の光の刃がガムドベルンの斧に防がれてしまったのだ。
馬鹿なっ!? 鉄さえも溶かす程の高温だぞ! 普通の斧ではないのか? いや、良く見ればガムドベルンの持つ斧は黒い靄に包まれて異様な雰囲気を醸し出している。
呆気に取られ力を抜いてしまい、ガムドベルンの斧に押し返された僕は一先ず後ろに下がって距離を取る。
あの斧を包んでいる黒いものはレイチェルの闇魔法と似ている。もしかして、ミノタウロスが?
「ドウシテ俺ガ魔王様カラ力ヲ授カレタト思ウ? ソレハ俺ガ闇魔法ヲ使エルカラダ。貴様ノ光ナド、俺ノ闇デ消シテヤロウ」
強すぎる闇は光さえも飲み込む。しかし、あれが魔法であるならば聖剣で対処は可能だ。僕は光の刃を消して剣を構える。
「ドウシタ、俺ノ闇ニ恐レヲナシテ諦メタカ? 」
そう言うがガムドベルンは油断せずに、闇魔法で生み出した黒い球体を僕に飛ばしてきた。嫌な感じがする、ただの闇なら当たったところで怪我なんてしないが、あれは魔法だ。レイチェルの使う闇魔法を鑑みるに、接触は避けるべきである。
幸い、それほど速度がある訳ではない。僕は向かってくる黒い球体を聖剣で斬る。
聖剣に斬られた黒い球体は真っ二つになり弾けて消えた。それが意外だったのか、ガムドベルンの目が僅かに驚愕で開いたかのように見えた。
余程自分の魔法に自信があったのだろうが、残念ながらこの聖剣は使い手以外の魔力を弾く性質がある。いくら強力な魔法でも、そこに魔力が関わっている限り聖剣は問答無用で弾き飛ばす。
つまり、その斧に纏う闇も聖剣に触れさえすれば消せ事ができるのだ。
僕は再び魔法でガムドベルンへと光速で接近して聖剣を振るう。狙い通り斧に纏う闇を弾き、ガキンッ! と金属がぶつかる音が鳴るが、それだけだ。
「ナルホド、ソノ聖剣ハ魔法ヲ弾クヨウダガ、俺ノ斧ヲ壊セル程ノ切レ味ハ無イラシイ。ソウト分カレバ、恐レルニ足リヌ! 」
怒涛の勢いで振り下ろされる斧に、僕は聖剣で受けるが反撃する余裕が無く、防戦一方になってしまう。
僕の魔法である光の刃ならあの斧を溶かし壊せるが、奴の闇魔法で防がれ本体まで届かず、かといって聖剣で魔法を弾き消したとしても、斧に皹一つ付けられない。聖剣に使われているのは伝説の金属であるオリハルコンだが、その持ち主以外魔力を弾く特異な性質があるだけで、強度はアダマンタイトとほぼ同等であるというのが実際に調べて判明している。
だとすれば、ガムドベルンが持つあの斧は少なくともアダマンタイトと同じ強度であると見て良いだろう。
僕は光速移動で一旦空へと退避し、魔法で発生させた光の筋を上空からガムドベルンへと放つ。
しかし、体から闇が吹き上がり光の筋を飲み込んで消されてしまい、ガムドベルンには届かなかった。
「無駄ダ、魔王様ノオ力で強化された闇ノ前デハ、ドンナ光モ俺ニハ届カナイ」
遠距離からの魔法攻撃も駄目か。悔しいが僕とガムドベルンでは相性が良くないようだ。残念だけど、ここは彼等に頼るとしよう。
上空にいる僕を見上げるガムドベルンの横から、槍のように柄が長い聖剣が一直線に飛んでくる。既のところでそれに気付き、斧で弾いた先でガムドベルンが見たものは、二人の勇者候補だった。
「おい、三人で戦う筈だろ? 一人で先走るなよ」
「ぼくとしては早く倒せるのならそれでも良かったんだけど、どうやらクレス一人じゃ駄目か。まったく、面倒なものだね」
水の勇者候補のアロルドと火の勇者候補のアラン君が、ガムドベルンと相対する。
さて、ここからは三人の勇者候補が相手だ。これは戦争だからね、卑怯だと言わないでくれよ?




