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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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69

 

 翌朝。転移門を設置する為、エルマンの案内で俺達は邸の地下倉庫まで来ていた。


「ここにあるのは全部商品ですか? 」


「いえ、家で使うものばかりですね。商品は店の倉庫で保管してあります。この奥にあるのは殆どが私の趣味で集めた物ばかりでして、使用人達もここまでは来ませんよ」


 何だか良く分からない魔道具や骨董品かな? そんなのが無造作に置かれている。エルマンの妻であるイレーネは、ガラクタと言っているが、それを聞いたエルマンの顔は何処か寂しげだった。まぁ、こういう趣味は総じて理解されづらいものだからな。



 それじゃ、奥の壁に沿って転移門を設置するか。その前に、先ずはアンネの精霊魔法で一度インファネースにある俺の店に戻り、対となる転移門を先に設置しておこう。


「アンネちゃん…… どっかいっちゃうの? 」


「大丈~夫よ! ちょっとだけ向こうに行って来るだけだから、すぐに戻ってくるかんね! それまで良い子で待ってられるかな? 」


 自分から離れるアンネに、ソフィアは不安そうな表情を浮かべつつも素直に頷いた。


 アンネの精霊魔法で空間を繋ぎ、インファネースの店の地下へと戻った俺は、そこに居合わせた母さんと他種族に軽く説明した後、彼等に見守られながら転移門を設置してエルマンの邸へと戻る。


 そして言葉通りすぐに戻ってきたアンネに喜んで駆け寄るソフィアを尻目に、こちら側にも転移門を設置した。


「これで何時でもライルさんの店に行ける訳ですね? 」


「いえ、これだけだと少し厳しいので、ある物を付け加えておきます」


 そう、このままでは転移門を発動する魔力を多く必要とするので、何時でも自由にとはいかない。エルマンは家を留守にしがちなので、この転移門を発動させるのは奥さんのイレーネになる。いざという時に魔力が足りなくて発動出来ませんでしたなんてなったら困るので、転移門の柱にとある仕掛けを施しておく。


「それは、魔石―― ではありませんね。形も違いますし色も白い」


「これは魔力結晶です。魔力結晶は魔核と同じで周囲のマナを取り込み魔力へと変換する仕組みになっていますが、魔核よりも断然魔力結晶の方が溜め込んでいられる魔力量が多いのはご存知ですよね? これならイレーネさんの魔力を使わずとも、この魔力結晶の魔力だけで転移門を発動出来ます。使った魔力は時間が経てばまた貯まりますが、一度に何度も連続して使用すれば壊れてしまう恐れがありますので注意して下さい」


 分かりましたと真剣に聞くイレーネの横で、エルマンは何やら別の事を考えているように魔力結晶を見詰めていた。


「私の知っているものとは違うような…… それに、貴重な魔力結晶をこうも簡単に使ってしまうなんて…… ライルさん、説明して頂けると有り難いのですが? 」


「えっと…… あまり詳しくは言えませんが、二千年前に使われていた魔道具をドワーフ達から譲り受けまして、それを使って人工的に生み出したのが、この白い魔力結晶です」


「…… はい? じ、人工的に魔力結晶を? そんな魔道具があるなんて…… それでは、ライルさんはいくらでも魔力結晶を作り出せるのですか? 」


 ワナワナと震えながら、エルマンが興奮を隠しきれない様子で聞いてくる。そんな夢のような魔道具があると聞いて、興奮しない商人なんていない。だけど――


「残念ですが、そう上手い話はありませんよ。その魔道具を使ったとしても、これくらいの魔力結晶を一つ作るのには、国の魔法士数十人分の膨大な魔力を必要とします。なのでそう簡単に作れる物ではありません。これだって大量の魔石と魔核を注ぎ込んで漸く作り出せた物なんですよ」


 俺の説明に明らかに落胆するエルマンをイレーネが慰める中、転移門がちゃんと発動するかのテストを始める。


 うん、発動した転移門の先には俺の店の地下が見える。使用する分には特に問題はないようだ。この結果に満足していると、背後から転移門を興味深く見詰めるエルマン一家の姿があるのに気付く。


「どうです? 今から転移門を通って私の店に来ますか? 」


「宜しいので? それなら是非ともお願い致します! 」


 少々興奮気味なエルマンと緊張しているイレーネ、そして良く分かっていないであろうソフィアの三人を、店の地下へと案内する。


 転移門を抜けた先に広がる景色にエルマンは驚嘆の声を上げ、イレーネとソフィアは目を見張り口は半開きになっていた。


「ようこそ、地下市場へ」


「地下市場、ですか? 」


 初めはただ店の地下に、上と同じようなカウンターと商品棚を置いただけの狭い空間だった。それがドワーフの国と繋ぐ転移門を用意した頃から、多くの人魚、エルフ、ドワーフが店の地下を行き交うようになり、手狭になってきたので少しずつ空間を広げていったのだ。


 その後に天使の集落に転移門を置いた事で、益々人の出入りは激しくなっていく。今では俺の店を通さずに自分の持ってきた商品で相手と直接取り引きを行うようになり、自然と他種族達の市場が地下に出来上がってしまった。


 地下を広げて使うなんて、インファネースでは今のところ俺だけなので、いくらでも広げ放題だ。まぁ、少しやり過ぎた感は否めないが、問題ないだろう。


 この広い地下空間に、エルフ、ドワーフ、人魚、天使が交流しているのを見てエルマンの商人魂が疼いたのか、目を輝かせ口角は上がりっぱなしだ。


「ラ、ライルさん…… ここへ連れて来てもらえたという事は、私も彼等に混ざっても良いのですよね? 」


 千載一遇のチャンスだもんな。これを見逃す奴は商人に向いていない。


 俺が勿論だとハッキリ首肯いて見せれば、エルマンは子供のような笑顔を浮かべて喜ぶのだった。

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