表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
569/812

14

 

 翌朝。本当に魔王の支配から魔物を一時的に解き放てるのか調査する為、俺達は港でアルクス先生と落ち合った。


「おはようございます。今日はよろしくお願いしますよ」


「おはようございます、アルクス先生。此方こそよろしくお願いいたします」


「船と乗組員はこの通りヘバックさんからお借りしました。ついでに護衛として人魚も数人雇っています」


 アルクス先生が借りた漁船の船長と乗組員、それと護衛の人魚達に挨拶をして早速船に乗り込んで出港する。


 陸がだいぶ離れたところで、アルクス先生が俺の隣にいる人物へと話し掛けた。


「貴方とは初めてですよね? 僕はアルクスと言います。どうぞよろしく」


「あぁ、ライル様から貴殿についてはお聞きしております。魔術の先生をしていらしているとか…… じぶんはオルトンと申します。ライル様の盾となるべく聖教国から来ました神官騎士であります! 」


 そう、今回はエレミアだけでなくオルトンも一緒だ。ライル様が危険な海に出るというのなら、お守りする盾は必要であります! と強引についてきた。それともう一人……


「いや~、海に出るのは久しぶりだね~。フフフ、あたしのゴーレムで海の魔物なんかけちょんけちょんにしてやんよ! 」


 船の上で佇むゴーレムの中からアンネの意気揚々とした声が聞こえてくる。シャロットから新しく作って貰ったアンネ専用のゴーレムをお披露目する機会が出来て上機嫌な様子だ。


「アンネ、分かっているとは思うけど、今回は魔物を倒すのが目的じゃない。魔王の支配力についての実験なんだから、あまり派手に暴れるなよ? 」


「分かってるわよ。適当に襲ってきた奴を取っ捕まえれば良いんでしょ? フフフ、あたしのゴーレムは水陸両用。海の中でもどんとこいよ!! 」


 そう言って、腕を突き出してブイサインをするゴーレムの真っ赤なボディが日の光を反射して眩しく輝く。シャロット曰く、専用機と言ったら赤い色は外せないとの事。何か通常の三倍は速そうだね。



「それで、いったいどうやって検証するつもりなの? 」


「それはですね、エレミアさん。凶暴化しているという魔物を捕獲してライル君の魔力支配で魔物の周囲を魔力で包み、中と外にあるマナの流れを遮断します。ギルさんの言うように、魔王の支配力がマナを伝って影響を及ぼしているのなら、それで魔物は正気に戻る筈です。それを実証してから、詳しくその仕組みを解析し、魔道具に応用するつもりです」


 その捕らえる魔物は何でも良い。今の状況ではこうして海に出ているだけで勝手に向こうから襲いにやって来るので、俺達は適当な位置で船を止めてただ待っているだけでいい。



 そうして暫く待っていると、海の中から複数の魔力がこちらへ向かって来ているのが視える。どうやら魔物達がこの船を発見したようだ。


 先ずは護衛の人魚達に海中で迎え撃ってもらい、弱らせたところで俺の魔力支配の力で捕獲する流れなのだが……


「来た来たぁ! 圧倒的な力って奴を見せてやろうじゃない!! 」


 アンネの操縦しているゴーレムが勢い良く踏み込んでは、海へとダイブする。その反動で船は大きく揺れ、激しい水しぶきが上がった。


 魔力を視てみると、海の中でゴーレムが魔物相手に暴れまわり、人魚達が戸惑う姿が確認出来る。おいおい、新しいオモチャを与えられた子供じゃないんだから、もっと廻りに気を配って欲しいものだね。人魚達もどう動いて良いのか困っているぞ。


『これだから羽虫共は好かんのだ。己の欲にばかり熱中し周囲を顧みない。迷惑極まりない存在だ。何故そのような者達にマナの管理などという重要な役目を任せられたのか…… あの御方を疑う訳ではないが、つい疑問を抱いてしまう』


 楽しそうに魔物相手に無双するアンネを見ては、深い溜め息と共にギルが胸の内を吐露する。



「ほいほいっと、捕まえてきたよ。これで良いっしょ? 」


 船に上がって来たアンネが、捕まえてきた魔物を数匹、甲板に投げ捨てる。可哀想に、散々アンネにやられて魔物もぐったりしてピクピクと痙攣しているよ。これで実験なんか出来るのだろうか?


「これはサハギンですね。海の魔物の代名詞みたいなもので、繁殖力も強く、数が多い。しかし、本来は臆病な性格でそんなに好戦的ではない筈なのに…… これが魔王の影響ですか」


 目の前で虫の息となっているのはサハギンと呼ばれる魔物で、魚の頭部を持ち、人間に似た体と手足が生えている。人魚の逆バージョンと言えば分かりやすいが、体中にはビッシリと鱗が生え、手足には水掻き、そして腰から魚の尾が伸びている。


 この姿から想像出来るように、人魚と違って完全な水棲生物であり、肺ではなくエラ呼吸だ。よって今船の甲板にいる彼等はまともに呼吸が出来ない状況にある。なので人魚達に魔法で海の水を操り、即席で水槽のようはものを用意してもらった。


 船の上で浮かぶ水球の中に捕らえられたサハギン達の意識はまだ戻らない。今の内に俺の魔力で周囲を囲み、マナの流れを遮断するまではいいが、目覚めないことには結果が分からないな。


「この様子では時間が掛かりそうですね」


「えへへ、肉弾戦って初めてだったから楽しくなっちゃって、つい…… ね? 」


 ね? じゃないよ。取り合えずこのままじゃ死んでしまいそうなので、回復薬を水球の中に混ぜておく。これで少しは元気になるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ