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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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終戦への一石 2

 

 僕が魔王軍の内部に潜入調査した結果を報告している中、総司令官とアロルド、それと他の指揮官達からの視線を一身に受けることになり緊張したけど、どうにか話を進めていく。


 魔物や人間の死体を利用していたヴァンパイアの三人を仕留めたと言えば周囲は感嘆の声を上げる。流石は光の勇者候補だなんて称えていたが、魔王から力を授かったミノタウロスの話になると口を閉ざし、魔物に囲まれてしまった所では顔を顰める者もいた。


 そして、バルドゥインとテオドアについて説明すれば、別の意味で声を張り上げる。


「馬鹿な!? 魔物に助けられただと? そんなのはありえん! 」

「しかもどちらもアンデッドではないか! 奴等はすべからず人類の敵だぞ!? 」

「そもそも全ての魔物は魔王の支配下にある筈。それが何故お前達を助けるんだ? 」


 まぁ予想はしていたけど、殆どの人は信用していないようだ。無理もない、彼らは一部の例外が存在することも知らないのだから。


 暫くテントの中は荒れていたが、総司令官が口を開けばピタリと他の声が消える。


「う~む…… 俄には信じられんが、それが本当なら此方の戦力はかなり強化される。しかし、この者達の言うことも分かる。本当にその魔物は信用して大丈夫なのか? 」


 此処を任されてるだけあって総司令官は何時も以上に慎重だ。


「いや、そんな魔物がいるなら是非とも力を貸して貰いたいね。アンデッドの脅威が無くなった今、一気に攻めるべきだ」


 警戒する周囲とは反対に、アロルドは結構乗り気である。でもまだ完全に信じている訳ではなさそうだな。


「結界の外で待たせていますので、実際に会って判断してほしいのですが…… 」


「危険ではないのか? いきなり襲われたりしないだろうな? 」


「それなら結界の境目で会えばいいだろ? そうすれば向こうは手出し出来ない」


 こうして、多少指令部は混乱したが話し合いの末、バルドゥインとテオドアに会う為、アロルドの提案通り結界の境目まで移動した。


「おい、クレス。誰もいないじゃないか」


 何もない暗い平原を前に、アロルドが少しガッカリした様子で僕を見る。


「いくら人間と協力してくれると言っても、基地の近くに魔物がいたら目立つし外の人達が不安がるかと思って、上で待って貰っているんだよ」


 空を見上げる僕につられて皆が顔を上げると、丁度僕達を確認したバルドゥインとテオドアが降りてくるところだった。


 本当に現れたヴァンパイアとレイスに、誰もが警戒の色を濃くする。中には武器を抜く者もいた。


「おいおい、全然信用されてねぇな。まぁ気持ちは分からんでもねぇがよ」


「待たせてごめん。やっぱりここまで連れてくるのに手間取ってしまったよ」


 僕とリリィ、レイシア、レイチェルの四人が結界の外に出て、レイスであるテオドアと普通に接しているのを見たアロルド達がざわめくのを背中越しに感じる。


「いや、レイスは狡猾な魔物だ。言葉巧みに此方を騙している可能性も捨てきれない」


 バルドゥインとテオドアに敵意の籠った視線を向ける総司令官達を余所に、アロルドが結界の外に出ては迷いのない足取りで近付いてくる。


「お前らがクレスの言っていた魔物か? 俺はアロルド、水の勇者候補だ。協力してくれるって話だが、幾つか聞きたい事がある。本当にお前らは魔王に支配されていないんだな? もし何か企んでいるなら、容赦しないぜ? 」


 好戦的な笑みを浮かべるアロルドに、テオドアはちらりとバルドゥインの様子を窺う。


 バルドゥインは何も気にしてないようで無反応だ。それに安心と呆れが混じった様子でテオドアがアロルドの問いに答える。


「まぁ、相棒に頼まれちまったからな。あの魔物共を追い払うのに力を貸してやるよ。それと、俺様は相棒と神々の誓約を交わしているから人間に手は出せねぇが、そのお陰でこうして魔王の影響はないって訳だ」


 テオドアの言葉に反応したのはアロルドではなく総司令官だった。


「なに? 神々の誓約だと? 高位の神官だけが使える教会の秘法ではないか。それが本当なら、教会がお前の存在を認めたと? 」


「へぇ…… じゃあ、そこのヴァンパイアもその神々の誓約? ってのをしているのか? 」


「いや、こいつは違うが人間に危害は加えねぇよ。そこは約束できる」


 そうは言っても魔物の言葉を信用するのは難しく、胡乱げな視線がテオドアに突き刺さる。そこで初めてバルドゥインが彼らに口を開いた。


「貴様らが信用しようとしなくとも関係ない。王がクレスに協力せよと仰るならそうするだけ、人間に危害を加えるなと仰るならそれに従うまで。そこに他者の同意など求めてはいない」


 バルドゥインの尋常ならざる威圧に、先程までざわついていた空気が一気に冷え込む。アロルドも総司令官も緊張した面持ちで冷や汗を流していた。


「王―― ね。お前程の者が王と呼び従う存在か…… 一体どんな化物だ? クレスはそいつと知り合いなんだよな? 」


「あぁ、知り合いというか…… 僕は信頼出来る数少ない友人だと思ってるよ」


「そうか…… クレスがそうまで言うのなら、俺もそこに賭けてみるか。何時までもこんな所で足踏みをしている暇なんて無いからな。とっとと魔王を倒して、こんな戦争を終わらせなくてはならないんだ。その為なら、手段なんか選んでる場合じゃない。魔物だろうが利用できるものはしないと」


 そんなアロルドの覚悟に感化されたのか、総司令官も一歩結界の外へ踏み出した。


「どのみち、こんな怪物に暴れられたのでは我等の敗北は免れん。ここは勇者候補達を信じるとしようではないか。毒を食らわば皿まで。この戦に勝利するなら私も覚悟を決めようではないか」


 ふぅ…… どうにかギリギリだけど受け入れて貰えたようだ。こんな面倒な事はせずに、勝手にバルドゥインとテオドアと一緒に共闘すれば良かったのでは? と思うが、それだと他の人達との連携が取れず戦場が荒れるだけだ。ちゃんと事前報告をしてバルドゥインとテオドアを含めた作戦を立てなくては、例え勝てたとしても犠牲は減らせない。


 回りくどくても、これで此方の損害は最小限に抑えられる。さぁ、ここから僕達の反撃が始まるんだ。

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