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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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15

 

 さてと、サハギン達が目覚めるまで暇になりそうだな―― なんて考えていた数分前の俺に文句を言ってやりたいよ。


「これは…… 成る程、これでは漁どころではありませんね。まさかここまでとは」


「アルクス殿、もっとお下がりを。じぶんが結界魔法で船を守っているといっても、完全に安全とは限りません」


 オルトンに注意されたアルクス先生が申し訳なさそうに海側から少し離れる。だがつい船の端に寄ってしまう気持ちは分かるよ。


 今俺達が見ている方向から、肉眼で確認出来るだけでも三匹のシーサーペントがこの船に向かって突進して来ているのだから。流石の人魚達もこれには緊張を隠しきれていない様子。


 船の乗組員と船長も大慌てでシーサーペントから逃げる準備をしている。しかし、この船の速度では振り切ることは無理そうだ。ここは腹を括って撃退するしかない。


 長く巨大な肉体が時折海面から見え、ウネウネと泳ぎながら近付いてくる。その周りに他の魔力も視えているが、あれはサハギンのものだな。


 魔王の支配、これは思ってたよりずっと厄介なものだった。周囲にいた魔物達が一斉に引き寄せられるかのように、敵意を露にして集まってくる。これじゃ魚が獲れなくなるのも納得だよ。



「ふぅ、サハギンの個体数を予想すれば、このような事態になるのは容易に想像出来た筈でしたのに…… これは失念していました」


 アルクス先生が後悔しているように、繁殖力が強いという事はサハギンの絶対数が多いという事。それに加えて臆病な性質を持つ彼等が今捕らえた数匹だけで行動するなんて考えにくい。


 この数匹を捕らえた時点で直ぐにこの場から離れていれば、他のサハギンやシーサーペントに見付からずに済んだかも知れない。


「まぁ、見つかったものはしょうがないわ。向かって来るのなら全部仕留めるだけよ」


「へへん! ちょうどデカイやつを相手にこのゴーレムの性能を試してみたいと思ってたのよね! 」


「船と乗員達はじぶんにお任せください」


 エレミア、アンネ、オルトンのやる気に続き、人魚達もサハギンを迎撃する為に船から海に飛び込んでいく。


 問題はシーサーペントだな。あんなのが好き勝手に暴れられたんじゃ、船が転覆してしまう恐れがある。そうなる前に早く倒したいところではあるが、人魚達もシーサーペント一匹仕留めるのに苦戦を強いられると言っていたし、周囲に群がるサハギンも数だけはいるので、そっちで手一杯になりそうだ。


「エレミア、アンネ。サハギン達は人魚に任せて、先にシーサーペントをどうにか出来ないかな? 」


「海に潜りっぱなしじゃ、私にはどうにも出来ないわね。頭だけでも海面から出してくれれば、雷魔法をぶつけてやれるのに」


「あたしが海中から引き摺り上げてやろっか? そこをエレミアの魔法で、ドーン! と一発かましてやればいいのよ! 」


 だいたいの方針が固まり、アンネが搭乗している赤いゴーレムが再び海へとダイブする。


 船の真下では人魚とサハギンの激しい戦闘が繰り広げられているのが魔力を視て分かる。数ではこちらが劣っているが、一匹の強さはそれほどでもないようで、特に危なげもなく人魚達はサハギンを槍で捌いている。



「あっ、これは不味いですよ」


 船に近付く前に、シーサーペントが海から顔を出しては大きく口を開くのを見て、アルクス先生の表情が引き攣った。


「や、やばい!? シーサーペントの水ブレスが来るぞ!! 」


 船長の叫びで乗組員達が慌てふためいている間にも、シーサーペントの口に魔力が集まっているのが視える。そして大音量の咆哮に乗せて大量の水がシーサーペントの口から放たれた。


 その圧倒的な水量は、消防車の放水なんか水鉄砲のように感じてしまう程だ。こんなのを直撃したら、この船は間違いなくバラバラに吹き飛ばされてしまうだろう。


「ライル様! ここはじぶんに!! 」


 オルトンは両腕を前に突き出し、発動させた結界魔法でシーサーペントのブレスを受けきった。水ブレスの勢いと結界に衝突した反動で海は波打ち、船は大きく揺れる。


 うっ、流石にこんな揺れまくってたらちょっと気持ち悪くなってくるな。船酔いしそうだよ、確かエレミアが前に作ってた酔い治しの薬がまだ残ってと思うけど、どこに仕舞ったかな?


『我が主よ、その薬とはこれの事ではありませんか? 』


『あぁ、それだ。ありがとう、ゲイリッヒ』


 液体ではなく、保存の利く錠剤タイプの薬を一つ飲んでは一息つく。


「大丈夫? 攻撃が来る前に魔法をぶつけたかったけど、船から離れすぎていて届きそうもなかったの」


 エレミアの魔法射程外だったのか…… それなら仕方ない。アンネは何をしてるんだ? と思ったが、どうやら予想以上にサハギンが多くて時間が掛かっているようだ。今ようやっとアンネが乗っているゴーレムがシーサーペントに近付いた。


『ぬぉぉぉ!! エレミア、今そっちに持ってくから魔法の用意しながら待ってなさいよ!! 』


『了解です、アンネ様』


 おぉ! ゴーレムがシーサーペントのエラに腕を突っ込んではこっちに引っ張って来てる。いくら海中とはいえ、あれだけの体格差をものともしないとは、流石はシャロットが作ったゴーレムだ。


 ゴーレムの背中にあるスクリューの回転が速まり、シーサーペントの頭ごと一気に海面から飛び出す。


『今だ! やっちゃいな!! 』


 アンネの合図を切っ掛けに、エレミアの雷魔法によって発生した落雷がシーサーペントの頭部を穿つ。効果は覿面で、シーサーペントの意識は消失したのか海の底へと沈んでいった。


『よっしゃ! あと二匹!! ちゃっちゃと片付けるよ! 』


 いやに張り切っているな。う~ん、アンネがはしゃいでいる様子を見ていると、何処か不安を覚えてしまうのは何故だろう?

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