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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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「そうだ! ソフィアちゃんはまだ海を見た事が無いって言ってたよね? 今から見に行っちゃう? 」


「うみ、みれるの? みたい! 」


「そんじゃそういう訳だから、あたし達はちょっくら港まで行ってくんね! 」


 アンネはソフィアを漁港に案内するつもりのようだ。トルニクスは内陸部にあるので海はない。まだ六歳のソフィアでは長旅は出来ないので海を見る機会がなかったらしく、初めての海に期待で顔を輝かせていた。


「それは良いけど、二人だけじゃ心配だな」


「あ、それなら私も一緒についていきますので…… 」


 イレーネも一緒なら、まぁ大丈夫かな? ソフィアも母親が隣にいてくれた方が安心だろう。


「んじゃ、決まりね。おっ! 良いところに…… お~い! ちょっとそこのあんた!! 暇してる子達を港まで集まるように言って来てよ。これは女王命令よ! 」


 偶々地下にいた妖精に声を掛けたアンネは、精霊魔法で港へと空間を繋ぐ。円く広がる歪みの先から、波の音と潮の香りが流れてくる。


「よっしゃ! あたしについてきんしゃい!! 色々と案内してあげる」


 アンネを先頭にソフィアとイレーネがついていくと、空間の歪みは閉じて消えた。


「なんか、勝手にアンネがつれ回してしまい、すみません」


「いえいえ、インファネースは安全なのですよね? それに、二人も楽しそうでしたので構いませんよ。では、此方も地下市場を堪能させて頂きますね」


 俺はエルマンを連れて地下を案内し、その場にいる他種族の人達に紹介していった。


 エルマンは持ち前の社交性と巧みな話術で場に溶け込んでいくが、取り引きの話をする素振りは今のところ見せない。先ずは自分という人間を受け入れてもらう事から始めるようだ。何事も功を焦らずに一歩ずつ着実に歩んでいく姿勢には感心するばかりだ。



「成る程、魔法で海水から飲み水を確保すると副次効果で塩が出来るのですね? 」


「正確には女王様が使う精霊魔法ね。今までは殆ど海に捨てていたけど、ライル君と出会って人間達と関わるようになって、私達には邪魔でしかなかった塩がお金に変わるんだから、不思議よねぇ」


 人魚からの話を真剣に聞くエルマンは、ここで初めて商売へと切り出した。


「私のいるトルニクス共和国は内陸に位置するので、海に面する所がないのです。それ故に海の塩は他国からの輸入に頼るしかありません。我が国で取れるのは岩塩だけですので」


「私としてはその岩塩ってのが気になるわね。海の塩とは味が違うのかしら? 何か新しい料理に使えそうだわ」


 人魚が岩塩に興味を持つのを見たエルマンの目がここだと怪しく光った―― 気がした。


「でしたら、次に来たときご用意しましょうか? それで気に入って頂けたのなら、そちらがもて余しているという塩を譲ってもらえたら助かります」


「そうねぇ…… 私達にとってはタダで幾らでも手に入るものだから、別に良いわよ」


「それでは、明後日にまたここで会うというのは如何ですか? 」


 人魚と大まかな約束を取り付けたエルマンの顔はとても晴れやかだ。


「まさか塩が大量に仕入れられるなんて…… しかも彼女の話では捨てるほどあるとか…… 良い取り引きが出来ました。これもライルさんにここへ連れて来てもらったお蔭です」


「そんなに海の塩は貴重なんですか? 」


「えぇ、岩塩と違ってあまり塩辛くないので、よく好んで使われているのですが、魔王の影響により輸入量が減ってしまい、塩の値段が高騰していましてね。ここで大量に仕入れておけば、これ以上値段がつり上がる事はなくなるかと思いまして…… 安定した供給を維持出来るのなら、塩の価格も元に戻るかも知れません」


 へぇ、己の利益よりも市場での価格高騰を抑えるのが目的な訳か。人間が生活していくうえで塩は無くてはならないもの。国内で取れる岩塩の量は決して多くはない。そうなると豊富にある海の塩に頼らざる得なくなる。個人よりも国の利益に繋がってこそ、安定した収益が見込めるのだとエルマンは言う。








 その後もエルフ、ドワーフ、天使と交流を図り、今は上にある家の客間で休憩している。


「ふぅ…… この紅茶はとても美味しいですね。どこの茶葉です? 」


「帝国にあるデットゥール商会から仕入れている茶葉です。私も一口飲んで気に入ってしまいました」


「ほぅ? 話には聞いていましたが、これがあのデットゥール商会自慢の茶葉ですか…… いやはや、他種族の方々といいライルさんの顔の広さには舌を巻きますね。これで何故繁盛していないなんて言えるのですか? 」


「いやぁ、それがですね…… デットゥール商会の支店が西商店街に出来まして、殆どの客は向こうに流れていってるんです。あの地下市場だって別に利用料等は取っておりませんので、此方の利益はほぼ無いに等しいです」


「そうでしたか。店の地下を無料で開放している訳ですから儲けがないのは当然ですね。それに本来の店の売り上げに繋がらないのも確かに厳しい。私の方でも、ライルさんの店からマジックバックやマジックテントを多く買わせて頂きますよ。折角他種族の方々と良好な関係を築けそうなのに、ここが潰れてもらっては困ります」


 ははは…… 乾いた笑いしか出てこないよ。でもま、エルマンも店を存続させようと協力してくれると言うので心強いよ。



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