終戦への一石 1
「なるほど…… レイスから相棒、ヴァンパイアからは王と呼ばれる人物とクレスは知り合いで、今の戦況を憂いてそこの二人を寄越したって訳か」
うんうんと頷くグランさんは僕達のやり取りを見て、自分で情報を整理していた。
「流石は相棒が一目置く冒険者なだけはあるな。相変わらず察しが良くて助かるぜ」
「うん? テオドアだったか? あんたの相棒ってのは俺の事を知っているようだな…… もしかして何処かで会ってる? 」
「そ、それより! 早く指令本部へ調査報告に行かないと! 何時までもここに立ってても仕方ないからね」
僕は何かに気付きそうなグランさんに声を掛け、報告に向かおうと強引に促す。まったく、テオドアは口が軽いから何かの弾みでポロッとライル君の事を漏らしかねない。
「クレス、報告と言っても何処までするのだ? バルドゥインとテオドアの事も話すのか? 」
「それなんだけど…… バルドゥインは僕と協力して魔物の軍勢を追い払うように命令されているんだよね? 」
「然り、故にこうして此処へ来た。あれらを追い払うだけなら俺一人でも十分だが、王の命令だからな」
このバルドゥインは、命令に忠実過ぎるヴァンパイアのようだ。これなら人間に危害を加えるなとの命令も絶対に守り通すだろうね。だからこそ信用出来るというもの。
「それからもう一つ聞きたいんだけど、彼処に三人いたヴァンパイアの最後の一人はどうしたんだい? 」
「勿論、俺に吸われて灰になった」
そう答えるバルドゥインに被せ気味でテオドアも口を開く。
「でもよ、あの変なミノタウロスは生きてるぜ。あいつ、馬鹿力なうえに耐久力も半端ねぇぞ」
それは残念。あわよくば倒してくれていたらと思っていたけど、そう上手くはいかなかったか。
「そんで? どうする気なんだ? 」
グランさんの言葉に、皆が僕の答えを待つかのように静かになった。
「僕は、正直にバルドゥインとテオドアの事も話そうかと思ってる。幸いにもヴァンパイアは倒され、死体からアンデットは作れなくなった。それと明日の朝にはまた五十体のゴーレムがインファネースから届くから、戦力も十分に揃ったと言える。これを機にここいらで攻めに転じても良いのではないかと思ってさ…… どうかな? 」
アロルドの予想通り、敵の要となる魔物は実在した。ならばあの異質なミノタウロスを倒せば、魔王軍は混乱して連携が崩れる筈。後は散り散りとなった魔物達を各個撃破すれば、引き返していくのではないのか?
僕のこの提案に、グランさんは成る程ね―― と呟いた。
「確かに、アンデッドの脅威がなくなるのはかなり有り難い。今度は此方から夜襲を仕掛ける事だって可能だし、これは戦いを終わらせる絶好の機会とも言えるな」
「でも…… 魔物と協力するなんて…… 納得してくれるかしら? 」
そう、最大の懸念はそこなんだよな。レイチェルの言うように、魔物が人間に協力するなんて言ったら絶対に疑われる。僕だって、逆の立場ならその人の正気を疑うよ。
「分からない。だけど、この二人を受け入れてくれたのなら、そう時間を掛けずにこの戦いは終わるかも知れないんだ。変に疑われてもいい。これ以上犠牲者が増える前に早く終わらせたい」
結局、僕の力ではここの人達を救う事なんて出来なかった。これじゃ全てを救うなんて到底出来る筈もない。ここは一か八かの賭けに出るしかないんだ。
「そんじゃ、俺様達はここで待ってれば良いんだな? 」
「うん。なるべく早めに戻ってくるから、それまで待っててほしい」
バルドゥインとテオドアは魔物であるから、当然結界を抜けて基地内部には行けないので、アロルドと総司令官をどうにか結界の外まで連れ出し二人に会わせる必要がある。
「そう上手くいくのかしら…… ? 魔物と人間が共に戦えるのかどうか…… 」
「…… 大丈夫よ、レイチェル。…… ライルの魔力収納の中では魔物であるアルラウネ達が普通に生活しているし、一緒に戦っているのも見てるわ…… 」
心配するレイチェルをリリィはライル君の事を持ち出して慰めているが、ライル君以外で魔物と共闘している人間なんて見たことがない。実例が一人だけなので、レイチェルの不安は良く分かるよ。
「あのよ、俺も行かなきゃならねぇのか? 正直言って、お偉いさん方の相手は苦手なんだよな。本部への報告はクレス達に任せて、俺は仲間と知り合いの冒険者に後で混乱しないよう説明しに行くってのはどうだ? 」
「そうですね…… 事は急を要します。予め冒険者達に話しておくのも良いかも知れませんね。お願いします、グランさん」
結界の中に入ってすぐグランさんと別れ、僕とリリィ、レイチェルとレイシアの四人は指令本部のテントへと向かう。
中へ入れば、アラン君と交代したのか既にアロルドが総司令官と何やら言い争っていた。
「兵士から報告があっただろ? グールとスケルトンの動きが明らかに怠慢になり、レイスは困惑して何処かへ飛んで逃げて行った。恐らくクレス達がアンデッドを生み出し操っていたヴァンパイアを倒したんだ。警戒するのは分かるが、この機を逃すなんてどうかしてるぞ! お前らの頭は飾りなのか? 」
「口を慎みたまえ、いくら勇者候補でもその言葉は頂けないぞ。私達を侮辱しているのかね? 私だって出来るならこんな戦い早く終わらせたい。しかし、調査結果を聞かない事にはまだ何も始められん。今暫く待ちたまえ」
余程白熱していたのか、二人はテントに入った俺達に気付かずに暫く言葉の応酬が続けられ、やっと此方に目を向けた。
アロルドのお蔭様で場の雰囲気は最悪だ。とても魔物と共闘しましょうなんて言える空気じゃない。レイシア、リリィ、レイチェル、誰でも良いから代わってくれないかな? えっ、駄目? だよねぇ…… 。
僕の助けを乞う視線に、揃って仲良く首を振る三人に思わず溜め息が溢れる。仕方ない、それほど口は達者ではないけど、精一杯頑張るとしますか。




