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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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65

 

 イレーネとエルマンに案内された広いリビングにある長テーブルの上には、既に料理がズラリと並んでいた。


「おっそい! 何時まで待たせんのよ!! ソフィアちゃんのお腹はもう限界よ! 」


 エルマンの一人娘であるソフィアの肩にちょこんと座っているアンネが早く席につけと急かしてくる。


 もうすっかりアンネとは仲良くなっているようだけど、まだ俺達には慣れていないのか、目をキョロキョロさせて挙動不審ではあるが、時折エレミアを見ているのが分かる。


「エレミア~、ちょっとソフィアちゃんの隣に座りなさいよ。あんたに興味があるんだって」


 アンネがそう声を掛けると、ソフィアは顔を赤くして俯いてしまった。成る程、妖精のアンネも珍しいけど初めて見るエルフにも興味津々か。


「エレミア、ソフィアちゃんの隣に座ってあげなよ」


「ライルがそう言うなら良いけど…… 」


 長テーブルの先頭にはエルマンが、そして右側の席にイレーネ、俺、ゲイリッヒが座り、左側の席にはソフィアとエレミアが座る。アンネは席につくというより、テーブルの上に立っていると言った方が正しい。


「さぁ、どれも一級品の食材と一流レストランのシェフを呼んで作らせた料理ですよ。作法は気にせず遠慮なく召し上がって下さい」


 作法は気にせずに、か。高級料理なら一品ずつ出てくるコース料理が普通だが、エルマンは俺に合わせて全ての料理をテーブルの上に置いてくれている。こういう何気ない気遣いが信用と実績に繋がる訳だな。


 それにしてもどれも美味しそうだ。エルマン一家が食事前の祈りを唱え、俺達は一言いただきますと手を合わせる。まぁ、俺には合わせる手が無いので義手で代用しているけど。


 エレミアは最初こそ神に祈りを唱えていたが、長ったらしい言葉よりこの方が一言で感謝を捧げられるからという理由で、今では俺と一緒にいただきますと手を合わせるようになった。ゲイリッヒは叔父さんの影響か、初めから食事前には手を合わせていた。


 さてと、どれから頂こうか…… こんなに種類があると迷ってしまうよ。それに加えてエルマンとイレーネが此方を反応を見ている。どうやら俺達が食べない事には彼等も食事に手をつける気はないらしい。出来ればその気遣いは遠慮してほしいな、変なプレッシャーを感じてしまって食べづらいよ。因みにソフィアはアンネと一緒になって既に食べ始めていた。



 ふぅ、可能な限りエルマンとイレーネは視界の隅に追いやり、料理に集中する。先ずは目の前にある牛肉の煮込み料理からだ。


 義手でフォークを掴んで中の肉を持ち上げるが、ホロホロと崩れてしまう。今度は慎重にゆっくりと口へ運び良く味わう。


 うん…… 牛肉はとても柔らかく、上品な香り。これは赤ワインで煮込んでいるな? 美味しくて手が止まらないよ。


 そんな俺の反応を見て、エルマンとイレーネは満足したのか、自分達も食べ始めた。


 豚肉のコンフィも素晴らしいね。肉が良いのか、油脂の甘さが際立つ。トルニクスの定番料理でもあるキッシュも、肉厚なベーコンと野菜が良い味を出している。


 このローストビーフも、柑橘系ソースの爽やかな香りと甘さが肉の味を引き立たせる。


「うぅ…… もう我慢出来ない! ライル、デザートワインを頂戴! こんなに美味い料理を前にして飲まずにいられるか!! 」


 今回はアンネの意見に賛成だな。エルマンが用意してくれた赤ワインも上等なものだけど、エルフが作っているのと比べると少々物足りない。


 俺はエルマンに断りを入れ、魔力収納からデザートワインとエルフ産のワインを取り出す。


 これこれ! とはしゃぐアンネに、デザートワインの甘さに驚愕するエルマンとイレーネ。その甘い香りに、ソフィアも飲みたそうにしていたが、六才の子にお酒なんか飲ませられないので、リンゴジュースを渡す。


「あまくて、おいしい! 」


 果実水と違って果汁百パーセントだからな。初めて飲むジュースにソフィアは目を輝かせていた。



 一通り料理を楽しんでいると、メイドさん達が新しい料理を運んできた。


「これは出来たてが美味しいですから、皆さんが揃ってから調理をしてもらいました」


 失礼ではあるが、エルマンの言葉をあまり聞いている余裕が無かった。だって俺の前には前世でもお目にかけない程の特大ステーキがあるんだぞ?


 早速ナイフで肉を切ろうとするが、何の抵抗もなくスッと入っていく。一口サイズにした肉を食べれば、その溶けるような感触に驚き、肉本来の味が口の中に広がり、風味が鼻から抜けていく。


 味付けはシンプルに塩のみ。流石は世界が認めるブランド牛、これが肉の甘みってやつか。


「どうです? ご満足頂けましたか? 」


「それはもう大満足ですよ。ありがとうございます。しかし、手に入りづらいと言っていたのに、良くこんなに用意出来ましたね? 」


「なに、酪農家の方と専属契約を交わしていましてね。それなりに安定した供給が出来ていますよ」


 へぇ、農家から直接仕入れているのか。しかも専属となると、量も結構あるはず。チラッとエルマンに目を向ければ、笑顔を浮かべてくる。


「仰りたい事は分かっております。ですが、今は食事を楽しみましょう。商談はその後で…… 」


 おっと、みなまで言わなくても全てお見通しですか。これは手強いぞ、厳しい商談になりそうだ。

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