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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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「んで? 結局なんだってんのよ? 」


「つまり、二千年前の魔王は前世でライルの叔父に当たる人物の記憶持ちだったという訳だな? 記憶持ちの魂は神によって浄化されずにそのまま持ち越す。前世で親族だったのなら、魂の気配が似ているのは分かる。それをこのバルドゥインは感じ取り、ライルに手を出さなかったのか」


 でも、俺は叔父さんではない。なのにどうして?


「貴方様の事は、王から聞いていた」


「えぇ、私もです。酒の席で必ずと言っていいほど、我が主の話をしておられましたよ。年に一回、正月に帰るとお年玉というものより旅の話を聞かせてくれと目を輝かせる甥が、可愛くて仕方なかったと…… 懐かしいですね。だからでしょうか、我が主と初めて会ったのに、ずっと前から知っていたような感じがありました」


 叔父さん…… 俺の事を覚えていてくれてたのか。


 親族から疎まれていた叔父さんだったけど、ゲイリッヒとバルドゥインを見て分かる。この世界ではこんなにも叔父さんを慕ってくれる人達がいたんだ。


 アンデッドという存在を作り、自身も魔王となってしまって最後は勇者に討たれるなんて結末になったが、それでも良い仲間達と家族に恵まれたようで何よりだよ。


「ゲイリッヒ、バルドゥイン。最後まで叔父を支え、力となってくれて、ありがとう」


 海外で叔父は、沢山の人達と出会ったと話してくれた。だからこの世界でも、きっと多くの人達と交流していただろう。それをこの二人は側で仕え、二千年経った今でもこうして慕ってくれている。そう思うと自然に感謝の気持ちが口から溢れた。


「そんな…… 私は偉大なる御方に救われた身。永遠の忠誠を誓うのは当然の事です。そして、その御方が前世で大切にされていた我が主に仕えるのも自然の流れ。これからも我が主の力となりましょう」


 ゲイリッヒが大袈裟にその場で跪くと、今度はバルドゥインが口を開く。


「このバルドゥイン。貴方様を王とし、全てを捧げると誓う。新たなる王の牙として、立ちはだかる敵を排除する。この力と体、俺の全ては王のもの。存分にお使いください」


 えっと、それは…… ゲイリッヒと同じように、バルドゥインも仲間になるって事で良いんだよな。


 ギルとアンネとムウナの三人とあれほど渡り合えるんだから、実力に文句はない。戦力が大幅に強化されて嬉しい反面、ちゃんと制御できるか心配だ。


「その…… よろしくお願いします。勝手な行動はせず、俺の指示に従ってほしいけど、大丈夫? 」


「王の命令に従うのは当然。そして、王の敵を一人残らず消すのもまた当然」


 こいつ、思考が危険過ぎるんだよな。マジで勝手な事はしないでくれよ? 叔父さんはどうやって制御してたのだろうか、教えて貰いたいね。



「ムウナに加えてバルドゥインまでも受け入れるか…… 我としては複雑な気分だ」


「それは此方も同じこと。まさか、ギルディエンテが王の僕になっているとは、思いもしなかった」


「おい、我は僕になった訳ではなく、ライルとは同等な立場である。そこは間違えるな」


 かつて敵同士だったが為に、先程まで本気の殺し合いをしていたので、お互い気不味いようだ。


「じゃあ、何であたし達は戦ってたのよ。味方なら早く言ってよね」


「お前達こそ、早くに王の僕だと言っていれば、無駄な力を使わずに済んだ」


「はぁ? あんたが先に襲って来たんでしょうが! 」


「それは違う。先に手を出してきたのはお前達だ」


 振り返って見れば確かに、ガーゴイルは倒していたが、俺達に手を出す雰囲気ではなかった。あのとき、俺に近付いて来たのは、側で跪こうのしていただけだったらしい。


 そこへエレミアの蛇腹剣が伸び、魔力収納からギルが姿を表し、手に持っていた大剣で腕を斬り落とされてしまったら、敵として見られても文句は言えないな。



「それで、ライル。この先どうする? 私達は謎の魔物について調査をしに来た訳だけど、どう報告するの? 」


 そこなんだよ、エレミア。バルドゥインは倒したとか言って誤魔化すつもりだけど、ギル達をどうエルマンに説明するかが問題だ。


「王よ、あの人間の事でお悩みか? ならばご命令を、王を悩ます不届き者は、殺せばいい」


「駄目に決まってるだろ。バルドゥインは俺の指示があるまで絶対に魔力収納から出てくるなよ」


「御意に」


 真顔でさらっと恐ろしい事を言いやがる…… マジでこの先不安だ。


「ご安心を、我が主。バルドゥインは命令を忠実に守り、命令であればどんな事でも遂行するので、そこは信頼出来ます。その証拠に見てください。あれからずっと跪いたまま動こうとしません」


 そういえば、仲間に手を出すなと言ってそのままだったな。さっきからずっと跪いて喋ってる様子は、異常を通り越して滑稽にさえ思える。


 とにかく、バルドゥインは命令であれば大人しくしてるんだな? なら暫く魔力収納でまた眠ってて貰おう。なんか、一般冒険者とか敵と見なして、勝手に殺してしまいかねない危険性がある。


 これはムウナより扱いが難しそうだ。手加減なんて知らなそうだし、下手な命令を下せば余計な被害が出てしまう恐れがある。


「ゲイリッヒ、バルドゥインをどう扱えば良いのか教えて貰えないかな? 」


「お任せ下さい。当時のバルドゥインがどう扱われていたか、お教えいたしますので、是非ともご参考にして頂ければと思います」


 三人いるという最古のヴァンパイアの中で、最初に出会ったのがゲイリッヒで良かったよ。

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