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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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 突如として現れたこの男。困った事にこれといった特徴がなく、顔と服装も地味でやたらと影が薄い印象を受ける。何というか、記憶に残りづらいんだよな。村や町にこの男がいたとしても、特別目には止まらないだろう。それほど何処にでもいるような者に見える。



「さてと、大体の予想は出来るが一応聞いとく。あんたらは誰で、ここへは何の用で来た? あぁ、迷ったなんて言うなよ? お前らが縄張りに入った時から、ずっと監視してたからな」


 ずっと見張っていただって? そんな魔力は視えなかったぞ。今は男の魔力は視えているが、これを完全に消す事が出来るのなら厄介極まりない。


「お前こそ何者だ! ここで一体何をしている!! 」


 冒険者のリーダーが不安からか、威圧的な態度で声を荒らげる。


「おいおい、会話も出来ねぇのかよ…… 質問を質問で返すんじゃねぇよ! 殺すぞゴォラァ!! 」


 突然当てられた殺気に、冒険者達とエルマンが一歩後ずさる。かくいう俺も情けないが彼等と同じ反応を示す。微動だにしなかったのは、この場ではエレミアとゲイリッヒだけ。


『まったく、情けないぞライル。あの程度の殺気、魔王のと比べれば子供の威嚇と同じではないか。いい加減慣れたらどうだ? 』


 魔力収納内にいるギルに呆れられてしまった。だってしょうがないだろ? 怖いもんは怖いんだからさ。


 それより怒らせてしまったようだけど、どうするよ? これ以上機嫌を損なわれても面倒だし、こいつから色々と情報を引き出したいところではある。


 どうやって会話を続けさせるかと思案していると、エルマンが俺達の前に出ていく。


「初めまして、私はエルマンと申します。見ての通りしがない商人でございますよ。この近くの村に住む者達から、得体の知れない魔物が彷徨くようになって困っているとの相談を受けましてね。こうして調査をしに来たといった次第です」


「ふぅん、嘘は言ってないようだな。ったく、別に危害も加えてねぇってのに、面倒くせぇよな人間ってのはさ」


 まるで自分が人間では無い口振りだが、魔力の視える俺には分かる。あれは人間ではない。じゃあ何だと問われたら答えられないけども。


「では、次は此方の質問に答えて貰えますか? あの魔物達を操っているのは貴方ですか? 何が目的であんな事を? 」


「あぁ、ガーゴイル共に指示をしているのは俺だ。いや、正確には俺達と言うべきかな? 」


 ()()? その言葉を聞いて俺と冒険者は辺りを慌てて見回す。すると木の上から二つの影が男の側に下りてきた。


「ねぇ? せっかく隠れてんのに、どうしてそういう事言っちゃうかなぁ? これじゃ、警戒されて隠れてる意味がないじゃない」


「ふぅ…… その口の軽さをいい加減に直したらどうだ? お前が喋ると不利益しか生じないな」


 新たに姿を見せた男と女が最初の男性を挟むようにしては文句を言う。この二人も初めの男と一緒で、地味で影が薄い印象を受ける。


 まただ…… また魔力が視えなかった。くそ、本当にどうなってるんだ?


『ライル、あいつらの魔力は視える? 』


『今はね。だけど、隠れている時は何も視えなかったよ』


『そう…… 私の義眼でも魔力を捉えられなかったわ。どういう仕組みなのかしらね』


 魔力念話でエレミアと話しながらも、視線はあの三人から離さない。冒険者達は他にもいないかと忙しなく目だけを動かして警戒しているようだった。


「まぁ、そう言うなよ。相手はこれだけなんだし、そんなに身構える必要ねぇよ。えっと、何だっけ? そうそう、目的だったか? 簡単に言えば探し物だな。何をと聞かれたら返答に困るけどよ」


「答えたくないという訳ですか? 」


 そのエルマンの問いに言葉を返したのは、さっき現れた女だった。


「私達も知らないのよ。ただ、ここら辺に強大な魔力を持った何かが埋まってるから掘り出せって言われてるだけだし」


「それを命令している者は、もしかしてカーミラという名ですか? 」


 今度はもう一人の男が答える。


「そうだ。我々に力を授けてくれたお方で、我等の主人でもある。誰であろうと主人の邪魔はさせん。例えそれが神だとしてもな」


「おい、落ち着け。ダールグリフの野郎から目立った行動は控えるように、口酸っぱく言われてるのを忘れたか? 」


 その言葉に光明を見出したのか、冒険者のリーダーが口を開く。


「なら、見逃してくれないか? ここで見たことは誰にも言わないからよ。同じ人間の(よしみ)で頼むぜ」


 それを聞いた三人の男女は、ポカンとした表情を浮かべては笑い出した。そりゃそうだ、あいつらは見た目人間にそっくりだが、中身は違う。魔力が視えない者にとっては区別がつかないだろうけど。


「いや、すまない。そうか、お前らには俺達が人間に見えるか。そりゃ上々だな」


「一体どういう意味です? 」


 彼等の反応に増々警戒を強めるエルマンに、三人の男女は不敵な笑みを浮かべる。


「それはな…… こういう意味だ! 」


 言葉を吐き終わると同時に、彼等の体が一回り膨れ上がり上着がビリビリと破れ始める。中から露となった肌からは濃い体毛が生え、地味で目立たない顔が大きく変化していく。それはまるで狼のようである。


 突然の事で呆気に取られていると、変身を終えた最初の男が名乗りを上げた。


「俺の名はウォルフ。カーミラ様のお力で、コボルトから “ウェアウルフ”へと新たに生まれ変わったのだ!! 」


 成る程、俺達の前には人間のように二足で佇む狼が三体。その出で立ちは確かに前世の世界で有名な人狼そのものだ。

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