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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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戦乱の訪れ 4

 

 目の前の青年は、歳と背丈は僕と同じ位だが、体型はスラッとして細身な感じで、腰まで伸びた濃い青色の髪を簡単に後ろで束ねて伸ばしている。


「会えて光栄だよ。僕はクレス、光の属性神に選ばれた勇者候補だ。君は水の勇者候補で合ってるかな? 」


「俺の事を知ってるのか? 流石は光の勇者候補様だな。俺の名はアロルド。此方も会えて光栄だ。よろしくな」


 僕とアロルドは互いに握手を交わす。女性のような細腕なのに、がっしりとした握手に意外だと思ったのが顔に出たらしく、アロルドは軽く笑った。


「結構力があるだろ? こんな見た目だから良く誤解されるんだ。だから気にしなくてもいいぜ」


「いえ、すみませんでした」


 下手な言い訳はせず頭を下げる僕に、アロルドは真面目だなと呆れたような顔をする。


「自分以外の勇者候補とは初めて会うんだが、クレスはどうだ? 」


「僕は同じ国にもう一人、火の勇者候補がいるからアロルドさんで二人目ですね」


「そうか、確かリラグンドには二人いるって聞いてたな。だから国から出られたのか。それと、歳もそんなに違わないようだし、俺の事はアロルドでいい」


 人混みの中で立ち止まって話すのも迷惑になるので、アロルドが集めた義勇軍が待機しているテントへとお邪魔させてもらう事になった。その道中にも彼との話は続く。


「この様子じゃ、ここに来ている勇者候補は俺達二人だけのようだ。何処の国も保身ばかりで勇者候補を国から出したくないらしい。まったく、身を守るだけでは何も解決しないのにな」


「うん、それには同意するよ。僕の場合は国に二人の勇者候補がいたから許可してくれたけど、アロルドは良く国から出られたね」


「へへ、一緒に戦ってくれる仲間を集めて無理矢理出てきたんだ。文句を言う役人共には数で押し切ったのさ。そうでもしないと動けないからな。魔王が攻めて来てからでは手後れになる。多少強引でも動かなければ犠牲者が増えていくばかりだ」


 闘志に燃える瞳に、僕の心も熱くなる。アロルドも僕と同じような考えを持っているようで、とても嬉しかった。






「さぁ、ここら一帯が俺達がテントを張っている場所だ」


「凄い数だ。良くここまで人を集められたね、大変だっただろ? 」


 テントだけでも百近くはある。そこに二、三人だとして、三百人近くいる訳か。


「俺達が使っているのは全部マジックテントでな、知ってるとは思うけど、見た目以上に中は広いので、一個につき五人で使っているんだ」


「という事は、五百人はいるのか? 義勇軍と聞いているけど、金銭的な報酬は無いというのに…… 」


「皆、金よりも守りたい大切なものがあるからな。俺はそんな彼等の覚悟を全部背負わなければならない。そして一刻も早く魔王を倒して、世界中の力無き人々が安心して暮らせるようにしたいんだ」


 そう語るアロルドの顔は、覚悟に満ち溢れているように見えた。彼ならきっと僕の提案にも賛同してくれるだろう。


 アロルドが使用しているテントへとお邪魔して、話をしていく内に、彼はとても正義感が強い印象を受ける。だからアロルドに僕の考えを話すと、頻りに感心してくれた。


「成る程、確かに俺達の中から勇者が決まるのを待っているより、勇者候補達の力を合わせて魔王に挑む方が早い。しかし、勇者候補が全員俺とクレスのような考えを持っている訳ではないと思うけど、上手くいくだろうか」


「そこは属性神達に選ばれたのだから、信じるしかないね。火の勇者候補であるアラン君は一応協力してくれるようだし、帝国にいる雷の勇者候補もたぶん大丈夫だと思う」


「となると、後は土と闇と風の勇者候補か…… 土の勇者候補はレグラス王国にいると聞いた覚えはあるが、他の二人が何処にいるかは全く分からないな」


 レグラス王国だって? 彼処にも今まさに魔王軍が侵攻している最中だと聞いている。


「なぁ、クレス…… ここの戦いが済んだら次はレグラス王国に向かわないか? 魔王軍の連中もあの雪山を越えるのは難しいだろうし、時間はあると思うんだ。それに、土の勇者候補からの心象もよくなって仲間に引き入れやすくなるかも知れないだろ? 」


「仲間にって…… じゃあ、アロルドは僕の提案に賛同してくれるんだね? 」


「勿論だ。お互いの利害は一致しているんだから呑まないなんて選択はないな。これからよろしく頼む」


 一秒の迷いもなく即決したアロルドに、こういう人だからこそここまで人が集まったのだと納得した。


「そうだ! クレス達は冒険者なんだろ? なら軍には所属していない訳だ。それなら俺達と一緒に戦わないか? 」


「あぁ、是非ともお願いするよ。僕達でこの戦争を終わらせよう。レイシアとリリィもそれで良いよね? 」


「クレスがそう決めたのなら、私はそれのついていくぞ! 」


「…… 私も問題ない。何処で戦おうと一緒」


 決まりだな―― そう言って差し出してきたアロルドの手を、僕は躊躇なく取った。


 それから二日後、僕達は魔王軍と戦う為に前線基地から出立した。


 各国の援軍やアロルドの義勇軍、そして冒険者達といった混成軍が行進していく。目指すはラウドリンク平原、そこが魔王軍との戦場となる。


 いよいよ始まるんだ、人類と魔物との全面戦争が……


 もうこれ以上奴等の好きにはさせない。奮い立つ心を内に秘め、僕はアロルドや義勇兵達と共に戦場へと突き進んでいく。


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