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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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 インファネースを出て、約一週間。長いようで短い旅、そう思えるのは他の人達よりもずっと恵まれている環境で旅が出来ているからだろう。身の安全、家にいる時と遜色の無い食事、フカフカのベッド。これはもう旅というより旅行ツアーに参加している感じだ。


 それもこれも頼もしい仲間達と神から授かった魔力支配のお陰で、何れも自分の力ではない。有り難いとは思うけど、何一つとして己の力で何かを成し遂げたって感じがしないんだよな。オルトンやアグネーゼのような教会の人達に、調停者だなんだと持ち上げられてもちっとも嬉しくない。逆に申し訳ない気持ちになる。自分でも分かってるんだ、俺がそんな立派な人間じゃないって事がさ。本当になんで俺なんかを選んだのかね?


 馬車の窓から少しだけ顔を出して、目的地の一つである国境近くの町を眺めつつ、これ迄の旅路を思い返す。

  ハハ、俺、この旅で何かしたっけ? ほぼなんにもしてないような…… ふぅ、これだからお腹周りに余分な肉がつくんだよ。エレミアが呆れるのも頷けるな。


「ライル、いくら中が暖かくても窓を開けてたら冷たい空気が入ってくるわ。そろそろ閉めないと風邪をひくわよ」


 窓から入ってくる冬の風に、ぶるりと体を震わせるエレミア。ずっと温暖な森に住んでいたからなのか、寒いのは苦手な様子。


 俺は魔力で木製の義手を操り窓を閉める。この腕も結構使い込んだな。里にいたエルフから貰った、肘から先を木材で作った義手。エルフ特製の薬を染み込ませて自然乾燥することで、其処らの鉄よりずっと頑丈で鉄製品と比べれば軽く、まだまだ壊れる気配もない。


 これを作ってくれたエルフの青年には今度何か別の礼をしないとな。いや、もう立派な大人だったか? エルフは人間と違って見た目で年齢がある程度予想出来ないので困る。


「これだけ長く使ってくれてるのだから、彼も満足しているわ。それより、前々から思ったんだけど…… なんで私の義眼のように肉体に装着しないの? 」


 エレミアは、俺が魔力で義手を浮かせて操作しているのに疑問に感じていたようだ。


「ガストールさん達を初めて雇った時に答えた通り、商談相手に分かりやすく動きを見せる為―― ってのは建前で、はっきり言うと面倒臭いからかな? 俺の顔半分が酷い火傷痕のようになっているのは、どうしたって隠しきれないからさ。もういっその事全部堂々と曝け出してしまおうと思ったのが本音かな。それに、コルタス殿下も忠告してくれたように、人の見極めにも使えるからね」


「ふぅん。貴方がそれで良いのなら私は何も言わないけど、もしライルを必要以上に馬鹿にするような奴がいたら…… 斬っても良い? 」


 駄目に決まってんだろ。真面目なトーンで何を物騒な事を口走ってるんだか。まったく、エルフは信頼出来るし好きだけど、こういう所が玉に瑕なんだよな。



『あの羽虫共を信奉するような者達だぞ? まともな訳があるまい』


『おぅおぅ、それは聞き捨てならねぇな! あたし達は自由主義者なの。気に入らない奴がいたらぶっ飛ばすのは当然でしょ? 』


『何が自由主義者だ。自分勝手な我が儘で周りに迷惑を掛けているだけだろう? 』


『それが妖精ってもんよ! 文句がある奴はかかってこいやー!! 』


 考え方はあれだけど、こうも自信満々に言われると清々しいものがあるね。何を言っても無駄だと思ったのか、ギルは静かにアンネから離れて、まだグラスに残っているウィスキーの飲む。


『ムウナも、ライルいじめるやつ、ゆるさない。かかってこいやー 』


 やべっ…… どうすんだよ、ムウナが変な所でアンネと同調しちゃったじゃないか! ムウナが魔力収納に住み始めた頃から、何かとアンネと一緒にいる事が多かったからな。最近変な言葉も覚えて使うようになったし、もしかして徐々にアンネ寄りな思考になっていってるのでは? だとしたら洒落にならない。


 そんなムウナの変化に戦々恐々としつつも、馬車は町の門まで進んでいく。


 門番に旅の目的と身分証明となるギルドカードを見せ、馬車の中を軽く調べられた後、無事に町へと入る事を許可してくれた。その際に空間魔術で拡張された馬車の内部を見て驚いていたのは言うまでもない。


 門を抜けた先で目に入ったのは、広い畑がずらりと並んでいる光景だった。流石は農業が盛んな国と言われるだけのことはある。この時期だと、キャベツや芋類、人参に大根なんかも冬の野菜だったか?

 せっかくだから、ここの野菜を幾つか買って魔力収納でアルラウネ達が育てた物と食べ比べてみたいな。


『では、お手並み拝見といきましょう。なに、この素晴らしい地で私達が丹精込めて育てた野菜が負ける筈はありませんが』


 何かアルラウネ達が妙に気合いが入っているような…… もしかして、彼女達のプライドを刺激してしまったか?



「行き先は商業ギルドで宜しいですか? 」


「はい、何はともあれ先ずはここのギルドに挨拶はしておかないと。後から文句でも言われたら嫌だからね」


「ご安心を、もしそのような事をなりましたなら、私がその愚か者の血を全部吸い取ってご覧に入れましょう」


 ゲイリッヒ、お前もか…… ちっとも安心じゃない。


『皆さん、ライル様のご迷惑にならないよう、節度ある言動をお願い致します』


 普通の事を言っているだけなのに、これ程ホッとする言葉はない。この中でまともなのはアグネーゼだけだよ。

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