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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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暴虐の牙 5

 

 朝、予定通りアルクスさんがインファネースから追加のゴーレム五十体を用意してくれたので、早速魔物を倒すよう命令して戦場へ送り出した。


「ては、また夜にゴーレムをお届けしますね」


「今日の夜にですか? それは流石に早すぎでは? シャロット達は無理をしていませんか? 」


「その辺りは問題ありませんよ。昨日も言ったように、今回は質より量を重点にして作っていますからね。そんなに時間を掛けないようにしているんです。まぁ、少し壊れやすくなってしまいますが、その時は周囲の魔物を巻き込んで自爆する前提ですので」


 なるほど、頑丈さを捨てる事で製作時間を大幅に減らしている訳か。初めから壊される事を想定して作っている訳だから装甲も最低限の箇所にしか着けていない。


 アルクスさんが基地の外へ出ていくのを見送っていると、今さっき目覚めたばかりな様子のアラン君が歩いてくる。因みにレイチェルは既に起きていてリリィと何やら話していたり、時偶無言で見詰め合っている。


「眠い…… 朝食はないのか? 」


「おはよう、アラン君。朝食なら彼処のテントで教会の人達が配膳してるから、貰ってくるの良い」


「は? ぼくが貰いに行くのか? 」


 何でぼくが態々出向いて食事を貰わなければならないんだよ―― と、小言を呟きながらも、律儀に列へ並ぶ様子に思わずクスリと笑ってしまう。典型的な貴族の考えを持っているけど、生真面目な本質は隠しきれていない。だからなのか、僕はそんなアラン君を嫌いになれない。



 朝食の内容にこれまた不満を漏らしつつも完食したアラン君とレイチェルが戦場へ赴くのを確認し、指令本部となっているテントへと足を進める。







「もうこれ以上粘るのは危険だと分かっているだろ? ここは一気に攻め込み、敵の中枢を叩くべきだ! 」


 総司令官と援軍に来てくれている各国の隊長や指揮官が集まるテントの中で、アロルドが声を高らかに張り上げる。


「むぅ…… しかしだな、水の勇者候補殿。ゴブリンやオーガ、ソルジャーアントだけならばそれでも良かったのだが、その後ろに控えているアラクネとミノタウロス相手では難しいのではないか? いくら投石機を壊したと言っても、ポイズンピルバグズがいなくなった訳でもないし、光の勇者候補からの報告ではヴァンパイアまでいる可能性があるとの事。やはりここはもっと慎重にならざる得ない」


 煮え切らない態度の総司令官に、アロルドはあからさまに舌打ちをして不機嫌を露にする。


「火の勇者候補が加わり、インファネースから新しいゴーレムが送られてきた今が絶好の機会なんじゃないのか? 」


「そうだとしても、魔物側にいるという指揮官の存在はまだ確認されてもいないのだぞ? ヴァンパイアも可能性があるというだけで確定した訳ではない。全てが仮定でしかないこの状況で下手な事は出来ぬのだ。此処にいる者達の命を預かる者として、そんな博打紛いの作戦を実行させる事など出来るはずもなかろう」


 総司令官の意見は尤もなものだった。その立場上、軽率な行動は控えなければならない。だからと言って何もしなくても良いわけでもなく、匙加減が難しい所ではある。


「それでは、アロルドの言う魔物を指揮している存在が確認出来れば良いのですよね? インファネースから朝と夜に追加のゴーレムが送られてくる予定ですので、ある程度戦力が整ってきたら調査隊を組んで調べるというのはどうでしょう? それでその指揮している魔物がいたら狙いを絞った作戦を考え、いなかったらいなかったで、それに合わせた作戦を考案すべきです。僕も何時までもこのままでは悪戯に兵を失うだけだと思いますので…… 」


 僕の意見に耳を傾けていた総司令官は、眉間に深い皺を作り唸ってしまった。周りの隊長や指揮官の人達も少しざわめき立つ。


「珍しいな、お前の事だから守りを優先すると思ったんだがな」


「誤解しないで欲しいのだけれど、僕は常に人を救う事を優先としている。先程の提案も君に賛同した訳ではなく、何時までも不確かなものをそのままにはしておけなくてね。幸いにもインファネースからの助力とアラン君とレイチェルのお蔭で、多少だけど余裕が生まれた。これを活かさないと此方の被害は日を追うごとに多くなる。それは避けなければ」


「何にせよ、俺もお前も現状維持には反対だって事だ。で、どうするつもりだ? 」


「先ず、君が予想している魔物の指揮官の調査とヴァンパイアの存在確認は少数精鋭で行った方が効率は良いと思う。ただし、生半可な実力では駄目だ」


「まぁ、そうなるよな…… となると、最低でも勇者候補を一人はその調査隊に入れる必要はある」


「僕としては、自分とレイチェル、リリィにグランさんの四人で調査に行きたいんだけどね。アラン君とアロルドが隠れて調査している姿は想像出来ないし…… 」


 そんな遠慮ない言葉に、アロルドは怒る事なく黙って聞いていた。


「確かに、俺はどっちかと言えば真正面から攻め落とさないと気が済まないからな。あの火の勇者候補も余り隠密には向いて無さそうに見えたし、消去法でクレスで決まりだな。後の奴は何が基準で選ばれたんだ? 」


「レイチェルは闇魔法が使えるから、夜の闇に紛れて魔王軍に近付ける。リリィは魔石や結晶が無くとも自身で転移魔術を発動可能なので、いざという時の退路を確保出来る。グランさんは冒険者の中で顔と名前が知られ信頼も厚い。そんな彼が敵の指揮官を確認したと言えば、冒険者の大半は納得してくれるだろう」



 約三時間にも及ぶ会議の末、僕の提案が採用された。決行は明日の夜、迫りくるアンデッドを避けて、魔王軍の中に指揮官及び死霊魔術でアンデッドを作っているヴァンパイアがいるかどうかの調査を行う事となった。

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