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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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「ライルさん。漸く約束を取り付けまして、明後日には元首と面会出来ますよ」


 トルニクスの首都へ来て三日目の夜。皆で夕食を食べてる時にエルマンがそのふっくらとした頬を上げて笑顔を浮かべながら言う。


 これでやっと王妃様からのお使いを完遂出来る。ここでのんびりと過ごすのも悪くないけど、いい加減インファネースに戻って南商店街の店主達と話し合いをしなくてはならない。別に今のままでも問題はないけど、せっかく代表という立場になったからには、もっと南商店街を発展させたいと思うのは当然ではないだろうか。


「ようじが終わったら、アンネちゃん達は帰っちゃうの? 」


 エルマンの娘であるソフィアが、食事の手を止めて悲しそうに顔を下げる。


「そうね。でもさ、あたし達が帰ってもこうして別の子達が遊びに来るんだから寂しくないでしょ? それに、会いたくなったら転移門で何時でも店に来れば良いじゃない! 」


 アンネの言葉にソフィアは期待の籠った目をエルマンに向けた。


「ふぅ…… ママと一緒ならライルさんのお店に行ってもいいよ。くれぐれも迷惑にならないよう良い子にするんだよ? 」


「うん! わかった! 」


 元気一杯な返事に苦笑したエルマンが俺に、ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いいたします―― と頭を下げる。


「いえ、大丈夫です。母もきっと喜びます」


「それは良かった。これで私も安心して家を留守に出来ます。王妃様に早く報告せよと急かされてしまいまして…… 」


「それはあの連絡用の鳥型ゴーレムでですか? 」


「いや…… 実は今日、噂の西商店街にある妖精達が集まる喫茶店に寄ったのですが、偶然そこに王妃様がいらっしゃいまして、恐れ多くも席を共にしたのです。流石に人目も多い場所でする話でもないので、後日レインバーク領主の館にて詳しくご報告する事に相成りました」


 うん? 王妃様は何をそんなに急かしているのだろう? ガーゴイルの事がそれほど気になるのかね? 不思議に思い、心の中で首を傾げていると、エルマンが困った顔を浮かべた。


「ライルさん、忘れたんですか? 王妃様が早急に知りたいのは転移門の事ですよ。ライルさんがマナフォンで軽く説明しただけがでしたので、もう気になって仕方ないといった感じでした。なにせトルニクスにいる筈の私がインファネースの喫茶店でお茶している訳ですからね。その気になれば王妃様自らトルニクスへ訪れて直接元首と交渉する事も視野に入れてるのではありませんか? 」


 あっ、そうだった。ついブランド肉につられて王妃様に転移門の事を喋っちゃったけど、もう転移魔術だってあるんだしそんなに驚かないと思ってた。


「時折、ライルさんの判断基準がどうなっているか分からなくなりますね。確かに転移魔術は便利なのですが、いかんせん便利過ぎるんです。あれでは他国に警戒されてしまうでしょう。ですが、転移門なら何処から来るか一目了然。片方の門を見張るだけで、各国と距離に関係なく交易や物資のやり取りが可能となるのですから、否が応でも注目せざるを得ません」


 適度な不便さが価値を高めてしまっているのか…… ほんと面倒な話だな。でも、昔の人達は国と国を行き来するのに転移門を日常的に使っていたとギルが言っていたので、それが目的で作られた物なのだろうから、同じ目的で使おうと王妃様が考えるのもおかしくはないか。


 王妃様がこの転移門を利用して各国と交流を図ろうと言ってきたらどうしよう? いや、きっと大丈夫だ。そうならないようドワーフ達と口裏を合わせて、許可が無い者には使わせないという設定までつけたんだ。


 因みに、この事をマナフォンでガイゼンアルブのギムルッド王に話したところ、


「またお主は儂等を捲き込みよって…… リクセンドより達が悪いぞ。協力してやってもよいが、後でジパングの酒を大量に用意しておくのじゃぞ? 」


 という具合いに、酒を要求された。まぁ、酒だけでドワーフ全員が口裏を合わせてくれるってのなら安いもんだけどね。


 とにかく、明日エルマンはインファネースで王妃様を訪ねないといけない訳だ。地下市場で他種族達との商談に、諜報員として王妃様への報告義務と、色々大変だなぁ……


 ボケーっと他人事のように思っていたら、エルマンから予想だにしなかった言葉が飛び出した。


「そういう事ですので、明日はよろしくお願いしますね」


「ん? あの、よろしくとは何です? 」


「え? いや、ライルさんも一緒にきてくれないと困ります。私よりライルさんの方がお詳しいのですから。それに王妃様からも連れてくるようにと頼まれておりますので…… 」


 まじかよ…… まだ書状も渡していないこの状況でお呼びが掛かるとはね。完全に油断してました。


「パパ。おしごとのお話は終わった? 」


「あぁ、ごめんよソフィア。今終わったよ」


 そこからはソフィアが今日の出来事を、遊びに来ている妖精達を交えて報告してくる。


 同じ報告でも、こっちは楽しそうで良いな。俺の方は怖い王妃様相手だから、ソフィアのように明るく出来ないよ。


 はぁ、権力者の相手をすると、必要以上に気を使ってしまうから神経がすり減ってしまう。前世もそれが原因で頭が薄くなっていった経験がある。この歳でまだ禿げたくないぞ!

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