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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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戦乱の訪れ 1

 

「…… うん、そうなんだ。僕らもついさっきシュタット王国に入ったばかりだよ。…… ハハ! それは大変だったね。…… うん、そっちも気をつけて、何かあったら遠慮せずに何時でも連絡してくれて構わないから…… あぁ、その時は頼りにさせてもらうよ。それじゃ、おやすみ」


 ライル君との通話を終わらせマナフォンを切った僕は、焚き火を囲んでいるレイシア達の所へ戻る。


 僕らはリラグンド王国の援軍として、このシュタット王国へと来ている訳だが、最初は王と貴族、文官達までもが国から出ることには反対していた。しかし、冒険者という立場を利用して無理にでもシュタット王国に向かうつもりだった僕の覚悟を察したのか、王は援軍の派遣という形で国から出る事を許可してくれた。


 リリィが提供した転移魔術を開発室の皆と軍事利用の為に改良を加え、この魔王軍との戦争で試験的な運用を試みるそうだ。


 どんな理由でも、侵攻してくる魔王軍を迎え撃てるのならそれでいい。今度こそ、魔王をこの手で討つ。


 あのインセクトキングの巣穴で抱いた後悔が、今も僕を苦しめる。あの時、僕がオークキングを仕留めてさえいれば……


 レイシアとリリィは、レオポルドの妨害があったのだからどうする事も出来なかった。僕のせいではないと言ってくれているが、力不足が原因だったのは明白だ。


 でも今の僕は光の属性神に選ばれた勇者候補として力を授かっている。この力で出来るだけ多くの人々を救うんだ。理想の勇者となる為に、シュタット王国と魔王軍の戦いは絶対に見過ごす訳にはいかない。



「戻ったか、クレス。それで? ライル殿は壮健であったか? 」


 騎士鎧を纏ったレイシアが、焚き火の光で照らされている銀髪を揺らし、此方に振り向く。


「うん、元気そうだったよ。マナフォンの向こうから何やら騒がしい声が聞こえてて、相変わらずライル君の周りは賑やかだったね。どうやらインファネースに王妃様が暫く滞在するみたいで、その王妃様から頼み事をされたんだってさ。それで今はトルニクス共和国にいるらしい」


「うむ。ライル殿は何時も通り色々とされているようであるな。此方も負けてられんぞ」


 ライル君の現状を知ったレイシアは、フンスと鼻息を荒くする横で、リリィが眠そうな目を向けてくる。


「…… そう。彼は忙しいのね? …… 暇だったらここまで呼ぼうと思ってたのに、残念」


「ライル君がいるだけで、旅がぐんと楽になるからね」


 本当に彼は頼りになる。だからと言って何でもかんでも頼りっぱなしは良くない。人間一度でも楽を覚えると、それを持続させようと求めてしまう。もうすっかりリリィは魔力収納の虜になってしまったな。


「そ、それが、例のマナフォン、ですか? はぁ、通信魔道具の小型化なんて、誰も成し遂げてない快挙なのに、どうして秘匿するのです? この際公にしなくてもいいですから、私に…… 私にそれを詳しく調べさせて下さい」


「駄目ですよ、ヘングリットさん。これは僕の友人から頂いた大切な魔道具なんです。おいそれと渡す訳はないでしょ? 」


「く、国の利益に、関わるのですよ? 後生ですからぁ、それを私に…… 」


 今回の旅は、僕達だけという訳にはいかなかった。この如何にも学者然とした男の名はヘングリットと言い、リラグンドの軍事開発室長という立場だ。


 一年の殆どを、魔術の開発や古代魔道具の解析等で外に出ず、この様に人と会話するのが苦手で良くどもる。だけど未知の魔道具を前にすると、人が変わったように積極的になるから困ったものだ。彼は良く言えば変人、悪く言えば異常者である。


 何故そんな引きこもりの達人ともいえるヘングリットさんが、僕達と共にこんな遠くへ来ているかと言えば、シュタット王国への援軍として大量のゴーレム兵を、転移魔術でリラグンドから前線へ運び入れる為である。


 言わずもがな、転移魔術はアンネの精霊魔法と違って移動先の座標を予め設定して置かないといけないらしい。それはリリィ一人でも何とかなるが、不測の事態に備えて室長であるヘングリットさんも駆り出された訳だ。いや、本人が同行に名乗りを上げたというのが正しい。


「フフ、こ、古代に失われた転移魔術が、こうして現代に甦るとは、実に素晴らしいぃ! さ、流石は魔術界の異端児。貴女と一緒に仕事が出来る事を、嬉しく思いますよ」


「…… どうも」


 有能なのは認めるけど、何だか不安だ。ライル君の話では、トルニクス共和国から水の勇者候補が義勇兵を連れて既にシュタット王国に入っているようだし、魔王軍も近くまで来ているらしい。ここはもう少し急いだ方が良いだろう。


「ふむ、思ったより侵攻速度が速いようだ。魔王軍も中々やる」


「…… やっぱり、馬車にしなくて正解だった。城から体力と速さに優れた馬を用意してもらったから、たぶんまだ速度を上げても大丈夫」


「え!? ま、まだ急ぐのですか? うぅ、馬に乗るだけでも相当体力を持っていかれるのに…… お尻がそろそろ限界ですよ」


 まぁ日頃運動なんかしていないだろうし、ヘングリットさんにはちょっと厳しいのかな?


「だらしがないぞ、それでも王の人臣か! そんな流暢に構えていては、救える命も救えんではないか!!見張りは私達でしておくから、ヘングリットは早目に休むといい。明日は日が登りかけている頃に出発だ!」


 レイシアに叱咤され、ヘングリットさんは声にならない悲鳴を上げる。


 気の毒とは思うけど、自分で立候補した事を考えれば同情はしないよ。とにかく、戦いが始まる前に前線へと赴きたい。



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