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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第四幕】ゴーレムマスターと人魚族の憂鬱
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5

 

「準備完了っす! ガストールの兄貴!」


「良し、グリムは御者台に、俺とルベルトは馬車の中だ」


 ガストールに言われ御者台に乗り込むグリム、そして馬車に乗る二人を追い、俺達も後に続く。


「すいません。御者をしてもらって」


「あ? なに、気にすんな。道案内と護衛の依頼だからな、それに見張りも兼ねているから、こっちの都合でもあるしよ」


 全員が馬車に乗り、グリムが手綱を軽く振って馬車を進める。




「ライルの旦那はエレミアちゃんの眼のように、腕を直接着けねぇんすか?」


 町を出て暫くすると、木の腕の操作練習をしている俺を不思議そうに見詰めて、そんな事を聞いてきた。


「え? ああ、それはですね、着ける意味を見い出せなかったからです。腕を操るのにも魔力を使います、魔力を使って腕を操り物を持つより、魔力でその物を直接操った方が早くて効率的なんですよ」


「じゃあ何で今、木の腕を使ってるんすか?」


「俺は小さい頃、あまり他人と関わる事が無く、村を回っていた時も直ぐに出て行っていたので分かりませんでした。初めて気付いたのは、エルフの里の長老と出会い、握手を求められた時です。それに応えられなかった時の気不味い雰囲気は本当に申し訳ない気持ちで一杯でした。この腕は里のエルフが俺と握手をしたくて作ってくれたんです。それで分かったんですよ、俺自身そんなに必要とは思わなかったけど、相手には必要なんだなって。例えば、相手から何かを受け渡しをする時、突然物が勝手に動くと驚いてしまいますよね。でもこの木の腕を使う事によって、視覚的に分かりやすくなれば相手の警戒心も多少は薄れるんじゃないかと思うんです」


「へ~、腕が浮かぶのも驚きっすけど、そういう魔道具だと思うっすからね。でもさ、腕が無いのって見栄えが悪くないっすか?」


「馬鹿だなおめぇ、それがこいつの狙いなんだよ。いいか、初対面での印象ってのは見た目で決まるもんだ。人間や魔物でもな、こいつの収納スキルと魔力で物を操る力を知らなきゃ、大なり小なり必ず油断が生まれる。そこを突けば勝つ事は出来なくとも逃げる事は出来るだろうよ」


「ほ~、そんな意図があったんすか。以外と強かっすね!」


 ガストールが得意気に説明し、ルベルトが頻りに感心しているが、そんな意図はこれっぽっちもない。でも、そういう考えも出来るなと思わず唸ってしまった。


 見栄えね、そういうのも人それぞれ何だよな。全く気にしない人もいれば、こっちが何をしたって気に入らない人もいる。結局いつも通りの自分でいいやってなってしまうので、見栄えに関してはもう気にしない事にしている。


「しかしおめぇ、本当に見た目通りの歳か? 何だか歳の近い奴と話してる気がするぜ」


「あ~! それはオレっちも思ったっす! なんか歳上みたいな感じがするっす」


 まぁ、二人がそう感じてしまうのも仕方ない。前世と今世を合わせれば四十過ぎてるからね、最近は怒るのにも疲れてしまう。


「見た目通りの十五歳ですよ、そう言うお二人はいくつ何ですか?」


「オレっちは二十三っす!」


「俺は今年で二十八だ。グリムは三十になるな」


「私は二百五十五よ」


 エレミアが自分の歳を言うと、二人は同時にエレミアの方へ顔を向けた。


「さ、流石はエルフっすね」


「お、おう…… 大したもんだ」


 二人はよく分からない賛辞をエレミアに贈る。


『我は三千から数えておらぬな』


『わたしは五百が限界だったな~』


 ギルとアンネはもはや別次元だな、何千年も生きているなんて想像も出来ないよ。


 馬車は道なりに進むと木が生い茂っている場所に着いた。


「この林を抜けたらレインバーク領内になる。そこから、二つの村を越えた先が港湾都市インファネースだ」


 ガストールが言うには、この林を抜けるのに半日程掛かるらしい。夜の林の中は危険なので、今日は少し離れた場所で早めに休むことにした。


 日も暮れると、ガストールは魔法で指先に小さな火を灯し、集めた薪に火をつけた。


「今のは魔法ですよね? 薪で燃えている炎は魔力切れで消えないんですか?」


「あ? 確かに魔法で出した火は魔力が無くなれば消えるが、この炎は魔力で生み出した火じゃねぇから消えねぇよ。俺の魔法の火が燃え移ったんじゃなくて、俺の火がきっかけになってこの薪で新しい火が生まれたって訳だな」


 魔力で創った火で自然の火を誘発させたってことか。


「まぁ、魔法が使えねぇんじゃ、知らねぇのも無理はねぇな」


 その後、エレミアが作った料理を食べて一息付いていると、ガストール達三人は収納スキルの便利さとエレミアの料理に感嘆していた。


「まさか、野宿で旨いメシと酒にありつけるとは思っても見なかったな」


「そっすね~、エレミアちゃん可愛いし、こんなに楽しい依頼は初めてっすよ! ねぇ、グリムの兄貴」


「…………」


 グリムは少しだけ口角を上げ、酒を飲む。こいつ、全然喋らないな、まだ声を聞いてないぞ。


「見張りは俺達が交代でやっとくから、お前らは休んでていいぞ」


 お言葉に甘えて俺とエレミアは先に休ませて貰う事にした。広く作り直したテントでエレミアと横になる。


「信用して大丈夫かな? 寝ている間に襲ってきたりして」


 確かにエレミアの言う通り、その可能性も無いとは言いきれない。俺もそこはちゃんと考えてある。


「大丈夫だよ。クイーンに頼んで、ハニービィ達に周りを警戒してもらっているから」


「そう、何かあったら直ぐに起こしてね」


「ああ、分かった」


 俺達が眠りに就いてどれくらいだろうか、クイーンからの警告で俺は起こされた。


 ――危険!! 敵、接近中! ――


 直ぐに眼を覚まし起き上がると、テントの入り口にはガストールの姿があった。

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