暴虐の牙 2
僕は光速でアロルド達の所へ向かい、基地で休むよう伝える。
「あぁ、そろそろ魔力が限界だったから丁度良かった。それより、彼等は何者だ? お前の仲間が一緒のところを見れば、知り合いなのは予想できるが…… 」
アロルドが送る目線の先には、トロールが運んでいる投石機へ一直線に突貫するアラン君達がいた。
僕が簡単にこれ迄の経緯を説明すると、アロルドは感心の声を上げる。
「ほぉ、それは良いな。あれがリラグンドにいるもう一人の勇者候補か。それにインファネースから新しいゴーレムが送られてくるのも助かる。これなら安心して休んでいられるな」
「そういう訳だから、後は任せてくれ」
「分かった。俺が戻るまでヘマするんじゃないぞ」
アロルドが義勇兵達を連れて後退していくのを支援していると、突然辺りが明るくなり、熱風が吹き荒れる。
何事かと魔物から目を逸らせば、先程までアラン君達がいた所に、炎を纏った竜巻が上空まで立ち上り、周囲の魔物を呑み込みながら前進していた。
もしかしなくても、あれはアラン君がやったのか?
「お前達! ボケッとしていないで撤退するぞ! 早く体を休めて次に備えるんだ!! 」
転移結晶を発動したアロルドが、あの炎を纏った竜巻の圧倒的な威力と存在感に目を奪われている義勇兵達を一喝し、空間の歪みへと誘導する。
「流石は火の勇者候補だ、随分と派手になるじゃないか。クレス、後は頼むぞ! 」
アロルドが入って消えていく空間の歪みを確認した僕は、急いでアラン君達と合流する為、光魔法を発動させる。
「あら…… ? 水の勇者候補は無事に撤退したようね…… 」
リリィと二人で黒い馬に跨がるレイチェルが、光と共に現れた僕に声を掛けている間にも、闇魔法で生み出された黒狼達は周りにいるオーガとゴブリンを牙で噛み砕き、爪で切り裂いていた。
「あ、あぁ。あの竜巻に魔物が怯んだので、安全に退かせる事が出来たよ。あれはアラン君がやったんだよね? 」
「えぇ、そうよ…… アランは火の勇者候補だけど、別に使える魔法が火だけではなく、もとから四つの魔法スキルを授かっているわ…… あれは炎と風の魔法を合わせて発生させた、火炎竜巻よ…… アランは魔法と剣の腕は良いんだけど、頭はそんなによくないの…… だから今まで魔法も何となく使っていただけなんだけど、魔法というのはその属性の特性を理解する頭と、想像力で無限に可能性を広げられる…… あれはわたしがアランに炎と風の特性と関係を説明したから生まれた魔法なの…… 」
「炎と風の関係? 」
「そう…… 小さな火は強い風に晒されると消えてしまうけど、大きな炎は逆に取り込んで更に激しく成長する…… アランは理解こそしていないけど、そういうものだと受け入れ想像力だけであれを作り出した…… ほんと、感覚だけでやってのけるのだから、ああいうのを天才肌って言うのよね…… 」
そう言うレイチェルは少し寂しそうに笑い、リリィが後ろから背中を撫でて慰めている。僕には分からないけど、レイチェルにも何か悩んでいる事があるのだろう。
それにしても何て威力だ。あまりの熱波でこれ以上は近づけない。あの火炎竜巻に巻き込まれた魔物はすべからく灰となり、近くにいるものもその熱量にやられて倒れていく。これにはトロールも為す術無く投石機と一緒に焼かれ砕けてしまう。
そんな光景を満足気に眺めるアラン君を、レイチェルは羨むような視線を向けていた。
確かにアラン君の魔法は凄まじいと思うが、レイチェルの闇魔法だって負けていない。
二十体程の黒い狼を同時に操り、尚且つ闇魔法で生み出した一匹の黒く長い蛇が、レイチェルの左手から背を通って右手まで絡まり、左手の甲にある頭を伸ばしては近くのゴブリンに食らい付き、肉を食い千切る。右手の甲にある尻尾の先端は針のように鋭く尖り、オーガの肉体に風穴を開ける。
その後ろでリリィが魔術を発動させ、空にいるハルピュイアと虫の魔物を風の刃で切り刻み落としていく。
「流石ね…… リリィの魔術陣はもう芸術と呼べるくらいに美しいわ…… 」
「…… ありがとう。…… レイチェルの魔法だって、忠実に生き物を再現していて、とても綺麗」
本当にこの二人は仲が良いな。馬の背でお互いに称え会う少女の姿は、殺伐とした戦場であるからこそ映えるものがある。
「ハハハハ! クレス、これは良いぞ! この駆け抜ける疾走感は中々癖になるな!! 」
黒狼に乗ったレイシアが、マナトライトで広げた盾で攻撃を防ぎつつ剣で魔物達を切り伏せ、土魔法で作った石礫を射出している。
本来、守りを生業とするレイシアはその堅牢な鎧を身に纏っている為、動きに多少の制限が掛かるので自由に動き回れる事が出来ない。それが今、レイチェルの闇魔法で生み出された黒狼という移動手段を得て、これ迄と違った戦いに若干興奮しているようだ。
漸く火炎竜巻が消えた後には、焦土と化した地面が拡がるだけで何も残ってはいなかった。その中を黒狼に跨がったアラン君が駆け抜け、両手に持つ聖剣を振るう。
おっと、呑気に眺めていないで僕も投石機を壊しにいかないと。近くにある投石機はアラン君達に任せ、僕は光魔法で遠くにある投石機まで一気に移動して、光の刃を伸ばして側にいるトロールごと切り裂く。
アラン君とレイチェルのお陰で目に見える全ての投石機を壊した頃には、既に日が沈みかけていた。
さて、ここからアンデッドとの戦闘が始まる。アルクスさんは予定通りにゴーレムの準備が出来ているのだろうか?




