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翌日。店を母さん達に任せ、俺とエレミアの二人でアルクス先生を訪ねに領主の敷地内へと足を運ぶ。
一応、南商店街の代表という立場なので顔パスで門を通り、馬車は館とは違う方向へひた走る。
綺麗に整備されたコンクリートの道は走りやすく揺れも小さくて快適だ。是非とも大陸中にこの道路を敷いて欲しいものだよ。等と考え広い敷地内を進んでいると、遠くに見えていた建物に到着する。
研究施設と言うように、これもまた頑丈そうな建物だな。話は伝わっているのか、特に止められる事もなく中へ入るとすぐにアルクス先生とシャロットの出迎えが待っていた。
「ようこそ! わたくし達の研究所へ!! お待ちしておりましたわ。ささ、存分にご案内致しますわよ! 」
やたらテンションの高いシャロットに思わず一歩後退してしまったよ。
「いや、別に見学で来た訳では…… 」
「君にここを紹介したくてたまらなかったんだろうね。今までシャロット君は迷惑になるかもと遠慮していたんだ。だから少しだけ付き合ってくれないかな? 」
戸惑う俺に、アルクス先生がスッと近寄っては小声で話し掛けてくる。
成る程、同じ記憶持ちである仲間に自分の作ったロボットを自慢したくて仕方かなかったんだね。それなら何時でも誘ってくれて良かったのに、変な所で気を使うというか遠慮してしまうのは俺と同じだな。
「何をしておりますの? 見て頂きたい物が沢山ございますので、早速参りますわよ! 」
張り切って歩き出すシャロットに、俺達三人はお互いに顔を見合わせ、苦笑しつつ後を追うのだった。
この研究所は宿泊施設も兼ねているようで、食堂に売店、大浴場まで完備されていて外に出る必要がない。きっと所員達はここにずっと缶詰状態で日夜研究に励んでいる事だろう。快適そうだけど、たまには外で飲みに行きたいとは思わないのかな? 俺だったら一週間でギブアップする自信があるね。
「さぁ! ここがメインのゴーレム作製室ですわ!! 」
厳重に魔術的な鍵が施された扉の先には、作りかけのゴーレム達が壁に沿って並んでいた。
「おぉ…… これは凄いね。でも、思ったよりゴーレムの数が少ないかな? 」
「それは仕方ありませんわ。此処にいらっしゃる魔術師の方々が、ご自分のゴーレムを持ち出して町や村の警備に出ておりますもの。今あるのは作製途中の物ばかりですわ」
言われてみれば所員である魔術師の姿もあまり見掛けなかったな。シャロットの説明を聞きながらゴーレムを見て回るが、半分以上理解出来なかったよ。せめて専門用語を使うのは控えめにお願いします。
嬉々として解説するシャロットにどうにかついていくと、二メートルは軽く越えているゴーレムが一体、此方へ歩いて来る。良くみれば側に妖精の姿もあるな。
「シャロット~、今日はテスト運転しなくても良いの? 」
「ごきげんよう、ポックルさん。せっかく来て頂いたのに申し訳ありませんが、ご覧の通り人もゴーレムも少ないので、今日はテストをする必要がありませんの」
「えぇ~…… なんか最近ゴーレムもあまり作ってないし、つまんない! 」
ポックルと呼ばれた妖精が不機嫌を露にし、それをシャロットが宥めているのを何とはなしに眺めていたら、ふいに俺と妖精の目が合ってしまった。
「あれ? あんた確か、女王様んとこの人間じゃん。ここで何してんの? 」
「えっと…… 施設見学、かな? 」
「へぇ、そうなんだ。あたしも最初はそんなに興味無かったんだけど、遊びに来ているうちにすっかりはまっちゃったよ! シャロットの作るゴーレムの造形は見事だね! 見てよこの綺麗なフォルム…… へへ、たまらねぇぜ」
ポックルは隣にいるゴーレムを見ては涎を拭うしぐさをする。おい、完全に変態みたいになっちまってるじゃないか。いったい何をどうしたらそこまでになるんだ?
「あ、あら? わたくしは何もしておりませんよ? ただほんの少し、ゴーレムの魅力について語り聞かせただけですわ」
胡乱げな視線を向ける俺から目をそらすシャロット。その様子じゃガッツリと自分と同じ世界に引き込んだな? ポックルのゴーレムを見る目が尋常ではないぞ。
「うん? というかこのゴーレムって、もしかしてシュバリエ? 」
「気付きませんでしたの? まぁ、あれから改良を重ねておりますので無理もありませんが」
見た目がかなりシャープになってるからすぐに分からなかったよ。体格も前よりスリムになっていて、何か某アニメの人型汎用決戦兵器に似てなくもない。
あまりにもお久しぶりだったのでつい癖で軽く会釈をすると、自然な動作で返してきた。シャロットが操作している感じでもないし、さっきもポックルと一緒に歩いて来てたな。
「言葉までは話せませんが、完全自律型に成功致しました。とは言っても、大昔の理論を再現したに過ぎませんけど」
あぁ…… 自動人形であるアイリスがいた島から持ち出した研究資料を参考にしたのか。
「シュバリエの制御核には、アイリスさんと同じ術式が刻まれております。漸くここまで来ましたわ…… 彼女が託してくれたこの技術、無駄にはしたくありませんもの」
そう言って優しくシュバリエを撫でるシャロットの顔は、何処か物憂げであった。




