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「なんと!? この国にそんな恐ろしい者が眠っているとは…… にわかに信じがたいですが、それを否定する材料もありません。取り合えず一度現地へ赴き、ライルさんにあの魔物を確認して頂きたい」
あ、やっぱり行かなきゃ駄目ですよね? こうなったら早く片付けて、バルドゥインに心地よい眠りを提供するしかない。
「王妃様からお預かりした書状はどうしたら? 貴方にお渡しした方がいいですか? 」
「いえ、ライルさんが持ってて下さって結構ですよ。魔物を確認した後、首都へ向かいますので、その時にライルさんの方から元首へお渡しする形になります」
え? 俺が渡すの?
「そう心配なさらずとも大丈夫ですよ。その書状は王妃様の使者という証明にもなりますので、向こうもライルさんを無下に出来ない筈です。それに私はこの国の商人ですので、それを持つ訳にはいかないのですよ」
あくまで自分は共和国の一員であると、それが他国の王妃様からの書状を持っていたら不自然だ。諜報員であることが露呈してしまう恐れがあるからね。
「分かりました。今後の流れは、例の魔物を確認し、書状を届けに首都へ行く―― で良いですね? 」
「はい。書状を渡す際に、魔物の正体を元首に報告して対応して貰うようお願いする予定です。もしライルさんの仰った事が事実なら、国として無視できない案件ですので」
そうだよな。下手したら共和国が魔王の進軍を待たずして滅びてしまうかも知れない。寝起きが悪いという理由で潰されたなんて、向こうからしたらたまったものではない。
今後の予定を話し合っていたら、窓からコンコンと叩く音が聞こえてくる。
鳥だ…… 鳩ぐらいの大きさの鳥が窓をつついている。
「おっと、少し失礼しますね。仲間からの報告が来たみたいです」
エルマンは窓を開けてその鳥を腕に乗せると、何やら魔力を鳥へ流している。すると、鳥が嘴を大きく開き、中から筒状に丸まった紙が出てきた。
「その鳥はゴーレムですか? 」
「シャロットさんの友人なだけあって、やっぱり分かりますか。そうです、これは私達が連絡手段に用いているゴーレムです。この指輪と連動していますので、何処にいてもこうして飛んでくる仕掛けになっています。学生時代のシャロットさんが課題で作ったらしく、それを王妃様がいたく気に入り即採用なされました。常々王妃様は情報の速さと正確さの重要性を説いてきていたのですが、中々理解して貰えず悩んでおられたところにシャロットさんのこの発明です。その時の王妃様の喜びようと言ったら、まるで年若い乙女のようでしたよ。それからトントン拍子でシャロットさんとコルタス殿下のご婚約が決まったのは、押して図るべしですね」
なるほど、それが王妃様に気に入られた切っ掛けか。しかし、学生時代から色々とやらかしているようだな、シャロット。
紙を広げて読むエルマンは何度も頷き、成る程と呟く。何が書いてあるのか気になったのでそっと後ろから覗いて見たけど、何か良く分からない記号の羅列が書いてあるだけでサッパリだった。
「エルマンさん。それは文字なのですか? 」
「これは文字ではなく私達だけが使う暗号です。様々な単語を一つの記号で表しているので、こんな小さな紙でも十分な報告が出来るのですよ」
それを全部暗記しているなんて、流石はプロの諜報員だ。俺だったら絶対に無理だね。
「…… どうやら南へ進軍している魔王軍はシュタット王国に向かっているみたいです。それに伴い、シュタット王国は冒険者を集い、前線を張るようです。他の国も支援する動きが見られますね。リラグンド王国からはゴーレム兵を送るようです」
「ゴーレム兵、ですか? 魔術師が不足しているこの状況で良くそんな余裕がありますね」
「いえ、魔術師は国からは出さないようです。ここに書いてあるのが確かなら、転移魔術を応用して直接前線に送り込み、現地の魔術師に操作させるようです。それには一度直接現地へ向かって転移座標を設定しなければなりませんので、何人かシュタット王国に行かなければなりません。そしてその役に名乗りを上げたのが勇者候補のクレスさん達です。軍の技術開発主任であるヘングリッドさんと共に先日王都から出立したと書いてあります」
遂にクレスが動いたか。もし駄目だと言われても冒険者としてその戦争に参加するつもりだったな? それが分かっているから国はクレスを止められなかったのだろう。
「あの、もう一人の勇者候補は? 彼もクレスさん達と付いて行ったのですか? 」
「アランさんの事ですね? 彼は国に残るそうですよ。流石に勇者候補を全員国から出すつもりはないみたいですね。因みに、ここトルニクスからは水の属性神から選ばれた勇者候補が、義勇兵を募ってシュタット王国へと向かいました」
おっと、ここの勇者候補とは入れ違いになってしまったか。だけど、シュタット王国の前線でクレスと会うかも知れないし、これで繋がりが出来たとも言えるな。後は風と土と闇の勇者候補三人か…… 道のりは長そうだ。




